プロローグ #4.俺のメカが無双する
目前にまで迫っていたオークの群れ。
汗や涎を振り撒きながら迫る、醜い怪物達。
それが、一瞬で血の花を満開に咲かせた。
「な、なにぃ!?」
カリュドーンが無様に狼狽しているのが見える。
そうしているうちに、オーク達は次々に血祭りに上げられていく。
ハルトから半径10メートル以内にいたオーク達は、全て骸と化した。
「アリエス、スタンバイモード。」
ハルトの呼び掛けに応じて、オーク達を虐殺していたソレがゆっくりと舞い降りて来る。
ハルトの作り上げた、魔導力式武装強化外骨格"ナンバーズ"。
その試作1号機が、殲滅特化型アーマメント"アリエス"だ。
「パイロット、セットアップ。」
ハルトのコマンドに応えて、アリエスの背部が大きく開いた。
中に入ると、腕、脚、続いて胴体がロックされた。
ハルトの背骨に沿って、神経接続針が挿し込まれていく。
「痛っつつ…この辺はまだ調整が必要だな…」
『魔力同調確立成功しました。』
「知覚同期開始」
背骨に差し込まれたプラグが熱を発し始める。
ハルトがプラグを通してアリエスとの魔力的結合、エーテル・リンクを高めていく。
ハルトの意識がアリエスと同期し、拡張していくその時。
ハルトは強い怒りを感じる。
あり得た現実、失われた未来への怒り。
それは突然に異世界へ放り出された事へのハルトなりの反逆であり、自らの存在を強く叫ぶ魂の狼煙でもある。
理不尽を叩き潰し、この異世界に自らの存在証明を刻み込む。
そのためにハルトが創り出したのが、ナンバーズだ。
やがて燃えるような痛みとともにアリエスとの同期が完了する。
その時ハルトはアリエス、アリエスはハルトとして、戦場に立っていた。
自らの意識とアリエスの挙動が完全にリンクし、あらゆる兵装、あらゆる駆動がハルトのコントロール下に入っている。
周囲の状況は、複数のセンサーによって分析され、複合的な情報となってハルトに伝達される。
残存する敵兵、凡そ5,000。
更に観測範囲を拡大すると、後続に凄まじい数のオークたちが待機しているのが確認できた。
その数は優に20万を超えている。
恐らく魔王が勇者を討ち取った段階で侵略を開始し、あらゆる街を吞み込んで虐殺を行うつもりなのだろう。
エリーはその景気づけという訳だ。
「なんだ貴様は…なんだその姿は…!?」
惚けた顔で驚いていたカリュドーンが、ようやく我に返ったようだ。
『アリエス。お前らを殺す、俺の最終兵器だ。』
「ふん…粋がりおって…!その自信がいつまで続くかな?かかれ!我が眷属達よ!!」
5,000のオークたちが、ハルトを取り囲むように陣形を組み、突撃してきた。
前衛は大きな盾を持っており、その隙間からは槍がハルトを狙っている。
さらに後ろからは弓兵が矢を雨のように降らしてくる。
魔王直属の部隊なのだろう、オークとしては破格の練度だ。
ハルトは特に避けるまでもなく、振ってくる矢を受けた。
アリエスの脅威度判定の通りだ。
装甲には傷はおろか痕すらつかない。
ハルトはアリエスの主兵装を起動する。
「ファンネ…もとい、アサルト・ガン・オービット起動。」
アリエスの外装が蕾が花開くように稼働し、内部に格納されていたエーテル誘導式浮遊機動銃が射出された。
10機のガン・オービットがオーク達に襲い掛かる。
それぞれのアサルト・ガン・オービットから超高圧エーテル流が放たれた。
その青い光線は、岩を溶けたバターのように簡単に切断する。
オークの身体など、正に鎧袖一触。
ほんの数秒で、ハルトを取り囲んでいたオークの半分近くが細切れになった。
「ブ、ブハ!??なんだ…なんなのだそれはっ!?」
カリュドーンが慌てふためいた声を上げる。
そうしている間にも、オーク達は悲鳴を上げる事すら許されず撫で斬りにされていく。
「えぇいっ!?何をしている!?やれ!!オークジェネラル共よ!!」
業を煮やしたカリュドーンの号令で、それまで静観を決め込んでいた巨大なオーク達が歩み出た。
その大きさは通常のオークの5倍程。
オークの上位種、オーク・ジェネラル達だ。
「ブフフゥッ!!我らにお任せをっ!!」
「ブフフゥファっ!!我ら親衛隊が、王に仇なす不届者を…ブヒァッ!!??」
ハルトはとりあえず、オーク・ジェネラルの1匹を集中砲火で微塵切りにした。
「ブヒブ!??貴様よくも…ブヒヒヤァッ!?」
アサルト・ガン・オービットは鈍重なオーク・ジェネラル達を次々に血祭りに上げていく。
「ブヒッ!??ば、馬鹿なっ!?我が親衛隊が…」
『心配すんな。次はお前だ』
さっさとオーク・ジェネラル達を地獄に送った後、オービットがカリュドーンに攻撃を開始する。
カリュドーンは身に付けていた盾でエーテル流を防いだ。
「ブハハハハァッ!!大魔王様より賜りし、この黒曜天魔石の盾に、防げぬものなど無いわぁっ!!」
カリュドーンはこれ見よがしに盾を見せびらかす。
対するハルトには、微塵の焦りもない。
『どうかな…試してみろよ!!』
そう叫ぶと、10機のオービットが舞うように集結し、連結した。
『収束魔法陣展開。』
環状に連結したオービットの前面に、魔法陣が展開される。
