プロローグ #1.女勇者、くっ殺される
「ぐへへへ…もう鬼ごっこは終わりかぁ?」
辺り一面の花畑に、とても似つかわしく無い濁声。
げへへへ、と下品な笑いがそれに続く。
10体程の、豚のような鼻を持つ獣人…オークの群れ。
環状に広がったオーク達の、その中心。
そこに、1人の女の子が蹲っていた。
血で汚れた彼女の鎧はひび割れ、既に防御力を失っている。
鎧の下の衣服もそこかしこが引き裂かれ、血や汗が張り付いた白い素肌が露出していた。
まだあどけなさが残る美しい顔は、青白く苦痛に歪んでいる。
「く…そ…力さえ…戻れば…貴様らなどに…!」
彼女は悔しそうに吐き捨てる。
それを聞いて、オーク達はまたげへへへ、と笑った。
「そうだなぁ!あの勇者エリーが、俺たちオーク如きになぁ!!ぐへへへへへ!」
群れのリーダー格と思われる一際体の大きいオークが、また下卑た声で笑う。
そして一歩女の子の方へ踏み出すと、その髪を鷲掴みにした。
女の子が必死にその手に掴み掛かるが、全く意に介さず、そのまま彼女を持ち上げてしまう。
「ぐへへへへ…いい女だなぁ!!勇者に俺たちの子種を産ませるのもいいよなぁ!!」
涎を大量に垂らしながら、オークリーダーは女の子の胸当ての残骸を強引に引き剥がした。
「くぅ…っ!?」
女の子は咄嗟に胸元を隠す。
その様子を見て、オーク達は踊り出さんばかりに喜んでいる。
「ぐへへぐへへへへ!!」
オークリーダーは更に、残っていた衣服を片手で破りとる。
腹から下が大きく切り裂かれ、引き締まった腹筋と下腿が露わになった。
「やめ…ろっ!見るなっ触るなっ!!」
女の子は恥辱に耐えながら、身体を震わせている。
オークリーダーは残虐性を剥き出しにして、大笑いしている。
右手の人差し指を伸ばし、長く汚らしい爪で、白い肌を嬲るように傷付けていく。
「あぁ…くぅ…あっ…」
痛みや屈辱、苦痛に苛まれて、女の子が喘ぐように呻く。
その声が、オーク達を更に刺激する。
中には男根を剥き出しにして、既に臨戦態勢になっている者までいる。
「いい声だなぁ…もっと泣かせてやるからなぁっ!!ぐへへへへへぇぇ!!!」
オークリーダーは爪を腹から下腹部に這わせて、彼女の下着に引っ掛けた。
「やめ…ろぉっ…!くっ…殺せ!殺してくれ…!」
女の子は懇願するように悲痛な声を上げる。
それがオーク達を余計に喜ばせるだけだとしても、そうせずにはいられないのだろう。
オークリーダーはその悲鳴を存分に味わってから、ゆっくりと下着を切り裂く…
「あの〜、ちょっと他所でやってくれません?ここ、俺んちの敷地なんですよぉ」
彼女の尊厳が踏み躙られる寸前。
ハルトはオークに声を掛けた。
「な…」
その場の全員が凍り付く。
実はけっこう前からそこにいて、声をかけるタイミングを窺っていたのだが全く気付かれていなかったようだ。
そのことに軽くショックを受けつつ、ハルトはさらに言い募る。
「だから、ここ、俺んち。マモノ、デテイク。ワカリマスカ?」
何故かカタコトになりながら、ハルトは身振り手振りでオーク達に出て行くよう伝える。
「な、なんだテメェは!」
ようやく我に帰ったオーク達が、口々に喚き始める。
飛んでくる涎をすすすっと後ろに下がって避けるハルト。
「いやだから…ココ!オレノ!イエ!!どっか行け!!」
「家だぁ!?テメェみてぇなクソガキが何言ってやがる!!ガキはママの乳でもしゃぶってろ!!」
オークリーダーは女の子を投げ捨てると、威圧するようにハルトに向かって来た。
「ダメ…逃げ…て」
女の子が弱々しい声を上げる。
ヤバイのは自分だろうに、ハルトを気遣っているのだ。
ハルトは少しだけ、申し訳ない気持ちになった。
あのまま放置してもう少しだけ続きを見たいと、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ思っていたことを。
(いやいや、俺だって思春期の男の子なんだし、仕方ないよな!?それに、ちゃんと自制して助けたんだしセーフだよな!?)
