知らないままで
「…どうやら話してる暇はなさそうだな。」
「そうみたいだね。」
揺れが収まった後、私は残念そうに首を振った。
「民間人もまだ見つからないし…どうしたもんかな。せめて手がかりだけでもなんとか…」
神妙な面持ちで考え込む平里を見て、ふと、疑問が浮かんだ。
そもそもなんで、平里はここにいるんだろう?
平里は私たち___学園と敵対していると言っていた。
敵対組織であるならば、目的が違っていなければおかしいんじゃない?
目的が同じであるならば、よほどのこと___国取りだとかそのレベルでもない限り敵対まではしないはず。
霊域攻略の救援のために私たちはここに来た。
外に本職の人たちも控えている。
なら、敵対組織に所属している平里はなんで危険を侵してまでここにいる?
それにこの口ぶりだと、まるで…
まるで、巻き込まれた一般人を救助しにきたみたい…?
「ねえひ…羽世。」
「ん?」
「羽世は、なんのためにここに来たの?」
まさか、まさか?そんな訳…
思えば、不自然な箇所はたくさんあった。
霊域規模と推定被害人数に対して不自然に低い難易度設定。
先遣隊、外に控える軍部の人たち。そして、学園から派遣された私たち。
そういえば、「一般人を助けてはいけない」とは言われたけど、誰も「一般人を巻き込まないように」だとか「見つけたら安全な場所に誘導」とかの基本は言っていなかった。
まるで、一般人なんてどうなってもいい、と思っているみたいに…。
まさか…そんなはず、ないよね?
もしそうなら、私は。
私たちは。
そんなことのために死んだ訳じゃないのに。
私たちが守りたかったのは、未来じゃないのに。
「答えてよ、羽世。君は何のためのここにいるの?」
顔が引き攣って口角が上がる感覚がした。
嘘であって欲しい、勘違いであって欲しいと縋るように見つめたけれど、平里はただ、曖昧に笑っただけで、
何も答えてはくれなかった。
***
1階、フードコート。
竜巻でも起きたかのようにそこかしこに散らばった椅子やらテーブルやらを巻き込んで、吉川文目は勢いよく吹っ飛ばされた。
「がっ…」
ガンっとけたたましい音を立てて、吉川文目は背中を打ち付けた。衝撃で口から空気が吐き出され、うずくまり咳き込む。少し離れた所からその様子をスコープ越しに見ていた吉川翠は、無力さに歯噛みしながらも狙撃銃の引き金に指を掛けた。
「…ッ!」
パンッと乾いた音と共に魔力を纏った銃弾が放たれ、吉川文目の目の前に佇む黒い人影に吸い込まれていった。が、呆気なく叩き落とされ、カランと甲高い音が広い空間に響いた。
「…この程度なの?」
黒い人影は蹲ったままの吉川文目の茶色い髪を乱暴に掴むと、「邪魔だ」と言わんばかりに乱暴に投げ飛ばした。
「まさかこんなに弱体化してるなんて…彼らが知ったらどう思うかな。」
黒い人影がそう言ってため息を吐くと、どこからともなく現れた小狐が吉川文目に噛み付いた。
「…っアヤ!」
黒い人影は、弟が痛めつけられ思わず声を上げた吉川翠の方へすっと目線を向けて笑った。
「そこか。」
吉川翠に「しまった」、と思う暇すら与えずに、黒い人影は距離を詰めて彼女を押し倒した。
「ぐっ……目的は、なんなの…!?」
「目的?目的ねぇ…」
吉川翠がいつもの淑やかさとは程遠い、鋭い目で睨みつけると、黒い人影は深緑の目をにぃっと歪ませた。
「そんなの、君たちの方が分かっているんじゃない?」
黒ずくめの軍服姿の女は、どうでもよさそうに吉川翠の首に手を掛けた。
リニューアル後のページに不慣れなので何か不備ありましたら教えて頂けると幸いです。




