平穏とはすり抜けるもの
___数分後。
加持上官の後をてくてくとついて行って、先程のだだっ広い空間まで戻ってきた。
上官は私たちに中央付近まで来たあたりで、「その場で待機するように」、と言ってどこかへ去っていった。手持ち無沙汰で暇なので、吉川弟の周りをくるくる歩き回ってちょっかいをかけたところ、なぜか高梨も一緒になって回るという珍事態が起きた。
「なんで高梨先輩まで一緒になって回ってるんですか」と吉川弟がかなり動揺しながら問いかけたところ、高梨は「古賀が回っていたから理由があると思って一緒に回った」と当然のように答えてきた。
信頼というか盲信なのでは、と私が一層高梨を心配していると、いつの間にか戻ってきていた加持上官が、なんとも言えない表情でこちらを見て立ち尽くしていたのだった。
***
「…あー。番号。」
「1」
「2」
「さーん」
「四!」
「五〜」
「…6」
「よし。全員いるなー。」
やる気の差が激しい点呼を終えて、加持上官をぐるりと半円に囲む形で整列をした。
それをを見届けると、加持上官は軽く咳払いをして口を開いた。
「えー。まずは1年生3人。Sクラスにようこそ、と本来なら言いたいところなのだが…」
そう言って上官は目を伏せた。
わかった、なんか事件起きてるなこれ。そんでもって全員教室に入るよう言われたのはそのせいなんだな?これ知ってる、前世でもあったもんこの感じ。
……やだぁ。帰りたいー…。せめて兄さんが一緒ならなー…。いないけど。
「但馬南部にある大型商業施設にダンジョンが出現した。危険度はC+と推測される。」
しーぷらす…乙寄りの丙って感じかな…ヤバいじゃん。そんなのに一般人が巻き込まれたら___
「推定被害人数は700-800人。救助に向かった先遣隊との連絡も1時間前を最後に途絶えている。」
ヤバいじゃん。なんで丙認定してんの。普通に乙等級以上でしょソレ。
…あ。これを私たちに話したってことは、もしかして。もしかしなくても。
「そこで諸君ら学生部隊に、救助要請___まあ、つまり出動命令が下された。名前を呼ばれた者は前に来るように。」
やっぱりー!!!嫌だー。…まあでも、さすがに?昨日初めて怪異と交戦した(ことになってる)新入生をそんな場所に放り込んだりは___
「1年、古賀爽耶。」
「なんで!?」
「文句言わないでくれ。理由は自分の胸に聞きなさい。」
「…分かりません!」
「そうか。良いから前に来なさい。」
「はぁーい…」
なんでー。っていうかいきなり1人目が私ってなんでぇー。うえーん。
駄々こねたろかな…。意味無いか。
「2年、吉川文目。3年、吉川翠。以上3名で現場に向かってくれ。」
「少なくないですか?」
「古賀、発言する時は挙手をしなさい。」
「はい!」
加持上官に冷たくそう諭されて、反射的に背筋がピンと伸びた。加持上官は私を一瞥すると、ため息を吐いた。
さよなら、平穏な学校生活…つくづく私は平穏と縁がないらしい。ちくしょう。
それを見ていた吉川文目は、哀れみの目を私に向けて、肩を軽く叩いた。




