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第一章 #3.ドニー先生、無双する

風属性のエーテルは、特に滞留し易いのが特徴だ。

放たれた魔法の影響は、滞留エーテルとしてその場に留まる。


「エア・エクスプロージョン!!」

アリアスが吠えた。

ドニー先生を呑み込みそうな程の風の塊が放たれた。


それはまだ欠伸をしているドニー先生に直撃。

さらに周囲に漂っていた風属性エーテルがそれに反応し、連鎖爆発を起こす。

エーテルの連鎖反応。

アリアスが乱発していた風魔法はこの為の布石だ。


爆風で引っくり返る観戦者がいる程の威力。

その中心にいるドニー先生は…


「やはり…無傷」

リーザが言うように、全く無傷でそこに立っていた。

「まだだ!」

「まだだよ!」

ハルトとエリーが同時に叫んだ。


いつの間にか、アリアスの姿が消えている。

「なっ…いつの間に!?」

リーザの声が、他のクラスメイト達の驚愕を代弁していた。


アリアスは爆発に紛れて、ドニー先生の真正面にいた。

右拳を握りしめている。

「死ね!!ライトニング・インパクトォォッ!!!」

その拳が青いスパークを放った。

雷の魔術…さっきまでの攻撃はこの為の仕込み。


雷は周囲の風を巻き込んで、小さなハリケーンを生み出した。

流石のドニー先生でもあれをもらったらタダでは済まないだろう。

ハルトはその瞬間を逃さぬよう、エーテルスカウターを被り直して凝視した。


アリアスの一撃がドニー先生の顎を捉える…その瞬間。

途轍もないエーテルがドニー先生の身体から放たれた。

エーテルは瞬時に拳を受け止めると、アリアスのエーテルと混ざり合い、爆ぜた。


「なにぃぃぃっ!??」

アリアスは自らの一撃の衝撃を跳ね返されて、吹っ飛んだ。

見上げるハルト達の上を通り越して、そのまま闘技場の入り口近くまでぶっ飛んでいってしまった。


「あぁ…あいつ大丈夫かな…」

と言いつつハルトは、今目撃したドニーの魔法について検討を続ける。

「威力を殺すだけじゃなく跳ね返した…いやでもその前に一旦受け止めてたから跳ね返してるんじゃないな…相手のエーテルを吸収して爆発させた?リアクティブアーマーを攻撃用にしたみたいなイメージか?だとすると…」

