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第一章 #13.クラス対抗戦 その1

「ふぁ〜あ…」

「なんだハルト、寝不足か?」

教室に着くなり大欠伸をするハルトに、トモヤが声をかけて来る。


「いやぁ…大変だったんだ…」

ハルトが入寮したのは昨日の事。

部屋に閉じこもって一安心…とはいかず、事あるごとにフィーリがやって来ては部屋から引き摺り出される羽目に…。

いつ襲撃されるかわからない恐怖で、ハルトはほとんど寝付けず、朝日が顔を覗かせるのを見ると早々に寮を出て教室に逃げ込んで来たのだった。


「おいおい、大丈夫かよ…今日は大変な日なんだぜ?しっかりしてくれよ?」

「えっ…今日、なんだっけ…?」

トモヤはがっくりと項垂れた。

「お前な…今日は"合同訓練"だろうが…」


********************

ウルト第一高等技能学院、1組。

そこに在籍するという事は、エリート中のエリートである証。

その世代の中心であり、いずれはこの国の中核を担う人材達。

実力、財力、品位、全てが最上位の偉才が揃う、特別なクラス。


「おいおい嘘だろ?屑共と同じ授業?あり得ねぇ〜」

「臭い…汚らしい…ゴミがいっぱいですわ」


なんか思ってたんと違う…

1組の生徒達は制服からして豪華で、光り輝くアクセサリーや神々しい装飾の付いた豪華絢爛な服を着ている。

そういった点で、確かに"金は持っている"のだろうが、その言動は…


「スーネル先生〜なんでこんな奴等と俺たち1組が訓練しないといけないんだ?時間の無駄だろ?」

「鼻が曲がる…目が腐る…酷い汚物達ですわ…」

とても品行方正とは言えない…かなり自由…いや有り体に言えば下品な連中だ。


「やめろ。」

その時、一際目立つ金髪碧眼の生徒が声を上げた。

一瞬にして、騒いでいた1組の連中が静まり返る。

「聞いていれば低俗な事ばかりぐだぐだと…貴様らそれでも1組か?」

蒼い双眼が、大声で文句を言っていた大男に注がれた。


「い、いや…さっきのは…ご、誤解だってアレス…な、なあ?フレイ、お前もなんか言えよ」

「ソドムが騒いでたから乗っかっただけですの…私は決して…」

「おいフレイ!?」

アレスという男は、ただ静かに睨んでいる。

それだけで、他の生徒達は言い訳をし、慌てふためき、取り乱す。

エリート揃いの1組にも、序列があるのだろう。

そしてその最上位が…あの男という訳だ。


「貴様達はこの授業の意味を全く理解していない。全ての物事には意義がある。そうですね?スーネル先生。」

「…そうだ。わかったら速やかに準備したまえ。」

スーネル先生は相変わらずの蒼白い顔に、無表情を貼り付けている。

その視線は1組だけに注がれており、3組は正にアウトオブ眼中という感じだ。


「この合同授業は、各組の交流を通して刺激を与え合い、相乗効果によって能力向上を加速させることを目的としている。」

静かだがよく通る声でスーネル先生が告げる。

1組の生徒達が大人しく聞いているのを確認すると、スーネル先生はさらに続ける。

「だが案ずるな。交流といっても馴れ合いなど不要だ。」


先ほどの大男、ソドムの眉がピクっと上がる。

他の生徒にも、僅かに興奮の色が見える。

「求めるのは()()()()。互いに己の全てを賭ける貪欲な戦い。そうでなくては刺激など無い。」

「…そういう事だ。今からお前らにはクラス対抗戦を行ってもらう。」

ドニー先生が後を引き取って言った。


それを聞いて、1組の生徒達のほぼ全員が嗤った。

嗜虐的で、自意識過剰な醜い笑み。


(なんか嫌な予感がする…)

