表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/18

プロローグ #2.女勇者エリー

「うう…ん?」

キングサイズのベッドの上で、もぞもぞと女の子が動き始める。

薄らと目を開け、呆けたように視線を左右に動かす。

段々と覚醒し始め、やがてガバッと上半身を起こした。

…ところで、ハルトと目が合い、硬直した。


「や、やあ…体はもう、だ、大丈夫かい?」

ハルトはしどろもどろになりながら、どうにか言葉を捻り出した。

彼女を運び、着替えさせ、治療を施した…のはドロシーだが、その後気になって様子を見ていたところだったのだ。

断じて、可愛いから眺めていたとか、そんな事では無い。

断じて無い。

ただただ心配だったから…


「決して不埒な事はしてないし考えてもおりませんのでどうか許してくださいごめんなさいほんとすいません!!!」

とりあえずハルトは土下座をして誤解を解いておく事にした。

……

………

沈黙……

……………

………………

…………………

「えっと…顔を、上げて、ね?」

おずおずと女の子が声を掛けてくれたので、ようやくハルトは顔を上げた。


そこにはハルトのTシャツを着て、ベッドから身を乗り出したとんでもない美少女がいた。

小柄なハルトのシャツは、背の高い彼女が着ると非常にスタイルが強調されてけしからん事になっている上に、前屈みの体勢によって胸元がとんでもなくけしからん事になってしまっている。

あまりにも凶悪な刺激は、初心なハルトの心に途轍も無いダメージを与えた。

理性で制御する前に、ハルトの息子がノックアウト…もといパンプアップを始めてしまう。

それを隠すため、ハルトは大慌てで体を折り曲げた。

そして、近くにあった彼女の顔と正面衝突を起こし、奇跡としか言いようのない悪魔的な何かによって、顔の中でも絶対にぶつかってはならない部分とハルトの唇がガッツリとドッキングする結果を招いた。


「っ!??!??!!?!?!???」

「っ!?!!!???!!!??!!」

その事件を理解するより早く、頬に信じがたい衝撃を受けて、ハルトは気を失った。

後に教えてもらったところによると、それは光の速さで繰り出された女の子の張り手であったという。


********************

数時間後。

すっかり夜も暮れた頃、ハルトは自分のベッドで目を覚ました。

頭が割れるように痛い。

どうやら悪夢を見ていたようだ。

いや、悪夢とは一概に言い難い。

なぜなら唇に残るあまりにも柔らかい感触は、夢にしては破格の素晴らしいもので、その部分だけは女の子とついぞ触れ合ったことの無いハルトにとっては生涯忘れたく無い、甘美な夢といえる。


