プロローグ #3.第十三魔王襲来
どうもテンポが良くなと思ったので、#3を全面的に変更しました。
冒頭のみ同じですが、後半からは別展開になっています。
翌日。
ドロシーとエリーに詰め寄られて、ついとんでもない約束をしてしまった。
ハルトは頭を抱える。
7年間、ハルトはこちらの世界とはほとんど関わり合わずに生きてきた。
元々人見知りな上に、あてがわれたこの敷地は魔族領に近く、辺鄙かつ危険であるためほとんど人が訪れない。
そのくせハルトのやりたい事が全て出来てしまうため、外界に興味を持つ必要が無かったのだ。
それがいきなり王都とは…
別に、遠いところに向かう事に抵抗はない。
好奇心もあるし、何より惚れた女の子と旅をするのだ。
この旅を通して仲を深めて…などという下世話な願望が無い訳では無い。
ただ問題は…
「うぅーん…旅をするとなると、開発室がなぁ…」
ハルトの自宅、その地下には広大な空間が広がっている。
そこは作業用の魔導力式機械が所狭しと並ぶ、巨大ワークスペースだ。
ハルトのやりたい事…つまりロボット開発を行うために多大な時間と労力を掛けて整備したのだ。
それを置いて行くのは…
「嫌だよなぁ…まだナンバーズも半分も出来てないし…王都で開発続けられるかなぁ…」
ハルトは悩みながらも、現実から逃避するため目の前に置かれている素材を弄り始める。
それは昨日オーク達から回収した、魔力結晶だ。
こちらの世界では、ある程度強い生物には魔力の源泉となるエーテル・コアが備わっていることが多い。
その中で最もマシそうなエーテル・コアを取り出すと、ハルトはそれを些細に観察する。
マシといっても所詮はオークの親玉程度。
純度は低いし大きさも親指の爪位で特に見るべき点は無い。
「まあ、とりあえずバッテリー化しとくか…」
ハルトは呟くと、オークリーダーのエーテル・コアを作業台に運ぶ。
針のようなものが付いたケーブルを2本取り出し、先端をコアに突き刺す。
純度の低いコアは再生力が低いので、割れてしまわないように慎重に差し込んでいく。
針の根元付近まで挿入した後、ケーブルの反対側に取り付けてある魔極…魔力を導通させる媒体…を握る。
「魔力注入開始っと」
ハルトは意識を集中して、魔極からエーテル・コアへと魔力を注入した。
スキル"魔力注入"。
異世界転移によってハルトに顕現したスキルの1つである。
その効能はシンプルで、対象物に自分のエーテルを注ぎ込む事が出来るというもの。
戦闘技能が特に重要視されるこの世界では、使い道が全く無いゴミスキルとされている。
まあ、敵に魔力注入してどうすんだって話だし、味方に補充的な使い方は出来なくも無いけど、属性が合わなきゃ無意味だし、回復魔法の方が余程早くて汎用的だし…仕方ないよな…
エーテル・インジェクションを使う度、ハルトはいつもそう考える。
そして、こうも思う。
でも、こんなに使えるスキルなのに、誰も気付いてないとか…残念だなぁ…
事実、このスキルによってロボットの大きな課題の1つである"エネルギー問題"が解決できたのだから。
ハルトが発見したエーテル・インジェクションの真価は、魔物のエーテル・コアを高性能バッテリーに変貌させられる事だ。
エーテル・コアは基本的にフル充填されている事はなく、実は容量の半分も使われていない。
そのため外部からハルトの魔力を注ぎ込む事で、その性能を飛躍的に高める事が出来るのだ。
(あとはこいつを入れるケースを整形して端子を繋いで…家事用ロボットの予備バッテリーくらいにはなるか…)
そんな事をしているうちに時間は経ち、いつの間にか昼になっていた。
ドロシーは今頃、昨日オーク達に荒らされた庭の片付けをしているだろう。
とすると今エリーは1人…
「げっ…やばい…エリさんを放置プレイしちゃってる…と、とにかく戻るか…」
ハルトが慌てて階段を駆け上がり、母屋に入った途端。
突然、ハルトの全身を悪寒が走り抜けた。
「えっ…?」
前の世界で幼い頃罹った流行病を思い出させる、寒いような暑いような異様な感覚。
平衡感覚が麻痺したように、脚がふらつく。
「一体何が…」
「ハルトくん!!」
エリーが血相を変えて駆け寄って来る。
「エリさん?どうして…」
「敵…!敵が来たわ……!」
ズズン…!