「あの、えっと、ハルトくん?もしもーし」

エリーの声が遠くに聞こえる気がするが、ハルトはそのまま考え事に没頭する。

今見た魔法の仕組みや弱点、そしてナンバーズへの転用について…考えたい事が次々に湧いてきて、周囲を気にする所ではなかった。


ハルトはブツブツと呟いたり、歩き回ったり、ノートに書き殴ったりしながら考えをまとめ上げた。

ようやくハルトが浮上して現状を認識した時には、既に生徒の半分近くが失敗した後だった。


********************

「あ、ハルトくん、考え事は終わった?」

エリーが苦笑しながら近寄って来る。

「あ、うん。一応。そういえば今どうなってるのか教えてくれない?全く見てなくて…」


「ふふ…そんなのハルトくんくらいだよ。今、15人目が断念したところだよ。みんな、手も足も出ないみたい。」

「そんなに!?ちなみにエリさんは?」

「私は…ダメって言われちゃった。リハビリ中なだけで本来はここにいるべきじゃないからって。」

エリーは唇を突き出して不貞腐れている。

まあ、確かにエリーは勇者なのだから、こんなテストなんて不要なはずだ。


「じゃあ、もう勝ち目無し…?」

「うぅーん。厳しいかも…」


ハルトが闘技台の近くまで戻ってみると、クラスメイト達の間には既に白けた空気…諦観が満ちているようだ。


「あいつ大人気無ぇよ…」

「無理よ、あんなの…」

ドニー先生は腕を組んで仁王立ちしている。

前の生徒が断念してから既にけっこうな時間が経過しているようだが、名乗り出る生徒が出てこない。


「終わりか?結局、無駄な時間だったな…」

「待ちなさい。」

最後に歩み出たのは、美しいブロンドの生徒…リーザ。


「お前か。尻尾巻いて逃げ出したのかと思ったぞ。」

「まさか。私には…為すべき事があります。こんな所で躓く訳には参りませんわ。」

リーザは青い宝石が散りばめられた、美しい杖を取り出した。

愛おしげにそれを撫でた後、構える。


「ブルーローズの復興…か。重いもん背負わされてんな…」

ドニー先生は呟くと、腕組みを解き半身に構えた。

一瞬で、空気が張り詰める。

ドニー先生は微動だにしないが、その身体からはエーテルがオーラとなって放たれている。


「今まで全然本気じゃなかったってことかよ…」

「あり得ねぇ…」

生徒達の怨嗟と絶望の声が聞こえる。


そんな中、リーザだけは視線を上げ、美しい彫像のように凛として立っている。

「行きます」

リーザが右手の杖を高く掲げる。

そして…舞いはじめた。


バトントワリング…真っ先にハルトの頭に浮かんだのがそのイメージだ。

くるくると器用に杖を回し、自らも回る。

跳び、回り、また跳ぶ。

荘厳なクラシックのメロディが聞こえるような、そんな錯覚を覚える程の美しい舞いだ。


「舞踊術式…そいつもブルーローズの十八番だったな。」

ドニー先生が目を細める。


術式には様々な形態がある。

声によるもの、文字によるもの、そして身体動作によるもの…。

リーザの舞は、術式なのだ。

ステップを踏む度、杖が回転する度に、リーザのエーテルが高まっていく。

そしてそれに比例して、室内の気温がみるみる下がっていく。


「氷属性…観戦中もずっと溜めてたのか…」

氷のエーテルは変化は遅いが蓄積し易い。

それを利用して大技で一気に押し切るつもりだろう。


「果たしてそれがどこまで通用するか…」

ハルトは映画が始まる直前のような高揚を覚えた。

急いでエーテルスカウターを被る。


リーザの杖から青白いエーテルが迸っている。

やがてそれは収束し、意思を持つかのように蠢き始める。

エーテルが形を成す。

龍だ。


「吹雪の化身よ!顕現せよ!ブリザード・ドラゴン!!」

巨大な氷龍が吼える。

溢れんばかりの冷気が大気を凍らせていく。

凍てつく暴風が吹き荒れた。

生身なら、それだけで致命傷になりかねないだろう。


見守る生徒達は慌てて後ろに下がっていく。

そんな中ハルトは、夢中で観察を続けていた。


圧倒的な冷気の暴龍に対してドニー先生は…

動かない。

完全なる静の構え。

しかしその全身からはエーテルがオーラとなって溢れ出ている。


「私の全力…!受けてみろっ!!」

リーザが吼えた。

巨龍が唸りをあげて、ドニー先生に襲い掛かった。

氷の顎が大きく開き、猛烈な吐息(ブレス)を吐き出す。


瞬時に闘技台が凍り付き、氷の華が咲き乱れた。

氷花が無数に折り重なり、巨大な氷塊となってドニー先生に直撃した。


爆発。

氷塊がその衝撃で砕けていく。

「アヴェンジャー」

ドニー先生の結界魔術。

アリアスの時と同様、吸収したエーテルの誘爆によるカウンター。


木っ端微塵に砕けた氷の欠片が、陽光を反射して星のように輝いた。

氷龍が吼える。

万華鏡のような欠片達が、次の一瞬でドニー先生に向けて突進して行く。


氷の弾丸がドニー先生の結界に触れる度、小さな爆発で吹き飛ばされる。

「リーザさんの狙いは…先生のエーテル切れ…?でもそれだと…」

エリーが真剣な面持ちで呟く。

そう、エーテル切れを狙うのならリーザは大技を使い過ぎている。

現にリーザが激しく息をしているのに対して、ドニー先生は汗一つかいていない。


「いや…違う…!本当の狙いは…!」

その時、ドニー先生の結界に異変が生じた。

爆発によるカウンターが不自然に途切れ始めたのだ。


「なるほど。俺の結界に逆にエーテルを送り込んでコントロールしようってか。器用な事だな。」

「余裕を…見せられるのもこれまで…です!」

リーザはもう、肩で息をしている。

限界が近いのだ。


「勝負…!」

リーザが杖を振り上げた。

杖の先が小さく震えている。

「喰らい尽くせ!ブリザード・ドラゴン!!」

振り絞るように発せられた号令と共に、氷龍が突撃した。

「ギガ・アイシクル・エクスプロージョン!!」


青白い閃光。

氷龍の咆哮、そして爆音。

衝撃で闘技場全体が揺らぐ。


「やった…か…?」

ハルトはエーテルスカウターでドニー先生を探す。

凄まじいエーテルの乱気流。

直撃を受けた闘技台は粉々だ。

これなら本当に…


「…っ!?マジかよ…」

ハルトは思わず悪態を吐いた。

吹き荒れるエーテル流の中に…ドニー先生を見つけてしまったからだ。


「そんな…」

リーザが膝から崩れ落ちた。

()()()ドニー先生が、そこに立っていた。


「先生、ちょっと強すぎだって…」

ハルトは若干引き気味に呟いた。


「中々やるな。アヴェンジャーのカウンター封じから全力の一撃。組み立ても悪く無い。だが…」

ドニー先生が首をボキボキ鳴らす。

「威力を散らし過ぎたな。爆発は派手だが、照準が甘い。それじゃ俺の結界は破れんよ。」

「く…ま、まだ…!」

リーザはどうにか立ち上がろうとするが、膝が産まれたての子鹿のように震えてしまっている。


「やめとけ。それ以上は命に関わる。残りの奴らもこれでわかっただろ。お前らじゃ俺に擦り傷一つ付けられないって事がな。」

沈黙。

誰も反論出来ない。

「ふん。オビー先生もこれで満足だろ…ってもう居ねぇし。相変わらず尻の軽い奴…」


「あの〜、ドニー先生。」

ハルトは質問しながら、リーザの元に歩き出した。


「…なんだ?」

「先生って、独り身ですか?」

ハルトはリーザのところまで行くと、震えて動けない彼女に肩を貸す。

「あ、貴方…私はまだ…」

「いいからいいから。あとは俺がやるからさ。」

「な、何を…」


ハルトは苦労してリーザを連れ出すと、エリーの隣に座らせた。

そして振り返る。

「で、どうなんですか?」

「んな事が何の関係がある。ふざける…」

「ふざけて無いですって。もし奥さんとか子供とか、彼女さんとかいたら困るじゃないですか。ぶっ殺しちゃった時に。」


ドニー先生は訝しげな表情だ。

「お前、何言ってやがる。」

「あれ、おっかしいな…意味、わかりません?これから俺が、先生をぶっ飛ばすんですけどね、勢い余って死んじゃっても、良いですか?って事。ドゥー・ユー・アンダスタン?」

読んで頂き、どうもありがとうございます!


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