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かくも世界は醜くて~魔導師学校の陰陽師~  作者: おおよそもやし
魔導師学校の陰陽師
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¿邂逅?

 蹴りあげられたカンバラの右脚を男が裏拳で叩き落とす。その衝撃でグリップを握る手の緩んだ男の左手にすかさずカンバラは落とされた右足を軸に左脚で再度上段蹴りを叩き込んで拳銃を吹っ飛ばす。


「チッ」


 背後に転がっていく拳銃のカラカラという音に舌打ちしながらも、男はすぐに意識を切り替えてカンバラに掴みかかり引き倒そうとする。カンバラがその勢いを利用して鳩尾に膝蹴りを食らわそうとして、それに気付いた男がさっと手を離し後ろへ跳んで回避。

 目の前で繰り広げられている、息をつく間もないほどの技の応酬を、高梨は食い入るように見つめていた。

体格差があるにも関わらず軍服の男と互角に渡り合っている後輩___の顔をした誰かの技量に心底感心して、高梨は無意識に拳を握っていた。


(すごいな…技の組み立て速度も、対応速度も尋常じゃない…)


 男の放った左フックを右肘で受けて鳩尾目掛けて膝蹴り。それを身を捻って脇腹で受けてカンバラの胸ぐらを掴んで背負い投げ。投げの隙をついて脚を開いてそのまま着地と同時に男の側頭部に卍蹴り。


「ぐっ…」


 さすがに頭部への攻撃は堪えたらしく、男は短く呻いてカンバラから距離をとった。


「っはー…キッツ…」


 カンバラも同じく後退すると、息を整えながらそう呟いた。


「強いね、オニーサン。」

「そっちこそな、ガキ。」


 男の返答に「ひどいなー」とカラカラと笑った後、カンバラはすっと目を細めた。


「敵じゃなかったら良かったのに。」


 カンバラが吊り上げた口角からちらりと鋭い犬歯を覗かせて残念そうにそう口にすると、男も「同感だな」とズレた帽子を被り直しながら返した。


「無力化するだけでも骨が折れそうだ。」

「物理的にねー。」

「ははっ、抜かせ。」


 2人はそう言葉を交わしてニッと笑い合うと、すっと感情を潜めて再び向き直った。


「…さて。残念ながらおしゃべりはお終いだ。覚悟は良いな。」

「そうだね。…本当に、残念だなぁ。」


 男はカンバラの呟きにぴくりと肩を震わせたが、聞こえないフリをして両足を前後に開いて重心を落とした。


「…」

「……」


 一気にヒリついた空気の中、臨戦態勢に入った2人は向かいあったまましばらく見つめあっていた。

永遠とも錯覚するほどの5秒間。それが過ぎ去った刹那___


「っ!」


 今度は男が先に仕掛けた。勢いよくカンバラの懐に飛び込み、隠し持っていた短剣を喉笛目掛けて振り下ろした。


「!このっ!」


 カンバラは半身を引いて紙一重で避けると、短剣を奪おうと手を伸ばした。だが男はそれを見透かしていたかのように短剣からぱっと手を離した。カンバラの視線が男から逸れて短剣とともに床へと向かってゆく。


「しま…っガッぐ、ぅ…っ」


 視線誘導されたことに焦って離れようとした瞬間の隙を突いて、男はカンバラの首に拳を叩き込んだ。


「…?」


 男は自身の拳を見つめて怪訝そうに首を傾げると、げほげほと咳き込みながら倒れ込んだカンバラの細い首をグイッと掴んで軽々と持ち上げた。


「強くても所詮は子どもだな。」

「くっ…!」


 カンバラが悔しげにキッと男を睨みつけると、男はせせら笑うように手に込める力を強めた。


(マズい…このままじゃカンバラが…!だが…!)


 観戦に徹していた高梨は焦燥感を覚えて身動(みじろ)ぎをした。


「動くな。」

「!」


 しかし男の投げかけた視線だけで全身が震え上がって高梨は動けなかった。


(くそ…)


 何も出来ない悔しさに高梨が俯いた、その瞬間。

静寂を切り裂くように、突如霧雨が降り出した。


「は!?」


 地下通路という閉鎖空間に雨が降ってきたことに男が面食らったように手に込める力を緩めると、その隙を逃さずカンバラは首にかかった腕をかち上げて拘束から逃れた。


「っこれで!」


 カンバラは髪が真白(ましろ)に染まりゆくことなど気にも留めずに、右手に雨水を収束させ矢のようにして男へ向け放った。

「…っ《防御(エイワズ)》!」


 間一髪で展開されたバリアと水の矢がぶつかりしばらく拮抗していたが、バリアが砕け落ちた。威力の削がれた矢は男の帽子を弾き飛ばして消え去った。


「……え?」


 あらわになった男の顔に、幽霊でもみたかのようにカンバラは金の瞳を見開いた。

漆のような黒髪。まだ幼さの残る顔。そして大きく見開かれた淡く光る、揺らぐ波や炎のような独特の虹彩を持つ、空色の目。


「なんで、君が___」

「…っ、」


 交差した視線の先で青年は痛々しく顔を歪めた。そして何か言おうと口を開いたが、喉に詰まったかのように何度か閉じては開いてを繰り返して踵を返して走り出した。


「…っ待ってよ!なんで___わっ」


 カンバラは迷子(まよいご)のような必死さで青年を追いかけようとして、足をもつれさせて転んだ。


「カンバラ!」

「待って。待ってよ…」


 カンバラは駆け寄ってきた高梨に見向きもせずに小さくなっていく背中に手を伸ばした。


「なんで…」


 その弱々しい問いに答える声はなく、消耗しきったカンバラの意識はぷっつりと途切れた。


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