ハルトは心の中で猛烈に自己弁護をする。
そんなことをしているうちに、オークリーダーが目の前までやって来ていた。
「クソガキ…テメェも殺して食ってやるよ!!」
オークリーダーの口からは生ゴミのような臭いがする。
「くっせ!お前、ちゃんも歯磨きしてんのか?マジで無いわぁ…」
ハルトは鼻を摘みつつ、どうにか悪臭を押し戻そうと手で扇ぐ。
何か気に障ったのか、オークリーダーのこめかみにビキビキっと青筋が入った。
「てんめぇ…殺すぞクソガキ!!」
「殺す、クソガキ…そればっか。語彙力0か。あ、語彙力ってわかる?わからないよねぇ?」
とりあえず息が臭くてムカつくので、ハルトはオークリーダーを煽ることにした。
オークリーダーは顔を真っ赤にしている。
「あ、図星?アホだもんなぁ…ごめんね?難しい言葉使って…」
「死ねクソガキ!!!!」
オークリーダーは岩のような拳を、ハルトに振り下ろしてきた。
しかしその拳がハルトに届く事は無かった。
横からオークリーダーに体当たりをぶちかましたモノがいたからだ。
「ぐおっ!?なんだコイツは…!?」
『ハルト、危険です。お下がり下さい。』
ハルトを護るようにオークリーダーの前に立ちはだかったのは、ハルトの発明品にして執事であり、メイドであり、友人でもある魔導力式自動絡繰のドロシーだ。
ドロシーは第一世代機、というかハルトが最初に作ったエーテル・ロボットなので、その材質は鉄である。
まず頭部は各種センサーとメインプロセッサを格納した箱型の形状をしている。
ドロシーは一応女性なので、流石にそのままだと不憫であったため、顔に当たる部分は仮面を取り付けている。
といってもその仮面もハルトが作った無表情なものなのだが。さらに赤く光るセンサーがちょうど目の部分にあることも相まって、夜に出会うと悲鳴を上げてしまいそうな位不気味である。
胴体も、各種モーターやバッテリーを格納しており、オークリーダーと同じくらいの体格がある。
さらに腕は4本取り付けてある。
手の動きを細かく制御することが難しく、物を持たせることを諦めて取り付け型のアタッチメントにした為だ。
2本だと色々な動作をさせるのに都度アタッチメントを取り替えなければならず、それがめんどくさかったのでいっそのこと腕を増やしたのである。
そして軽量化もまだ未熟だったため、その重量は数百キロもあり、それを支えるために下半身は足ではなくキャタピラにしている。
そのままだと最早戦闘用タンク型ロボットにしか見えなかったので、全身をピンク色にカラーリングし、ファンシーなリボンをあちこちに取り付ける事でどうにかメイド感を出している…つもりである。
とにかくいきなりそんなドロシーが現れたため、オーク達は軽いパニックに陥っていた。
「ナンダ、アレハ!??」
「ブヒー!?ブ!?ブひ!??」
「リーダーヲフットバシタゾ!??」
「ブヒヒヒ!??」
なんだか豚語で驚いている奴もいるようだが…
「やりやがったなテメェ!!」
オークリーダーは慌て始めた同胞達に喝を入れるべく、やおら立ち上がるとドロシーに飛び掛かった。
謎の存在であるドロシーをさっさと片付けて動揺を取り除くつもりなんだろう。
「甘いなぁ」
ハルトはニヤリと笑ってそれを見詰める。
ドロシーは4本の腕に、剣、槍、ハンマー、盾を取り付けた戦闘モードだ。
キャタピラの無限軌道を高速稼働させ、素早くオークリーダーの攻撃を回避すると、4本腕の凶器でオークリーダーを切り裂いた!
「くびぃっ!??」
血飛沫を上げてオークリーダーが倒れる。
「ブヒっ!??」
「ぶぶぶひっ!??」
どうやらオークは混乱がピークになると言葉を忘れてしまうらしい。
豚語で慌てふためくオーク達を、ドロシーはキャタピラで轢き殺していく。
ドロシーが半分以上を虐殺した後、オーク達は蜘蛛を散らすように逃げ出した。
「やれやれ、掃除が大変だわ」
ハルトは一面に飛び散った肉塊やら骨やら血痕を見て、げんなりした。
せっかく綺麗に花が咲いたのに台無しだ。
「っと、とりあえずあの子を家に…」
ハルトは女の子を運ぼうと、彼女に近付く。
そして、硬直した。
彼女は気を失っている。
そしてその体を隠すものはほとんど無く、有り体に言って極めてエロ…もといあられもない状態であった。
不謹慎ではあるが、諸々勝手に体が反応してしまい、思わず前屈みになるハルト。
このままこの子に近付いたら、自分が狼になってしまいそうだ…
『ハルト。何をしているのですか?』
心なしか、ドロシーの声が冷たい。
センサーの赤い光が、呆れたようにハルトを射抜いてくる。
『私が彼女を運びますので、あなたは荷物を運んで下さい。とりあえずアタッチメントを変更して来ます。あなたは、彼女に決して触れないようにそこで見張っていなさい。』
「はい…」
これが、ハルトと勇者エリーの再会であった。
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2023/10/07 ジャンル設定を間違えてしまっていたのを修正しました。
中身は変わっておりません。紛らわしくて申し訳ない…