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かくも世界は醜くて~魔導師学校の陰陽師~  作者: おおよそもやし
空空周りて行先なし
102/107

神代の先で

この先の展開上記紀及び資料の調査に時間がかかることが予想されるため、更新頻度をしばらくの間隔週固定にさせていただきます。

2部入ったら多分戻せます。よろしくお願いします。

 二言三言交わした後にあっさり捕獲された高梨の様子にひとしきり笑ったあと、僕は久米上官の腕から高梨をひったくって背中に隠した。

 隠した、といっても身長差がかなりあるから丸見えではあるのだけれど。その辺は心理的なものだから気にしない。

 決して大きさは関係ないのだ。本当に。


「…………」

「…………」


 誰も言葉を発さない。動かない。

 互いに敵か味方か、あるいは人か怪異かも分からぬままに一挙一動を注視している。

 そんな張り詰めた空気を破ったのは、意外にも吉川文目だった。


「……古賀……じゃ、ねぇんだよな?」


 その質問は確認のようで否定されるのを期待しているような不格好な声色をしていた。きっと、自分を逃がしたせいでサヤが()()()()()()なんて思いたくないのだろう。

 全くもって自分勝手だ。けれど、あれがサヤの選択なうえにあの場でのできうる限りの手段だった以上僕にどうこう言う資格はない。


「……ま、君らの基準だとそうだろうね、先輩。」


 僕がそう返すと吉川文目は何も言えず、眉根を寄せて俯いた。耐えるかのように拳を握りしめたせいで爪でも刺さったのか、錆の臭いがうっすらと漂った。

 戦ってもいないのに怪我するなんて。馬鹿だな、本当に。


「ところで……」


 すっと視線を後方の人たち_____吉川翠ら他の生徒に向けると、久米上官がその視線を切るように腕を伸ばした。

 おおかた僕が何かするとでも思ったのだろう。立派な上司だ。たしかにこれはサヤの憧れる大人像に当てはまっているのかもしれない。


「……他の大人たちは?子どもばかりでどうしてここに来て大丈夫だと思ったの。」

「……君も子どもだろう?」


 「少なくとも身体は」と付け足す声は暗く、彼の使命感の強さと甘さ、そしてそのせいで苦しみ続けている現状への諦めが読み取れた。普段は抑えていただろうに、僕ら……『古賀爽耶』のこの状態に揺さぶられてしまったのだろうか。

 その感情がどういうものか、少し分かる。

僕だって同じ身体でなければもっと取り乱していただろうから。

 それに、色々言い合ってはいたけれど、きっとサヤと吉川文目は仲が良かった。少なくともサヤはこういう人たちのこと好きだからなぁ。


 使命感が強く子供を守ろうとしてくれる上官。実力差を知っても離れていかない上級生。

 後者は平里がいたからまだしも、前者は前世で得られなかった存在だ。……どうにか風早さんが守れた世代に僕らはいなかったし、そもそも実力があるのならば年齢関係なく前線に出されることが当たり前の風潮だった。

仕方ない、仕方のないことだったと分かっているけれど……

 どうして、今更目の前に現れるんだろう。


「他の大人たちは学園に呼び戻された。何の前兆もなくダンジョンが発生した以上、状況が読めるまでは手を引くことしかできないから……」

「ふぅん。それじゃ、なんで貴方は彼らを連れて逃げなかったんですか?

……危険だと分かっているなら、尚更。」

「彼らが君たち1年生のことを心配だと言って聞かなくてな。それに、私自身も状況を把握することもせずに学生を置いて逃げることはしたくない。」


 たしかに……僕も大岩もミクラサラも、彼らからすればただの新入生だ。

 けれど、サヤが逃がして、僕が抵抗して、やっと平里達で持ち直した現状だ。いくら戦力が欲しい状況と言えども危険地帯にこの人たちを放り込みたくない。


 矛盾していることは分かっている。

 『古賀爽耶』が僕だけなら気にしなかった。彼らが傷つくことを厭わなかった。勝てればいい、被害を最小限にできればいいってそれだけで動けた。

 だけどこの身体はサヤの物でもある。もしもサヤが目を覚ました時に彼らがいなくなってしまっていたら?大怪我をして苦しんでいたら?

 ……サヤは優しいから、きっと耐えられない。たとえ僕がしたことであっても自分を責める。

 サヤには苦しんで欲しくない。ただただ幸福を享受するだけの日々の中にいて欲しい。

 奪われた青春も、平穏も、安心も、全部与えたい。……苦しみなんて、与えたくない。


 いくら異能者……魔導師といえども水準が下がっている以上期待はできない。だけど、彼らに力を借りる以外に方法も思いつけない。

 どうする、どうすればいい。

 どうしたらサヤを取り戻せる?ミクラサラを倒せる?


 分からない……


「ねえ、神原くん。『古事記』って読んだことあるかい?」

「……え?」


 いつの間に来ていたのか、僕の隣で望月穂稀が笑っていた。

 この状況でどうして笑えるのだろうか。そもそも『コジキ』がどう関係しているのだろうか。


「……神話、の?」

「そう。ちなみにそこの佐伯くんの氏は大伴氏と同族なんだよ。久米も元は同族だったとする説もあるらしいけど、まぁ、今回は無視しよう。……大伴と久米で何か思い出さない?」


 大伴と久米……たしか天孫降臨で遠つ祖の神名が出てきた。瓊瓊杵尊の天降りのときの先導者だったんだっけ、たしか。

 あれ、でもその後にたしか……


「……まさか。そんなこじつけで勝てる訳が……

ましてや久米上官はともかく、そこの佐伯は異能者ですらないのに……!」

「ところがどっこい、神様相手に神話再現は結構有効な手なんだよ。それにね、神様の血縁というものは時に理をも超えるんだよ。

……大丈夫だよ。大伴も久米も、金鵄に『ミケ』だってきちんと揃っているんだから。」


 「ちょうど陽も昇っていることだしね」と真っ赤な天球の下で笑う彼女は、どこか遠い存在のように思えた。

参考

中村啓信訳注『新版 古事記』角川ソフィア文庫

宝賀寿男『古代氏族の研究④ 大伴氏ー列島原住民の流れを汲む名流武門』青垣出版

國學院大學「古典化学」事業神名データベース

https://kojiki.kokugakuin.ac.jp/shinmei/

Wikipedia-大伴氏

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E4%BC%B4%E6%B0%8F

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