第一章 #7.第二試合、vsアリアス
第一試合を終えたエリー達が、結界の出入口から出て来た。
「エリさん、おめで…」
声を掛けようと近付いたハルトは、目を丸くして続く言葉を呑みんだ。
エリーの後から出て来たもう1人の女子生徒、アイバ・サキ。
艶やかな褐色肌とスレンダーで引き締まった体型が魅力的な、スポーティな美少女である。
であるのだが、ハルトがガン見しているのは彼女の服装…何故か水浴びでもしたかのようにびしょ濡れであり、色々な部分が透け透けになって見えつつある…
というか下着が微かに滲んでおり、見えるか見えないか絶妙な境目の透け具合が逆に妄想を刺激してなんともエ…危うい状態だ。
ハルトは目に渾身の力を込めるものの、敢えなく視線はサキの方に吸い寄せられていく。
サキが歩く度に透けている箇所が微妙に変わっていき、それをよく見ようと顔を傾けていくと…
いつの間にか視線の先にいかつくて包帯まみれの中年男が大写しに…
「ああっ!?目が!目が腐るっ!??」
「…悪かったなぁ。テメェのせいでこんな事になってんだがなぁ…!!」
「もう…なんなんすか、一体…先生はあっちで見るんじゃないんすか…」
何故かこちらに現れたドニー先生に視界を遮られて、ハルトは下唇を突き出して文句を垂れる。
「テメェみたいな問題児、野放しにできるか。どんな魔法具を使うつもりか教えろ。俺がジャッジしてやる。」
どうやらまだハルトを疑っているらしい。
流石のハルトもクラスメイトを殺してしまうようなヤバいマシンは使わないと言うのに…
「大丈夫なのに…仕方ないから教えますよ。今使おうとしてるのは超高出力エーテルブレード"月光.mk.F"で、これは超高出力に調整した高圧エーテル流をブレード状に展開してあらゆるものをぶった斬る…」
「却下だ。」
「え、えぇ!??なんで…」
「ガキの微塵切りなんて見たくもねぇ。他のにしろ。」
「えぇ…そうだなぁ……じゃあ、刺突破壊エーテルニードル"デストラクト・パイル"とかは?これは超超高圧に圧縮したエーテルの針を至近距離からぶち込む近接兵器で、射程は短いんすけど当たれば一撃必殺の…」
「却下だ。」
「えっ!?なんで!??」
「ガキのスプラッタとか見たくねぇって言ってんだろっ!?!他だ他っ!!」
それからハルトはいくつも候補を挙げるも、ことごとく却下されてしまった。
「ちょっと先生っ!?それじゃ俺、闘えないんすけど!??」
「テメェの魔法具がバグってるだけだろうがっ!??俺のせいにすんなっ!!とにかく、もっと危険度の低い魔法具が無いのなら生身でやりやがれ!!!」
ハルトは頭を抱えて考える。
何か…何か無いか!?ちょうど良いレベル感の……
「そ、そうか!!アレならイケるかもっ!!」
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ハルトはアヤノと共に結界内に入った。
狭い路地が入り組む迷路のようなところだ。
「うーん…あんまり索敵の事考えてなかったなぁ…これは今後の改善点だな…」
「あ、あの…ハルト…さん?その…」
「はい?どうしました?」
「その…それ、そんなものを作れるなんて…凄いですね…」
ハルトは自分の身体を…というか装着しているエーテル・マシンを見下ろした。
プロト・ナンバーズ.type.スケルトン。
ナンバーズ開発の最初期に作ったプロトタイプ…いやモックアップやPoCモデルと言えるものだ。
スケルトンの名の通り骨格のみの駆体で、鉄製の枠組みの中にハルトがすっぽり収まっているような形だ。
各関節部分はモーター稼働してハルトの動きに合わせて駆動するものの、かなり大雑把な動きしか出来ない。
また固定兵装は装備事出来ず、使えるのは両手に持てる武器のみ。それも可動域が制限されるため、実質扱えるのは射出するタイプのもののみだ。
故にハルトが持っているのはこれまた最初期モデルのエーテルハンドガンで、レーザーガンのようにエーテル流を発射する武器である。
「ああ、これですね。いやぁ、ドニー先生が厳しくって…これしか許してくれなかったんですよぉ。これ、防御力もスカスカだし機動力もイマイチなんで、マジで弱いんですけど…まぁ、模擬戦くらいならイケるかなと。」
「そ、そうなんですね…なんか、凄いですねハルトさんは…」
「ところでアヤノさん、なんか索敵できるスキルあります?俺、そういうの全然無いんですよね…」
「ご、ごめんなさい…私も索敵は…」
「そうかぁ…どーしよっかなぁ…ううーむ……て、あれ…?」