オービットから青い燐光が溢れる。
『ブルー・バースト・プロトコル。ファイア!!』
全てのオービットから一斉にエーテル流が放たれた。
10本の光線は魔法陣によって湾曲、1本の光線へと収束する。
「ブヒッ!??小癪なぁっ!!」
カリュドーンが再び盾で受け止める。
凄まじい熱量により、ブラックオリハルコンの盾が激しい音を立てる。
「ぐぬぬぬ…!!この…程度でぇぇぇっ!!」
カリュドーンは巨体から黒い魔力を放出した。
闇の魔力に共鳴し、ブラックオリハルコンが漆黒の光を放つ。
「ブヒ…ブハハハハ…!!どうだぁっ!!これで…」
『出力全開』
オービットがさらに出力を上げた。
特大の収束エーテル流が黒い光に注ぎ込まれる。
「ブヒァァァーっ!!我は、魔王也!!我が魔力を…舐めるなぁぁっ!!」
カリュドーンが咆哮し、黒い魔力がさらに高まった。
極限まで高まった2つの力は、互いに反発・共振し、大爆発を巻き起こした。
閃光。
そして轟音。
最後に衝撃が襲ってくる。
ハルトはエリーの前に立ち、彼女を守った。
『…思ったよりやるね』
爆発の余波が鎮まる。
ハルトは煙を上げながらも立っているカリュドーンを、素直に称賛した。
魔王の称号は伊達では無いということか。
「ブヒ…ブハ、ブハハハハ…!見たか…!受けてやったぞ!!これで我の…」
『ちなみに、オービットはあと90機あるから』
何故か勝ち誇っているカリュドーンに、ハルトは現実を教えてやる。
「ブヒ…?なん…だ…と?」
『計算できるか?あと、90、あるぞ。10+90だ。わかる?』
茫然とするカリュドーン。
いまいち伝わっていないようだ。
『頭が悪くて理解出来ない?だから、オービットは全部で100機あるんだって。』
「ブヒヒヒヒヒヒヒッ!?そんな…そんな訳あるかぁっ!!!?」
ようやく理解出来たのか、カリュドーンが喚き始める。
「これほどの兵器を…ひゃ、百だと!??あり得ん!?そんなことは…あってはならん…!!ブヒッ!?さては貴様…ハッタリだな!?それで我を動揺させる…」
などと現実逃避を始めるカリュドーン。
『いや、ほんとだから。ほら。』
ハルトは、次から次へとオービットを射出した。
宙を舞う無数のオービット。
その総数…100機。
「ブヒヒヒヒヒヒヒのヒヒヒッ!!??」
『全機出力全開。サテライトフォーメーション。』
100のオービットが、10機ずつの10組に分かれた。
それぞれが収束魔法陣を展開する。
青い燐光が全天に満ちる。
「ま、待て…!!お、落ち着け…!!我を見逃せば!!」
この後に及んで、カリュドーンは命乞いを始めた。
『見逃せば?』
ハルトはとりあえず聞いてやる事にする。
「お、お前を我が軍の幹部に…」
『無いわ』
オービット郡の発する光がさらに強さを増す。
「待て…ま、待つのだ!!!そうだ!アレだ!我を見逃せば…アレだっ!!!」
『アレ?』
カリュドーンはまだ頑張るようだ。
とりあえず聞いてやることにするハルト。
「そそそ、そうだ…だ、大魔王様にせ、説明して…」
『説明して?』
「き、貴様を魔王の1人に…」
『うーん、それだけ?もう一声いってみようよ』
「も、もう一声っ!?そ、それは…」
『あっそ、じゃあ…』
軽く手を挙げるハルト。
するとカリュドーンは泡を食って狼狽し、手を滅茶苦茶に振り回してそれを止めようとする。
「ブヒァ!?待て待て待て待てっ!!!そうだ!我が領土の、半分をやる!!」
『ほうほう、それから?』
さらにもう一押し。
「ブヒァァッ!??さ、更に…更にもう半分もやる!!全部だっ!全部くれてやるぞ!!」
『おぉ〜それは凄い』
「そ、そうだろ!??我は太っ腹だから…」
少し安堵したようなカリュドーン。
『でも無理。無い。』
からの全否定。
「ブヒ!??な、何故っ!??」
カリュドーンは文字通り腰を抜かしてひっくり返った。
魔王の威厳など欠片も無い。
『お前は俺の大事なもんを奪った。それだけ。』
ハルトは冷たく言い放つ。
「待ってくれ!頼む!!お願いだからっ!!」
往生際の悪いカリュドーンを無視して、ハルトは大きく両手を挙げた。
『じゃあな。魔王カリュドーン。地獄でたっぷり罪を償え。』
全てのオービットが、射撃態勢に入った。
『ブルー・ディストラクション・プロトコル。エーテル・フィールド展開。』
100のオービットが、カリュドーンを囲むように結界を形成する。
こうしないと威力が強すぎて被害が尋常じゃ無くなるからだ。
じわじわと後退りしていたカリュドーンは、哀れにも結界に捉えられた。
「よせ、やめろぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
『オールファイア』
10本の収束エーテル流が発射された。
エーテル・フィールド内のあらゆる物質が絶大なエネルギーにより瞬時に蒸発し、プラズマと化した。
まるで太陽が目の前に現出したかのような、凄まじい激光。
およそ5分もの間プラズマ反応は続き、後には底が見えないほどの大穴が残った。
カリュドーンなど影も形も無い。
オービットを収納しながら、ハルトはひとりごちた。
「…ちょっとやりすぎたかな。」