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かくも世界は醜くて~魔導師学校の陰陽師~  作者: おおよそもやし
空空周りて行先なし
104/107

似ている

 水底(みなぞこ)に光が届かないように、地底(ちのそこ)にも光は届かない。

 この選択が間違っていたことなんて、最初の百年でとうに気付いていた。

 それでも______それでも、生きていて欲しいと思った。

 生きて、守るはずだった『これから』の中で笑っていて欲しいと……そう、願ってしまった。


 愛する夫から拒絶されて生を呪った伊邪那美命と、愛する親友を失いたくないあまり死を奪った私。


 きっと私たちは似た者同士なんだろう。だから、きっと…………


 結末だって、同じなんだ。


***


 霊力も魔力も性質が多少異なるとはいえ基本的な使い方は同じだ。サヤ曰く「霊力は冷たくて、魔力はあったかい」らしい。

 だからその説明を借りて説明をしてみるけれど、どうにも上手くいかない。


「冷たい……冷たい……」

「……ダメそうだね。時間もないし、別の方法を探そうか。」


 目を閉じてうんうんと唸る高梨を前に僕も腕を組んで唸った。

 霊域自体が崩壊したり動いたりする気配はないけれど、縁が蠢いているため怪異が外に溢れ出てくるのも時間の問題だ。

 その前に高梨は僕らを正しい方角へと導かなければいけない。ミクラサラの霊域の影響か太陽は動かないし、方位磁針などの器具も使えない現状では八咫烏の権能を使わなければどうにもならない。さらに言えば通信手段が全く使えないほどに、しかもこんなに景色を歪められていては本来の東が西になっていてもおかしくはない。

 要するに、高梨が権能を使えるようにならなければ僕らはまともに戦うことすらできないのだ。


「どうしたらいいかな……」

「お前ら何やってんだ?」

「あ、平里。助けてー?」


 声のした後方へと顔を向けて見上げると、平里はつり目がちな目尻を少し下げた。

 戦闘時に邪魔になると判断したのか制帽は被っておらず、少し長い髪を項のあたりでくくっている。やっぱり顔が良いからか黒い髪も似合うなー、でもやっぱりあの白金色が恋しいかもしれない。


「助けるのはいいが……まず、お前らは何をしたいんだよ。」

「高梨に霊力の使い方を教えたいんだよー。……なんだけど、ほら。僕って、その、教えるのは下手くそだから……」

「あー……自覚あったんだな?」

「無礼〜」


 戯れのつもりで軽く平里の腕を叩いて頬を膨れさせた。平里は予想通り僕の頬をつっついて空気を吐き出させて笑った。この笑顔を引き出したのが自分だと思うと嬉しくて、けれど今はそんな場合ではなかったとすぐに感情を萎ませた。


「笑ってないで助けてよー。本当に困ってるんだよ?」

「はいはい。……高梨、だっけ。両手出してくれるか?」


 平里が「たかなし」と呼ぶ声はやっぱり少しぎこちない。友人だった僕でも呼ぶ度に小鳥遊(ことちゃん)が脳裏にチラついて仕方がないのだから、それ以上の感情を抱いていた平里はもっと苦しいんだろう。

 だからとっとと告白して振られれば良かったのに、と思いつつも許嫁のいる身でそう軽々しく不誠実なことをしないところが平里の良いところか、とも思った。

 別に平里と許嫁さんの仲が悪かった訳じゃない。許嫁さんは平里のことを愛していたし、平里もまた許嫁さんを本人なりに大事にしようとしていた

 ただ(あい)せなかっただけで。同じ熱量で接することができてなかった、ただそれだけのことだ。……僕らに対する平里も、平里に対する小鳥遊(ことちゃん)も同じことだし。


 どうして報われないと分かりきっている想いを捨てることができないんだろう、と虚しさを感じながら高梨と平里の様子に目を向けた。

 両手を繋いで霊力や魔力を回す方法はいつだったか僕もやってもらった記憶がある。かなり分かりやすい方法だけれど、相手の身体に流し込む以上量や速度を間違えれば殺しかねない危険さを孕んでいる。

 だから霊力の循環速度の速すぎる僕はできないし、その辺が器用な平里がやってくれるなら助かることこの上ない。

 この上ない、んだけど……


「……あの、カンバラさん?どうかしましたか。」

「高梨、こっちに集中しな。神原のことは気にしなくていいから。」

「……分かりました。」


 仕方のないことだとは分かっているし、2人に他意がないことも分かっている。それなのに胸がもやもやして仕方がないのは感情に振り回されているからだろうか。

 大人のくせに感情の制御もできないとか情けなさすぎる。それに今は僕が『古賀爽耶』な以上、学園側……吉川姉弟とか久米上官らからはサヤがこんな変な行動をしているように見られる可能性もあるだろうに。中身が別人と思っていても顔が同じだとふとした時にそういう……面影を見ることもあるだろうし。


「……せんぱーい。」

「げ、やだ。」

「まだ何も言ってないのに?」

「だってお前、古賀じゃねーじゃん……」


 望月穂稀による説明とやらが終わったらしく、ちょうど近くに来た吉川文目を呼び止めると心底嫌そうな顔で持っていた紙片を握り潰した。

 顔の造形は姉に似て少しタレ目がちなのに、本人の性格がこれだからどちらかと言うとキツめの印象になっている。表情って大事だよね。

 ……僕とサヤも、もしかして結構表情が違うのかなぁ。平里とか風早さんは「そっくりだ」って言ってたけど、この反応の速さからして吉川文目は僕にサヤの面影を見ることすらしてないよね。

 じっと吉川文目の顔を見つめていると、割と本気で嫌そうに舌打ちをされた。初対面のとき以外でサヤにそんな表情をしたことはなかったはずだから、やっぱり吉川文目は僕とサヤを完全に分けて見ているんだろう。


 …………結局、僕らは他人でしかない。いくらサヤが僕のことを「兄さん」って呼んで慕ってくれたって、所詮は『ごっこ』でしかないんだから。

 分かりきった事実が寂しくて、けれどそれならサヤへの評価を下げることはないはずだと、そう思い込んで吉川文目の足に八つ当たった。

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