ハルトの首筋を、生温い汗が伝い落ちた。


********************

リーザは深呼吸しながら、自らを覆う巨大な鳥籠を見上げた。


ケージ・スフィア。

1対1の戦闘訓練によく使われる、周囲を金網で覆われたフィールド。

直径は500m程。

フィールド内に障害物や構造物は無い。


中から遠距離の攻防を得意とするリーザにとって、遮蔽が無いのはやや不利と言える。

何故なら相手は…


「おやぁ?これはこれは…随分懐かしい顔だなぁ…くくく」

ソドムは歪んだ笑みを浮かべながら、リーザに近付いて来る。

ソドム・ゴラモール。

上流貴族ゴラモール家の次期当主にして、今期の若手最有望格"ビック3"の1人。


実力は折り紙つき、そして素行の悪さも札付きだ。

「よう貧乏人…()()()は元気か?」

リーザは無視して視線を合わさないように努める。

ここで心を乱されれば相手の思う壺だ。


リーザが黙っているのを良いことに、ソドムはさらに煽ってくる。

「情けねぇ男だよなぁ?自分の家族すら守れねぇなんて、同じ男として軽蔑しちゃうね。」

心を無に。

浮かび上がってくる情景を、どうにかして押さえつける。

聞いてはダメだ…聞いては…


「てか家が滅茶苦茶なのに、こんなとこに来てる余裕あんのかねぇ?貧乏になると心も薄情になるのかねぇ?」

しつこい男だ。

毒水のように耳から入り込んでくる声を、懸命に払い除ける。

立会人として入っているスーネル先生に目をやるが、彼はソドムを止める気は無いようだ。


「お前をここに送り込むのに、お母様は一体何人に股を開いたんだろうなぁ?」

心音が一気に大きくなった。

激しい怒りを感じる。

しかし、何も言い返せない…


痩せた母の姿が浮かぶ。

健康的で溌剌としていた面影はとうに消えている。

しかしそれでも美しい。

美しいが故に、母は客を取り、金を得られる。

男が来ている時、リーザは1人だ。

ひたすらに耳を塞いで、事が終わるのを待つ。

その惨めさや、悔しさを思い出す。


そして閉じ込めている心の闇が、気泡のように浮かんで来た。

棺の中の父…花を手向ける人もおらず…

荒れ果てた家…気に掛ける者もいない。

傷だらけの手首…壊れた母。


リーザは初めてソドムに目を向けた。

無知故の傲慢。

飢える事も、蔑まれる事も知らず、ただ人を見下す。

軽薄でひたすらに腹立たしい男。

「なんだその目は?雌犬がよ」

「黙りなさい下郎…」

「嫌だね。黙らせてみろよ?」

「貴様…!!」


乗せられている。

頭では理解しているが、心は止められない。

腹の中で火龍が吠えているような激情が湧き上がる。


「くくく…ようやく本性が出て来たじゃねえか。先生、さっさと始めようぜ。」

「…よかろう。ではそれぞれ自陣の任意の場所に立ちたまえ。」

フィールドを二等分してそれぞれの陣地とし、戦闘開始位置は自分の陣地内であればどこにスタンバイしても良い、そういうルールだ。

戦闘とは互いに顔を合わせる遥か前から始まっており、索敵や狙撃といったあらゆる局面を想定し、備える。

この学院の授業で口酸っぱく言われている事だ。

彼我の力量差は戦法や地形によって容易に覆る。

故に己の立ち位置をどこに置くかは、戦いの趨勢を決する極めて重要な要素だ。

本来であれば…


リーザは、自陣と敵陣の接線のど真ん中に立った。

あらゆる教えの一才を無視して。

逃げも隠れもする気は無かった。

ただただ、早くソドムを殴りたかった。


ソドムはニヤつきながら、リーザの真正面に立つ。

まさにフェイス・オフ。

互いに視線を戦わせる。


「ふん…」

スーネル先生が小さく嗤った気がした。

「試合開始だ」

読んで頂き、どうもありがとうございます!


嫌味な奴を書く…

初めての挑戦だったのですが、思った以上に難しかったです。

めちゃくちゃ時間かかってしまい、申し訳無いです…


感想、コメント等頂ければとても励みになります!

どうぞよろしくお願いします!

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