不退転
高梨、久米上官、佐伯、平里、僕、望月穂稀の順で1列になって、ぐるぐると下り坂を進んでゆく。穴の底へと導く螺旋の道は景色の変化に乏しく、どれほど進んだのか、はたまたどのくらいの速度で進んでいるのか分からなくなってしまう。
相変わらずの暗い穴は巨大な墓のようで物寂しい。怪異が全然出てこないあたり、やはりミクラサラが怪異達に指示していたのだろうか。
それにやっぱり……不安だ。
いくらサヤのためならなんだってできるとはいえ、本能からの恐怖を理性でどうこうできる訳ではない。千年前に終わらせた時もやっぱり少し怖くて、サヤと手を繋いで歩いたんだっけ。
心細くなって平里の手に視線を向けて、けれど邪魔になりたくないからそっと外す。大丈夫、そこまで子どもじゃないし。大丈夫、大丈夫……
「……ふーん?」
「なんですか望月さん。」
「いやあ?やっぱり君、意外と甘えん坊_____」
「黙っていただけます?」
「ふふ……わかったよ。」
口を閉じてもなおニヤニヤと僕を見つめてくる望月穂稀がウザったくて苛立つ。一方的に知られているらしいとはいえ、なんだってこんなあまり顔を合わせない親戚みたいな目で見られなきゃいけないんだよ、ほんとに。
「……っていうか、いくら先頭3人についてしか記述がないとはいえ、仮にも皇子役が最後尾で良いんですか?」
記述がないとはいえ、皇子ならば周囲を兵に囲まれて移動していたはずだ。先頭も最後尾も敵に襲撃されれば真っ先に交戦することになるのだから。
ましてや、最初の交戦で最後尾から奇襲を仕掛けられた実績のある霊域で前衛でもないのに後ろを歩くなんて危険極まりない。
僕が疑うような視線を向けると、望月穂稀は気まずそうに目を逸らした。
「ああ……いいんだよ、私はここで。」
「と、言うと?」
「後ろから怪異に襲撃されることもあるだろうけど……咲良は私のこと、攻撃できないだろうから。」
……果たしてそうなんだろうか。
たしかに僕だってサヤのことも平里のことも傷つけたくはない。だけど、2人が僕のことを邪魔するなら傷つけることだって僕はきっと厭わなかっただろう。……そりゃ、なるべく避けたいけど。
多分ミクラサラだって同じだ。もう後戻りなんてできないんだから、先が無くたって進むしかない。そうなればきっと、彼女も僕と同じ結論に至るだろう。
大切な人を傷付けてでも守る。既に望月穂稀に祝福を与えたのだから、心理的な難易度はだいぶ下がっているだろうし。
僕が……『神原棗』が立ち止まることができたのはサヤが怒ってくれたからだ。サヤがあの時気付いてくれなかったら、僕だってきっと三倉咲良と同じようになっていたかもしれない。
紙一重の差だったんだ、きっと。
「もし攻撃されたらどうするんですか?」
念の為にと尋ねると、望月穂稀は少し考えて、くるりと指先を回した。
「戦うよ、そりゃあ。残念だけれどね。」
「躊躇は?」
「しないさ。……これほど時間が経ってしまったんだ。咲良の私への友情が変わらないなんてこと、ありえないからね。」
望月穂稀はそう言って寂しげに微笑んだ。けれど一瞬だけその目に浮かんだ悲しみは深く、ほんの少ししか見なかったにも関わらず僕に焼き付いて離れない。
……二度と言葉を交わすことも触れ合うこともできないけれどそばにいられることと、長い間離れ離れでもこうして会いに行くことができることは、どちらがマシなんだろうか。
考えてみても答えは出せない。
会いたくても会えない。会えたとしてもまた同じように笑い合えるとは限らない。
どちらも辛くて苦しくて寂しいことに変わりはないのだから。
ぐるぐると続く下り坂の先。その底にたどり着いたとき三倉咲良はどんな選択をするのだろうか。
下から吹き抜ける生暖かい風を浴びながら、僕は足元の小石を蹴っ飛ばした。
節分期間は繁忙期のため2/7の更新はお休みさせていただきます。(間に合ったら更新するかもです)
次回更新→2/21




