ごーごー!
「んぅー…?」
目を覚ますと、見知らぬ場所にいた。
砂漠は…吸血蠍は?どうなった?
夢かと疑って頬を抓る。痛い。現実か。
起き上がって、ぼんやりとした頭で辺りをきょろきょろと見回す。
怪異の気配どころか生気もない、閉塞感のすごい地下道のような場所。石造り…っぽいけどもしかしてこれ、混凝土?凝ってるなー。
湿った空気を肺いっぱいに吸い込むと、少し懐かしい匂いがした気がした。
なんの匂いだっけ?
心に引っかかって思い出そうと首を捻っていると、道の先からバタバタと複数の足音が聞こえてきた。
「__、___こっちです!」
遠くに見える角の方から焦った声が聞こえる。この声は、確か___。
「高梨先輩ーー?」
そう呼びかけると、角からちょうど顔を出した高梨がぎょっとした顔でこちらを見た。どういう感情?
「古賀…か?」
そしてごくりと唾を飲み込んで恐る恐るといった風に尋ねてきた。ので。
「他に誰がいるんですか。影法師じゃあるまいし。」
「いや、その…なんでもない。」
「なんなんですかー!」
よっこいせー!と勢いを付けてぴょんっと立ち上がると、高梨はものすごく変なものを見たようにたじろいだ。
さっきからなんなんだろう。なんか怯えられているような警戒されてるような…?
ちょっとやだな。
むっとして頬を膨れさせると、そこでやっと高梨は安堵したように息を吐いた。
「良かった…本当に良かった…」
「何に対してのですか?安否では無いですよね、その感じ。」
「……色々、あったんだ。色々…」
「そうですか。」
あからさまに目が合わなくなった。そんなに言いづらいことがあったの?…まさか
「高梨先輩、まさかとは思いますが…」
「な、なんだ?」
「霊域が焦土になってたり……?」
「……いや、さすがにそこまではなってない。大丈夫だ。」
「なーんだ、良かったー。」
権能暴走させて辺り一面焦土にした訳ではないらしい。よかったよかった。
…でもそれならなんでこんな態度を…?
疑問が深まってしまって眉間に皺を寄せていると、角から今度は重村教官が出てきた。
「お、見つかったのか!無事か!?」
「外傷なし、意識混濁なし。無事です。」
「です。」
「そうか!ならいい!!!」
重村教官の声が通路内に反響してビリビリと響く。相変わらず声が大きいなこの人。
「…って、そうだ!吸血蠍が砂漠地形に出て」
「アンタレス?…いたのか?」
「はい。それで交戦中に吹っ飛ばされて気絶してしまって」
「戦ったのか!?」
「仕方なかったんですよ!!!」
高梨が目を丸くしながらも、なるほどそういう事か、と何かが腑に落ちたように頷いているのが引っかかったけれど、それよりも私にはやるべきことがなかったっけ。あった。よし。
「まあ、何はともあれ、だ。早く戻って検査をした方がいいな!」
「そうですね。…ああ、でもアンタレスがいるとなると…」
帰りの算段を立てている二人を横目に、グッグッと軽く屈伸運動をして身体が動くことを確認してスっと片膝をついた。
「…古賀?どうした、痛むのか!?」
「む!?古賀!?どうかしたのか!?」
突然しゃがみ込んだ新入生を心配する二人をよそに両手を膝の横に置いて膝を伸ばす。
そしてそのまま地面を蹴っ飛ばして___通路の先へと突っ込んだ。
俗に言う『蹲踞式出走方』とかいうやつである。結局前世では一回も役に立たなかったけど結構使えそうだなコレ。今度色々試してみよ。
「…え?」
「古賀ぁ!?」
呆気にとられている高梨と重村教官の声がどんどんと遠のいていく。
「ごめんなさーーーい!!!!」
口ではそう謝りながらも、なんだか楽しくなって笑ってしまう。脚は軽く、どんどんと加速して風鳴りがヒュンヒュンと耳を掠めてゆく。
…あれ?そういえばなんでどこも痛まないんだろ?まあいっか。動けるなら。
流れていく空気の中で、懐かしい声が笑った気がした。
1/13 18時
次話更新あります