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かくも世界は醜くて~魔導師学校の陰陽師~  作者: おおよそもやし
泥中を迷う
32/107

思い出せない?

 声が聞こえて、薄らと瞼を開けると、怪異は消え去っていた。

 怪異のいた場所にはたくさんの人々が倒れていて、重苦しい瘴気も、あの怪異はきれいさっぱり消え去っていた。


 …討伐された?あの一瞬で?


 そんな馬鹿な。


 仮面を一切傷付けず、怪異本体だけを瞬殺するなんて…そんな離れ業、兄さんだってできなかったのに。

 あまりにも突飛な状況にちらりと目の前の人物に目を向けると、平里の姿をした『誰か』はにっこりと笑った。


「いやあ、筋弛緩剤とか古典的だよね。」

「は、はあ…?」


 平里…じゃ、ない…よね。こんな胡散臭い話し方しないし。

 そもそもこんな間抜けな笑い方しないし…。


 じゃあ、誰?


 姿の模倣___影法師(ドッペルゲンガー)系の怪異?

 …いや。この気配は怪異なんかじゃない。


 じゃあ、何?


 嫌な感じがして後ずさりしようとして、抜けたままの腕が滑って床に顔を打った。

 痛い。


「大丈夫?疲れた?飴食べる?」

「…いらないです…。」


 うつ伏せのまま動かなくなった私の目の前にしゃがみこんで、『誰かさん』はそう心配そうに尋ねてきた。悪い人じゃなさそうだけど、油断させてパクリといくタイプかもしれない。それはヤダ。

 どう判断すべきか決めかねて眉間に皺を寄せていると、誰かさんは露骨にしょんもりとして懐から深緑色の巾着袋を取り出した。


「もしかして、私のこと分からない?」

「…?」


 分からない…?もしかして、『思い出す前の』私の知り合い?

 前世の記憶を思い出した影響なのか、どうにも記憶がぐちゃぐちゃになってるから、ありえない話ではないけど。


 だからといって…こんな…

 こんな…胡散臭い…


 …やっぱり違うかも。


 「そっかぁ。…()()()()()()()()()()()()()()()()()。」


 誰かさんは残念そうにため息を吐くと、スカイグレーの瞳を細めて私を見つめた。


「え?」


 今、なんて言った?


「平里…?」


 なんでその名前が今出てくるの?

 悪寒がして、バッと振り返って通路の奥に目を向けると、そこに平里の姿はなかった。

 ただ、赤い蝶の腕章をした黒装束たちが、重なるように倒れているばかりだ。


 …それならつまり、()は紛れもなく平里ってことになる。

 いやでも、性格も仕草も全然違うし、何より今の言い方からして別人でしかない。

 憑依型?多重人格?

 なら…平里は?平里は、どうなってるの?


「あ、彼なら無事だよ。安心して。」


 私の思考を読んだかのように誰かさんはそう言って、おもむろに巾着袋の中身を取り出した。


 キラキラと光る、ガラス玉…?

 なんで突然そんなものを…?


 ぽかんとしていると、誰かさんはにっこりと胡散臭い笑みを浮かべて___


 私の口にガラス玉を突っ込んだ。


「もがっ!?」


 驚いて思わず飲み込んでしまった。

 と、その直後に右脚と左腕に激しい痛みが走った。


「がっ…!?」

「あれ?もしかして痛い?」


 おっかしいなー、失敗だったかな、と能天気な態度で首を捻る誰かさん。


 許されるなら、ぶん殴りたい…平里の身体じゃなければこいつ殴ってた…。


 どんどん広がっていく痛みに意識が揺れていく。


「ああ、そういうことか。」


 誰かさんのその呟きが頭の反響して、気持ちが悪い。

 気持ち悪いのに、なにか、なにか思い出しそう…?


 ……あれ、もしかして私、こんなふうに昔、助けられたこと、ある……?


「アナフィラキシーみたいな感じかな。こっちの水なら効くかな…」


 そう言いながら巾着袋を探る彼から目を離せない。


誰?


誰だっけ。


誰か、知ってる。


 知ってるはずなのに、目隠しされてるみたいに思い出せない。

 視界が眩む。

 どんどん、分からなくなっていく。


「…ああ、ごめんね。どうやら君を見誤っていたみたいだね。」


 彼の柔らかい声に、少しの緊張が混ざった。

 なんでだろう、と思う間もなく。

 思考は解けて、意識は沈んでいった。



「…()()

5/4 18時

次話更新あります

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