知りたい
…怖い。
今、一体なにが起きたの。
一瞬意識飛んでた?そんなまさか。だって、それならウトウトしたりとかなにか前兆があるはず。
そんなの、なんにもなかったのに…。
不気味に思ってなにも言えないでいると、布施は何かに気付いたように表情を緩めた。
「ああ、そんなに怯える必要はないですよ。ただ、協力者ができた、と思っていただければ。」
「協力者…」
「はい。」
そう言いながら布施が私の左手に手を伸ばしてきたので、反射的に叩き落とした。
「あら」
「触んないでくれません?訴えますよ。」
「あら、これはすみません。そうですね…それなら、お詫びに有益な情報を差し上げましょうか。」
「情報?」
布施はそう言うと自身の耳をとんとんと指し示した。
「皆さんが普段付けている通信端末___あれは皆さんの端末を通してデータの収集と監視をするための物なのですよ。」
監視…
「ばっくどあ、ですか?誰に?」
私がそう返すと布施は意外そうに目を瞬かせてまた微笑んだ。
「なんだ、ご存知でしたか。どうして気付いたのですか?」
「…秘密です。」
私は教えてもらっただけだから、どうやって気付いたかなんて平里しか知らない。だけど、そのことを知られるわけにはいかない。
だから、言わない。言っちゃダメ。
それにしても監視って穏やかじゃないよね。
あの通信端末をちょっと触った感じ、現代的には昔でいうところの『携帯電話』、の『スマホ』あたりに位置する機械なんだろう。
ってことはそれなりの人々が常時持ち歩いているだろうし、それを通して監視しているのなら監視カメラいらずで、もっと高い精度で個人個人の行動を観測できる。
…よくできたシステムだなあ。
便利であればあるほど、誰も彼もがあの小さな機械に依存する。依存すればするほど手放せなくなる。
何となく監視者の見当は付いているけれど、確たる証拠も確信もない。だから私は真っ直ぐに跪いたままの布施の瞳を見つめた。
「それで?監視してるのは誰なんですか?」
「…あなたもご存知なのでは?魔導学園、ですよ。」
「そ、う…ですか。」
でしょうね。
動揺したように言葉は詰まっても、頭の中は冷静だった。
と、なると…平里の『権能を使うな』、の言葉の意味は…
魔導学園に監視されてるから、『権能を使えるとバレると何らかの危険がある』可能性が高いから使うな、ってとこかな。
高梨の言っていた情報の消失の件もだし、この千年の間でなにがあったんだろう。
…この人のことを信用できたわけじゃない。
でも、私には情報が必要だ。
「布施さん。」
「はい。なんでしょうか。」
「『権能』___もしくは『陰陽師』。
この2つの単語に聞き覚えはありますか?」
そう尋ねた瞬間、布施の穏やかな笑顔が剥がれた気がしたのは、気のせいじゃないのだろう。
だって___
「『陰陽師』…ええ、はい。知っていますよ。」
嬉しそうで、なのに悲しそうで。
この問いを待ち望んでいたかのような声で。
布施は藍色の瞳を歪に細めたのだから。
***
___『陰陽師』。
数百人に一人程度の確率で生まれる…と言われている異能者。
そんな異能者は、大きく二つの属性に分けられる。
ひとつは魔導具や詠唱により魔力を消費して事象を引き起こす『魔導師』。
そしてもうひとつが、その身に宿る『権能』や霊符を用いて霊力を消費して事象を引き起こす『陰陽師』だ。
多少の差異はあるものの、互いに魔力と霊力の両方を有し怪異を討伐できるという特性を持っていたため、小さな諍い程度はあれど特段憎みあっていたりしていた訳ではない。
にも関わらず、今は異常なほどに見かけないし聞かない。
と、なれば。この質問に対する布施の態度で立ち位置を推察するしかない。
…って、思ったんだけど…。
何コレ。
ちらりと布施の顔に目を向ける。心做しか期待に満ちて輝いている彼女の表情を見るに、少なくとも布施は陰陽師に対して好感を抱いている。っぽい。
んんー…でも平里が「権能使うな」って言ってたから、多分この人がハズレ値なだけかも。わかんない。
兄さんならどうしたかなあ。教えて兄さん。
…もういないけど。
…しゃーない。失敗したら全部ぶっ壊して逃げよう。
私に頭脳戦は向いてない。あきらめよう。
「布施さん。」
「はい、なんでしょうか。」
「『陰陽師』って『魔導師』と仲悪いんですか?」
私の質問に布施はたっぷり十数秒固まって___そして声を上げて笑った。




