まじで?
結果発表、兼クラス分け発表の後、簡単な説明を受けた。
そして食堂で早めの昼食を鈴代、若村、私を挟んで雪村とその友人たちで駄弁りながら摂った。楽しかった。鈴代たちと雪村たちはまだちょっとぎこちなかったけど、これから仲良くなってくれたらな、と思う。
そして、同日午後。
各自教室へ向かうように、と放送で指示があり、私は人気のない方へない方へと歩いていた。
なんでSクラスだけこんな奥まったとこに教室があるんだろう、みんな遙か手前で分かれちゃったし…。
立ち止まって、通信機を操作して視界端に表示されている地図を拡大してみた。…やっぱり他に比べてめちゃくちゃ奥にある…っていうか隔離されてない?この位置。なんかあるの?
ため息をついて、拡大表示を解除して再び歩き始めた。
真っ直ぐ行って、3つ目の角を曲がる。すると、いきなり目の前によく近未来系小説に出てくるような隔壁、あるいはエレベーターの扉を縦にしたような、そういう類の扉があった。
もしや、これは。
冗談とかではなく。
「マジで隔離されてるの…?」
ぽろりと零れた自分の呟きに、思わず頬が引き攣った。
***
開いた隔壁からそっと中を覗き込むと、がらんとした、だだっ広い空間が広がっていた。だいたい小学校の体育館くらいの広さだろうか。
なんのための空間なんだろ、物置?
地図によればこのさらに奥にSクラスの教室はあるらしい。遠いよ。
「失礼しまーす…うわっ!?」
小さく呟いて足を踏み入れると、足音が大きく響いた。声も反響して四方八方から跳ね返ってくる。
不気味になって身をすくめていると、視界端にチカチカと光る封筒のマークが現れた。
メッセージ通知…誰だろ。
そっと指先を合わせて開くと、高梨からだった。
『今どこにいるんだ?もう教室に向かっているなら教室に入らずに教室の手前で待っていてくれ』
文面に違和感を覚えて『なんでですか?』と返信をしたものの、答えは返ってこない。
まあ、なにか意味があることなんだろうとは思うけど。理由くらい教えてくれても良いじゃんか。
そんなことを考えながらも、地図に従って通路に入ったり階段を下りたりして進んでいくと、ようやく教室と地図で示された部屋の前に着いた。
けれど、どうにも内装がおかしい。
だって教室といえば、黒板もしくはホワイトボードが前にあって、教卓があって、それに向かい合うように座席と机が配置されているだけなのが常じゃない?
それがなんでこんな荒れ…散らかっ……修羅場の出版社みたいな部屋になってんの?
小さなタイヤの付いたホワイトボードは、ありとあらゆる印刷物が貼り付けられ蓑虫のようになっていて、書き込むスペースなどない。壁1面に取り付けられている本棚からは大量の書類が雪崩を起こし足の踏み場を無くしている。
おまけに、部屋の後方に設置されている個人用ロッカーと思しき棚は、上に乱雑に置かれた機器類のケーブルやら何やらで開くことすらままならない状態になっていた。
「……何、コレ。」
これが、教室…?
あまりの惨状に後ずさると、誰かにぶつかった。
いつの間に背後に___じゃなくて。
「すみません。気付かなくて…」
ぱっと振り返って謝ると、その相手___茶色い短髪の男子は菖蒲色の目を不機嫌そうに細めて舌打ちした。
喧嘩売っとんのかクソガキ。しばき倒したろか。
イラッとして口を開きかけた、その時。
彼の頭をガシッと誰かが鷲掴んだ。
「だめよ、アヤ。年下の子に、そんなことしちゃ。」
「ね、姉さん…」
「前にも言ったでしょう?そんな態度、とっちゃダメって。」
呆気にとられている私をよそに、青磁色のリボンを付けた、おっとりとした口調の女子はギリギリと男子の腕を掴んで締め上げている。
わぁ、やばー…かわいそー。自業自得だけど。いい気味〜。
「ごめっ、痛、ごめんって。」
「許してもらう相手が違うでしょう?」
「あっはい。ごめんなさい。」
腕を締めあげられながらも、こちらに顔を向けて謝罪を口にした。
そっか。うーん、まあいっか。
「これからはああいった態度をしないでいただけるなら…」
「しな、痛っ、しません。」
「なら、許します。」
私が『許す』と口にすると、女子はぱっと男子の腕を離した。
「痛ってぇー…姉さん!骨折れたらどうすんだよー!」
「あら?そんなに骨が弱いの?大変、ちゃんと毎日牛乳飲まなきゃだめよ。」
「違ぇよ!姉さんの握力が強すぎるんだよ!もー…」
「あら、ちょっと待って。」
女子は疲れた様子で男子が教室に入ろうとするのを、襟首を掴んで阻止して、リボンと同じ綺麗な青磁色の瞳を細めて微笑んだ。
「私は3年の吉川翠。こっちの子は弟の文目よ。よろしくね、新入生さん。…あなたのお名前を、教えてくださいな。」