何故こんな時間まで寝込む事になったのかよく思い出せないが、ハルトはとりあえず起きようと、ベッドに手を付いて動こうとした。

むに。

その手に、ベッドではない何かの感触が伝わって来て、ハルトは困惑した。

それは未だかつて経験したことの無い、柔らかい中にも弾力のある膨らみであった。

「んっ……」

そして、これまた経験したことの無い、いや、妄想の中でしか聞いたことの無い艶やかな声がした。


「えっ!????!??!!」

ハルトは自分の目がおかしくなったのかと思い、瞬きを体感100回ほど繰り返した。

何故ならそこには、ハルトのTシャツを着た、めちゃくちゃに可愛い女の子が横になっていて、更にハルトの手が決して触れてはならないところを鷲掴みにしていたからだ。


心臓の音が半端ない。

目の前で打ち上げ花火を100発打ち上げたらこんな音がするのだろう。

状況は全く理解出来ないが、とにかく色々な部分、特にハルトの下半身が大変な事になりつつあるのはわかる。

1秒でも早く手を離さねばならないのだが、あまりにも気持ち良…いや名残惜し…勿体無…いやいや、動揺してしまって!手を離すのを忘れている。

そしてそうこうしている内にも、彼女が薄らと目を開け始めて…


ガチャッ。

突然、ドアが開く音がした。

その音で、ハルトは本当に飛び上がらんばかりに驚き、そのせいで…いや、おかげで手を離す事に成功した。

女の子もパッと目を覚ましたようだ。

『目を覚ましましたか?2人とも。おや、ハルト…あなた……』

ドロシーの赤いセンサーライトが、冷たく輝いた。

「申し訳ございませんでした!!!!!!!!」

ハルトは叫び、今日2回目の土下座を繰り出した。

床に額を擦り付けて、その痛みで下半身の暴走を抑え込む。

どうにか鎮圧に成功したようだ。


「えっと…大丈夫?ごめんね、私驚いて反射的に…」

「滅相もございません!!こちらこそ、事故とはいえ、その、ふ、不埒な事をしてしまい!事故、事故なんですが!!」

「そ、そうね。事故…よね。仕方ないわ…」

そして小さな声で残念そうに。

「初めてだったんだけどな…」

と彼女は呟いた。


その声を聞いて、罪悪感で全身を貫かれたハルトは思わず…

「お、俺も…!初めて…!でした…!!こ、後悔させないように!貴方に相応しい漢に、俺がなり、なります!!」

そんな恥ずかしい事を口走ってしまった。

彼女の反応が気になり、思わず顔を上げる。


彼女は驚いたように目を丸くし、続いて頬が赤く染まり、さらに顔中が真っ赤になって、その後少し涙目になり、やがて照れたように笑った。

その一連の変化はあまりに尊く、柔なハルトの心を木っ端微塵に粉砕するのには十分すぎる破壊力であった。

(あ、惚れたわこれ)

ハルトはその時はっきりと、その事を自覚したのだった。


********************

『それで、貴女のお名前は?』

場所は変わって、ここはハルト宅のダイニングルーム。

天板を巨大な杉の木の一枚板で作ったハルトこだわりのテーブルで、ハルト達は彼女から事情を聞いている。


明るいところで見る彼女は、より可愛く、冗談抜きで一生眺めていたい。

そして、その時ハルトはようやく気付いた。

ハルトと彼女は、初対面では無いことに。

「私は…エリー。エリー=ヴァージニア、と言います。」

そう言った彼女に、ハルトは思わず、

「佐藤…佐藤エリ、さんだよね?」

と口走っていた。


エリ=エリーは一瞬、何を言われたか理解できなかったようだ。

表情が固まり、記憶を探るような表情になり、ハルトをまじまじと見詰め、大きく口を開けるに至る。

「えっ………佐藤…くん?」

ハルトは壊れた人形のように首を振りまくった。

7年もの時を経て、あの佐藤エリが自分を思い出してくれるとは思いもしなかったからだ。


「そう。俺、佐藤ハルトだよ。7年ぶり…だね。」

ハルトを含む、市立洲拓(すたく)小学校3年2組30名が、この世界に転移して来たのが7年前。

転移直後に行われた大選別により勇者と認められたエリと、戦闘適性無しとして切り捨てられたハルトは、それ以来一度も顔を合わせる事無くこの世界で生きて来ていた。


佐藤エリはその頃から既に抜群の容姿、明晰な頭脳、優れた身体能力を誇り、それでいて性格も良いという完璧超人であり、彼女が勇者でなくて誰が勇者なんだと子供ながらに思ったものだ。

