ディルナ岩山②
ターシットは血抜きしたグランドタートルの肉を自分の持っている収納袋にそのまま入れた。
「え!?そのまま入れるの!?」
「あ、えぇ、この収納袋はユーリさんの尻尾の毛が織り込まれておりまして、その中であればあらゆる物を入れた時の状態で保つことができるのです。素晴らしいですよね!」
ターシットは愛おしそうにユーリが作ってくれた収納袋に触れた。腰に装着する程度の小さな袋であるが、その中にはかなりの物が入るらしい。
「あー、私も似たような物持っているけど、流石ユーリさんだねぇ。でも、人間と接している時はばれない様にしないといけないわぁ。」
「え!?そうなのですか!?」
「そうそう、人間の社会にも空間が広がっていて見た目より沢山の物を入れることができる収納袋はあるんだけど、家一軒買えるくらい高いからねぇ。」
「え!?高い?それはどういうことでしょう?」
「え!?お金が掛かるってことだけど…。」
「お金ですか!?聞いたことはあるのですが、お金とは一体どのようなものなのでしょう?」
「あっ…。」
ホロケウは何かを察したように言葉を失った。竜王や神族に囲まれて生きてきて、城から出たと言っても魔の森でサバイバルをしていたようなターシットは流通している貨幣の価値を知らなかったのだ。
そこでターシットに近くの適当な岩に腰掛けるように促すとホロケウも腰掛けた。そしてホロケウはポケットから三枚の硬貨を出して見せた。
「この銅でできたやつが銅貨ね。一枚でちょっとした食べ物とかが買えるかな。で、次が銀貨。これは一枚で生活に必要な物が買えるくらいの価値。ちなみに銅貨十枚相当ね。で、これが金貨。一枚で簡単な武器や防具を変えたりするんだよぉ~。で、銅貨だと百枚相当かな。ちなみにだけど収納袋は金貨千枚くらいの価値あるから、そんなの持っているって知れたらお金持ちと勘違いされちゃうから気を付けてねぇ~。」
「金貨千枚ですか!?」
「そうそう、まぁこの世界だと一か月普通に働いて、金貨十枚程度の稼ぎらしいから相当な価値ってことになるよねぇ~。」
「え、ユーリさんの袋はそんなにも価値ある物なんですね。流石ユーリさんです!」
「いや…、感心するところなんか違う気がするけど…。まぁいいかぁ。とりあえず人間社会においてはお金がものを言うのね。だから、とりあえずお金を手に入れる算段を立てて、人間社会で生活できる環境を作らないといけないのよぉ~。」
「成程…。人間社会、なかなか奥が深そうだ…。」
「まぁ、とりあえず森を抜けてサーティナ王国領内に入ったらお金を得る手段を教えないいといけないねぇ~!」
「ありがとうございます!」
ターシットはホロケウから手渡されたお金を手に取り凝視したり事細かに確認した。初めて生のお金を見るのだから無理も無かった。
「ちなみにターシット君は魔の森を抜けようと思ったらどれくらいの日数がかかるのぉ~?」
「そうですね!今だったら森で狩りをして戻っても日は跨がないので、襲ってくる魔物を最小限に討伐する程度で進み続ければ一日で行けますね!恐らく百五十㎞くらいなので!」
「ん-…。焦っても仕方ないから、野営しながら三日くらい掛けて進もうかぁ!」
ターシットの返答を聞いてホロケウは言葉を失ったように唖然としたが、すぐに気を取り直して距離を聞き安全に進めるペースを提案した。
「あ…、申し訳ありません。気を使わせてしまって。でも僕は大丈夫ですよ!そんなに寝ないで動いても疲れないので!」
「あ…、いやいや、私がね、結構年だから割とちゃんと休む時は休まないと疲労が蓄積しちゃうんだよぉ~。」
ホロケウはターシットの通常の人間との違いを改めて感じさせられた。転移者であるから楽に下っているように見えるが、ディルナ岩山も相当に険しい山である。かなり傾斜もきついし、途中で命を落としかねない崖のような所を壁伝いに歩いたりしなければならなかった。実際、まだ山を下って中腹くらいの位置だろうが、ホロケウは若干疲れを感じていた。
「…若いっていうのは素晴らしいねぇ~。」
「いえいえ!単に少し人より肉体が強いだけですよ!」
下り続ける二人の耳に石と石が激しく衝突するような音が聞こえてきた。
「ん?この音は…?」
「ホロ様、これは恐らくグランドスネークが移動している音です。グランドスネークは岩が山脈のように連なったような形をした巨大蛇です。外見こそとても食べられたような物じゃないような形をしておりますが、皮を剥ぎ取った身はとても美味しいのです。私個人としてグランドスネークの肉がこの辺で一番美味しいと思っております。」
「成程!それじゃあ収納しなきゃ!美味い肉食べたいしねぇ~!」
ターシットがおススメするお肉。ホロケウは是非とも今晩の夕食に食べてみたいと思った。討伐する気満々のようだ。
「おぉ、ホロ様やる気ですね!ですが、グランドスネークは面倒な相手なのでこの場は僕にお任せください!」
「面倒な相手?」
「えぇ、硬い皮に覆われているので攻撃がなかなかしづらいのです。また皮というか岩の中に毒が仕込んでいるようでして、あまりそこを攻撃すると毒がグランドスネークの全身を巡り食べられない物となってしまうのです。」
「ふえぇぇ、そうなんだねぇ~。」
「えぇ、コツさえわかれば難しい相手ではないのでこの場は僕が…。」
そう言って笑顔を見せるとターシットは音が響き渡る方に向かって駆けていった。ホロケウもその狩猟方法を観察しようと小走りで付いて行った。
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