地鳴りのような音が轟き渡る。
窓から音の方向を見る。
轟音と黒煙、そして爆風。
「この魔力…まさか魔王が…」
青ざめるエリー。
そこでハルトは思い至る。
「ドロシーが今、外に…!」
********************
「うそ…だろ?ドロシー…!?」
ハルトの前には、無惨に破壊されたドロシーの残骸。
4本の腕は全て引きちぎられ、頭部はかろうじて胴体と繋がっている。
執拗に痛めつけられたのだろう、フレーム全体が激しく歪み、ひび割れ、折れている。
内部構造からは火花と煙が立ち上り、潤滑油などの液体が溢れ出る様はまるで流血しているかのようだった。
「酷い…」
エリーは茫然自失状態のハルトを下がらせた。
ハルトはぐちゃぐちゃになってしまったドロシーを、どうにか修理しようと手を動かす。
「駆動系も動力系も全部ダメだ…クソ…CPUも…!」
死…
その一文字が浮かぶ。
ドロシーは機械だ。
だがハルトが初めて作り上げたロボットであり、長い時間を共に過ごした。
執事であり、メイドであり、友人そして、家族…。
それを…
ハルトは生まれて初めて、殺意というものを覚えた。
怒りやら悲しみやら、そういった負の感情が一度に押し寄せて滅茶苦茶に混ぜ合わされ、そこに地を突き抜けるほどの落ち込みが加わって圧縮された、そんな感情。
それを、人は殺意というのだ。
ハルトはゆらりと立ち上がった。
半透明の膜が掛かったような感覚で、周囲を見回す。
無数のオーク達。
鎧を着けた隊長格のオーク共。
そしてその奥に、通常のオークの10倍はあろうかという化け物がいた。
その化け物に、エリーは果敢に挑んでいる。
「カリュドーン!!仲間達の仇…!!」
エリーの持つ長剣が、微かな光を放つ。
「喰らえっ!!ブレイブ…」
飛び掛かったエリーを、化け物が蝿でも払うように撥ね飛ばした。
「かはっ…」
エリーは地面に激突してピンポン球のように跳ね返り、しばし宙を舞った後、再び地へと堕ちた。
「あ…あ…」
声も出せないエリーを、カリュドーンは指で摘み上げた。
「ブハハハハ!この程度か勇者とやらは!!」
耳に障る濁声で、カリュドーンが嗤う。
徐ろにエリーの腕を掴むと、小枝でも折るようにその腕を折り曲げた。
「ああああぁっ!?」
エリーが絶叫し、カリュドーンはまた汚らしい声で嗤った。
「ブハハハハハハハハハ!!これでもう抵抗も出来まい。我が眷属の慰みものになるが良い。ブハハ!勇者が犯される様は良い肴になろうぞ!!」
ゴミでも投げ捨てるように、カリュドーンはエリーを放り投げた。
ハルトは落ちてくるエリーを、ギリギリのところで受け止める。
「エリさん…」
「ハル…ト…逃げ…」
「いいや、逃げない。」
「なに…を…」
ハルトはゆっくりとエリーを下ろすと、すたすたとカリュドーンの方へ歩く。
カリュドーンは、そんなハルトを見下ろしてただ嗤っている。
「おい、お前。1つ聞きたい。」
ハルトが呼びかけると、オーク共が一斉に殺気立ちはじめた。
人間風情が魔王に不遜な口をきくな、とでも言いたいのだろう。
カリュドーンは鷹揚に、それを治めた。
魔王の貫禄でも見せているつもりなのだろう。
「なんだ、小僧。この第十三魔王カリュドーン様と話せる機会などそう無いぞ。質問は大事に…」
「ドロシーをやったのは、お前か?」
カリュドーンのうざったい声を遮り、ハルトは冷淡な声を張り上げる。
これも今初めて知ったが、人間は殺意を抱くと抑揚が無くなるらしい。
「…ふん。その奇天烈なガラクタのことか?生意気にもこの我に挑んできたのでな。存分に痛めつけてやったわ!!」
カリュドーンは下品な笑い声を上げる。
その時点で、こいつの死刑は確定した。
しかしカリュドーンはまだ自慢げに余計なことを宣っている。
「我は拷問が大好きでなぁっ!!これまでも数え切れん程の人間共を壊してきたのだぁっ!!その我に掛かればそんなガラクタなどゴミ同然よ!だがやはりいたぶるのは人間に限る。人間の骨を一本ずつ砕くとなぁ、良い声で泣くのだ!!ブハハハハハハハハハ…」
「わかった。もう良い。」
確認したい事は済んだ。
おまけにベラベラと余計な事まで教えてくれた。
ある意味、コイツが本物の屑野郎で良かった。
お陰でハルトも、踏ん切りがついた。
話を遮られたカリュドーンは、僅かに眉間に皺を寄せた。
「小僧…あまり調子に乗るなよ。貴様など我の気まぐれで生かし…」
「黙れ豚。臭ぇんだよこの焼豚が。」
「……死にたいようだな小僧ぉーー!やれ、我が眷属達よ!!」
先ほどまでの余裕はどこへ行ったのか、煽られて突然ブチギレたカリュドーンが号令を発した。
想像以上に煽り耐性が低い。
「ほら、キレた。どんなに取り繕っても所詮、豚は豚だ。」
ハルトは暗い満足感と共に呟いた。
小物はどれだけ威張っても小物なんだと確認しながら。
オークの大群が殺到する中、ハルトは嗤った。
この殺意を、成就させる。
その思いと共に、ハルトは叫んだ。
「死ぬのはお前だ。来い…!"アリエス"!!」
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2023/10/07 ジャンル設定を間違えてしまっていたのを修正しました。
中身は変わっておりません。紛らわしくて申し訳ない…