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零落
___遠くで、蝉が鳴いている。
季節が逆さまになったかのような冷たさが、背筋を貫いた。
先程まで肌をじりじりと焼いていたはずの暑さも、聾するほどの蝉時雨も。
一切が壁を隔てたことかのように感じ取れない。
目の前に広がる惨状に頭が鈍る。
引き摺られたように山道に長く長く延ばされた鉄錆色の染み。その終点に落ちている、烏の群れの隙間から覗く白金色の人影。
周囲に散らばった季節外れの木々の枝の、手のひらの形をした葉が嫌に赤く見えた。
どうしてこうなった?
何故?
誰が?
何故?
……
…………
………………そうか。
奴らがその気なら、同じように返せばいい。
奪うならば同様に。殺すならば同様に。
殺して、殺して、殺して、殺して___?
……
…………どうすれば、よかったんだろうか。どうすれば、守れたのだろうか。
馬鹿だな、『 』は。あの子たちは、もう帰ってきやしないのに。馬鹿だ…。
この行為に、なんの意味があったんだろうか。
へし折った頸部を離せないまま、血の臭いで満たされた屋敷の奥でただ立ち尽くしていた。