ハルトが何の気無しに見上げた空中を、何かが凄い勢いで飛んで来る。
あれは…
「おうおうおう!!何チンタラやってんだぁっ!!待ち切れねぇから俺様が来てやったぞゴラァっ!!!」
それはハルトの対戦相手の1人、アリアス。
風の魔刻印の力を使い、一気にハルト達の所へ飛んで来たらしい。
「オラァッ!!何ボケっとしてんだぁっ!?ぶっ飛ばす…」
「お前…アホだろ?」
ハルトは呆れて言い放った。
「あぁん?誰がアホだとぉっ!??」
「お前だろ。どう考えても。」
「んだとゴラァ!!?ぶっ殺すぞ!!」
凄んでくるアリアスに、ハルトは冷たい視線を送る。
「勝率を自分から下げるような阿呆、何も怖くねぇよ。」
ハルトは隙だらけのアリアスの方向へと、強く地面を蹴った。
プロト・ナンバーズがその動きに連動し、十倍以上の力で地面を蹴る。
面食らっているアリアスの目の前に急接近し、右腕を振った。
鉄の拳が振られて路地の壁に激突するが、まるで豆腐でも砕くようにそのまま突き進む。
反応の遅れたアリアスが半身を引くが、下がりきれていない。
前に残っていた左肩に、鉄拳が打ち込まれた。
「ぐおっ!??」
アリアスはぐるりと回転しながら後ろに吹っ飛び、家屋の塀に激突した。
「痛…っ!?…くねぇ…!?けど…!」
すぐさま立ち上がったアリアスの左腕全体が赤い靄に覆われている。
だらりと下がった腕は、もう動かせないようだ。
「くっ…!!テメェ…!!いきなり…!!」
「は?何言ってる。もう始まってんだろ。油断したお前が雑魚いんだよ。」
「んだとゴラァっ!!?殺してやるっ!!」
アリアスは野犬のように歯を剥き出しにして、残された右手を前に出した。
「アヤノさん!」
「は、はい!!」
ハルトの方しか見ていないアリアスの隙を突いて、アヤノがその右腕に掴み掛かった。
「邪魔すんなボケっ!!テメェからっ…!!」
アヤノは取り付いたものの、すぐさま手を放して引き退がった。
「何だってんだクソがっ!!死ね!エア・ショット!!」
気を取り直したアリアスが右手を突き出して叫ぶ。
マジック・チャームが光り魔法が…発動しない。
「なっ…!??」
「魔刻印って結構繊細な術式らしいな。刻印の記述がちょっとでも狂うと魔法が発動しないんだとさ。」
「何言ってやがる!?俺の刻印はあの人が書いた完璧な…」
「そうだな。元の刻印は完璧だったんだろ。でも今は…」
アリアスは驚愕して右腕を見詰めた。
その腕に刻まれたチャームは、濃緑で波のような美しい紋様を描いている。
が、そこに一筋、明らかに他と異なる黒く真っ直ぐな一筆が刻まれていた。
「こ、これは…?」
「わ、私が…さっき書き足し…ました。」
アヤノがビクビクしながら手を小さく挙げる。
「は?お前が?だが…あり得ねぇっ!?腕に落書きされた位でチャームに影響なんて…」
「無い。普通は、な。」
アヤノのスキル"ハイスピード・リーディング"。
始めは書物を超速で読めるだけのスキルだったらしいのだが、時を経てそのスキルが進化した。
今や古代言語を含むあらゆる言語を難なく読解できる上、魔法陣や魔刻印と言った記述系の術式をも瞬時に解析可能だという。
それに加えて開花した新たなスキル。
その名も記述改変。
構築された記述術式を、後から改変できるスキルである。
記述術式は戦闘前に術式を仕込む事が出来る、構築した後は他人でも発動可能等の利点と引き換えに、特殊な道具を用いて書き込みが必要であり、尚且つ一度完成したら効能を変える事が出来ない。
アヤノはその原則を破り、アリアスのチャームを後付けで改変したのである。
「馬鹿な…そんな事が…!?」
「馬鹿はお前だろ。相手の力量も分からないのに無防備に出てくるとか…舐めプしすぎだっての。」
ハルトは徐ろに鉄腕を持ち上げて構えた。
「ま…待て…お前…」
「待たない」
ハルトの一撃がアリアスの顔面にぶち込まれた。
後ろに吹っ飛ぶアリアス。
その全身を、赤い靄が一気に覆い尽くした。
「う、動けねぇっ!?何だこれっ!??」
まるで赤い蛹のような状態で喚くアリアス。
どうやら戦闘不能扱いになった者は靄に絡めとられる仕組みらしい。
「とりあえず、1人撃破!後の1人は…」
その残る1人であるフィーリは、いつの間にかハルトの目の前に立っていた。
「えっ?」
硬直してしまったハルトに、鋭く光るナイフが突き出された。
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