落日
薄暗い部屋は足の踏み場もないほどに散らかっている。それは書類だったり、マグカップだったり、あるいはゲーム機と、所有者の心情を表すかのようにごちゃごちゃになって散乱していた。
「…佐伯。」
黒髪の青年が開け放たれたドアから控えめに呼びかけると、ゆらりと部屋の中央の物体が隆起した。
「……羽世か。」
佐伯と呼ばれた人物は焦げ茶の髪をガシガシと掻くと立ち上がった。
「例の…学園の拠点はどうなった?」
「完全に気付かれた。放棄するのがあと少しでも遅かったら危ないところだったよ。」
「…そうか。」
佐伯は不機嫌そうに呟いて足元の書類を踏んづける。そしてこめかみを押さえ目を見開いた。
「あと少しだったのに……!クソッ!!!」
佐伯は苛立ちを隠さずに吐き捨てるようにそう言った。
「…佐伯。」
「なんだ。」
「もう…やめないか?子ども巻き込むのは…」
黒髪の青年___羽世の言葉に佐伯は嫌な笑い声を上げて顔を覆った。
「今更何を言っているんだ?…まさか、忘れた訳じゃないだろ?アイツらに今まで何されてきたか!」
指の隙間から覗く、鋭い視線が突き刺さる。羽世は開きかけた唇を噛むと、そのまま押し黙った。
「報告は以上か?なら戻れ。」
「……ああ。」
不機嫌そうにそっぽを向く佐伯に軽く一礼をして、羽世はドアを閉めた。
「……神原…」
ポツリと羽世の口から零れた、誰に聞かせるでもない呼び声は、反響することも無く消えていった。