それに比べてハルトはといえば、元の世界では日陰者、こちらの世界でも役立たずという、正に路傍の石。

そんな2人の接点はというと、単純に出席番号が続き番であることだけ。

こちらはバリバリに意識していたからすぐに思い出せたが、エリの方も思い出してくれるとは…さすが完璧超人佐藤エリである。


「すっごい偶然!こんなところでクラスメイトに逢えるなんて!!」

エリは目をキラキラさせながら、恐ろしい事にハルトの手を両手で包んだ。

その瞬間、なんとか復旧しつつあったハルトの自制心が無惨に破壊され、またしても下半身の暴走に懸命に抗わなければならなかった。


『エリーさん、それ以上はハルトが壊れるのでそのくらいに』

「え、あ!ごめん!」

柔らかな手が離れると、ハルトは肩で息をしながらどうにか心を…下半身を落ち着ける。

「いや…むしろありがと…いや、大丈夫、大丈夫。」


『異世界からの召喚者で、名前がエリー。貴女があの勇者エリーという事ですね?』

主人が息も絶え絶えになっているのを見かねてか、ドロシーがどんどん話を進めていく。

こくりと頷くエリー。


『貴女が人間領に戻っているという事は…魔王討伐は…?』

ハルト達が召喚された最大の理由。

それは魔王率いる魔族との戦争だ。

強大な力を誇る魔王軍の前に窮地に陥った人間側が、ハルト達を呼び寄せたのだ。

"勇者"とは魔王討伐をその使命とする者の称号なのだ。


エリーは唇を噛み、俯いている。

その反応、そして彼女の陥っていた状況を考えれば、その答えは自明だ。

「失敗…か…」

「ごめんなさい…」

エリーは糸が切れたように、力無く崩れ落ちそうになる。

ハルトはそれを咄嗟に支えた。


「謝る事なんかないだろ。勝手に呼び寄せて勝手に戦かわされてるんだ。誰も君を責める権利無いさ。」

ハルトはどうにかエリーを励まそうと、言葉を探す。

しかし戦いの最前線に立っていた彼女に、隠居同然だったハルトの言葉など響く筈もない。

掛ける言葉も尽きて、やがて気まずい沈黙がダイニングに満ちる。


『ふむ。状況はわかりました。では、貴女はこれから王都に向かうのですか?』

そんな空気などお構いなしに、ドロシーは質問を続ける。

ロボットなのだから空気読みなどしないのだ。


「ええ…とにかく討伐失敗の報告と、仲間達の救出を…」

『わかりました。ではハルト。彼女を王都までお送りしなさい。』

「ああ、わかったよ………って、え??今なんて言った???」

軽く引き受けそうになり、ハルトは慌てて聞き直した。

『彼女を、王都まで、お送りしなさい。』

ドロシーが必要以上にはっきりと言い直した。

「え、いや、えぇ!?なんで…」

「本当に!?助けてくれるの!?」

何故かエリーも乗り気だ。

女2人にグイグイ迫られて、ハルトは目を白黒させる。


「ちょ、ちょっと待ててって…!ドロシー、一体どういう…」

『何を今更。ハルトはこの方に相応しい男…漢になると誓ったのでしょう。』

ドロシーはわざわざ男を漢と言い直して、ハルトを詰めてくる。

『この方は勇者。であればそれに釣り合う為には貴方も相当な覚悟を決めねば。』

「そ、それが王都に送って行くってこと…?」

ドロシーの赤いセンサーライトが、レーザーのようにハルトを射抜く。


『何を仰いますか。そんなのは序の口。貴方はこの方の行く所、例えそれが地獄の底であろうと付き従い、彼女の道を切り拓くのです。それが女勇者に相応しい男…漢というものです。』

その、男と漢の使い分けなんなん!?

そんなの教えた記憶無いんやけど!?

と、心の中でツッコミをいれるものの、ハルトはいつに無く詰め寄ってくるドロシーに何も反論出来なかった。


「あ、あの…佐藤くん…私からもお願い…します。」

エリーはやおら立ち上がり、またハルトの手を握る。

「私、今勇者の力が無くなっちゃってるの。だから、今日みたいに魔物に襲われたらどうしようもない…だからお願いします!私と王都に行ってください!」

ハルトは魅惑的な手の柔らかさや、微かに香る柑橘系の匂い、真っ直ぐな瞳に絨毯爆撃されて、最早前後不覚に陥った。

そして…

「わ、わかり…ました…」

と、いつの間にか口走っていた。

読んで頂き、どうもありがとうございます!


感想、コメント等頂ければとても励みになります!

どうぞよろしくお願いします!


2023/10/07 ジャンル設定を間違えてしまっていたのを修正しました。

中身は変わっておりません。紛らわしくて申し訳ない…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