決意
「こ、この度の訪問、心より感謝致す!」
「いえいえ、ディアナ様。有意義な催しを開いていただきこちらこそ誠に感謝いたします。」
ディアナが相変わらずたどたどしいながらも女王として振る舞っていた。それに対して頭を下げるリーゼロッテとホロケウ。リーゼロッテも女王に接するように礼節を保ちつつ対応していた。
「では、我々はこれにて失礼したいと思います。」
「リーゼロッテ様!ホロケウ様!少々お待ちください!」
立ち去ろうとする二人をターシットが勢いよく引き留めた。ディアナの隣に立っていたターシットが二人の元へと駆け寄る。
「ディアナ、いや、ディアナ様。ディアナ様は今回の訪問を通じて女王としての姿を間違いなく皆に見せてくれました。貴方は間違いなく黒銀竜。ですが、貴方が兄と慕ってくれる私は…、私は只の人間…。」
「タ、ター兄?」
ターシットが普段には見せない真剣な顔をして話し始めたことにディアナは動揺してしまった。リーゼロッテとホロケウがいることも忘れてターシットを普段通りに呼んでしまった。ターシットはディアナの動揺する姿に優しい言葉を掛けたくなるが、必死に自分を抑えるよう言い聞かせ次の言葉を発する。
「ディアナ様、私は暫く黒銀城を離れ、ホロケウ様と社会情勢を知るために調査に行かせていただこうと思います!」
「ふぇ!?」
「だから…、だからしばらくディアナ様の元から離れます。」
「な、何を言っているの…?」
ディアナはもう周囲のことなど気にする余裕は全く無くなってしまった。完全に普段通りのディアナになってしまった。
「な、なんでぇ…。ター兄、ディアナのこと嫌いになったのぉ~?」
ターシットが予想していた通り、ディアナは周囲を気にも留めず玉座で大号泣してしまった。予想はしておりそうなっても踏ん張ろうと思ったが、やっぱり泣いてしまう姿を放っておくことなどできなかった。ターシットは慌てて駆け寄りディアナを抱き寄せつつ頭を撫でる。
「僕の唯一の妹、ディアナ。嫌いになんてなるわけないよ。ただね、このままだと僕はディアナのお兄ちゃんとしては駄目だと思ったんだ。ディアナを誰よりも守れるように強くなりたいと思った。そのためには色んなことを知りたいって思ったんだ。」
「いーやーだ!誰がなんて言ってもディアナにはター兄が傍に必要だもん!」
「だからさ、誰もがディアナの傍にいても納得できるような存在でいたいんだ。そのためには少しでも色んなことを知って強くなりたいんだ。」
「ター兄ぃぃぃぃ。」
全然ディアナは納得していないが、ターシットが抱き寄せたおかげか少しずつ落ち着いていくようだった。
「ディアナ、少しの間だけだから。いい子にしていてくれたら必ずディアナの傍に戻ってくるから、ホロケウ様と一緒に行くことを許してくれないかい?」
「ほ、本当にちゃんと帰ってきてくれるぅ?」
「うん、約束するよ。ちゃんと自分に自信が持てるようになったら戻ってくるよ。」
「ふわぁぁぁぁぁん!ター兄ぃぃぃぃぃぃ!」
また泣きじゃくるディアナの頭を撫でながら宥めた。
「申し訳ありません、リーゼロッテ様、ホロケウ様。今ディアナ様にお伝えしたように、私をホロケウ様が行っている調査に加えていただきたいのですが。」
「わ、私は構いませんが…。本当に大丈夫なのですか!?」
二人に向かって話しかけたターシットにリーゼロッテはディアナに目をやりつつ恐縮したように言う。ディアナの状況を見るとそう思ってしまうのも無理はないとターシットが思っていた時、マイアとミイアが一歩前に出てリーゼロッテに声を掛ける。
「リーゼロッテ様。」
「ターシット様の御心のままにお願いできますでしょうか。」
「ディアナ様はターシット様の前ではあのように振る舞っておりましても、黒銀竜たるお方。」
「不足要件は我々が補います。」
「フフフ、ターシット様のいない分は私たちが賄ってあげるから!」
マイアとミイアが慈愛に溢れる笑顔で伝え、ユーリが二人の肩を抱き豪快な笑顔で言った。その様子を見ていたターシットは皆の優しさを感じ、嬉しくなり胸が熱くなった。
「ふぉ~っふぉっふぉ!うん、凄いね、ターシット君は!幸せ者だ!それじゃあ、一緒に行こうかぁ!」
様子を見ていたホロケウは豪快に笑った。ホロケウの笑顔と皆の優しさに嬉しくなりターシットも笑みが零れる。
「はい、ホロケウ様!宜しくお願い致します!」
ぐずっているようだが泣き止んだディアナの元から立ち上がり、ホロケウの元へと駆け寄った。
「ディアナ…、それじゃあ、行ってくるよ!」
「ターシット様、我々黒銀城の者はいつも貴方を見守っております。いつでも気軽に戻ってきてください!」
「ありがとう、シュナイダーさん!本当に皆様ありがとうございます!少しの間ですが、行って参ります!」
そう言うとリーゼロッテとホロケウと共にターシットは大きく手を振り玉座の間を後にした。
「ター兄が行っちゃったぁぁぁぁぁ!」
あれだけ泣いていたがターシットが立ち去ったのを見てディアナがまたも大きな声で泣き始める。
「ディアナ様。」
「よく頑張りましたね。」
「戻ってきたら、ターシット様はたっぷり遊んでくれますから。」
「それまで、少しの間辛抱しましょう?」
泣くディアナをマイアとミイアが抱き寄せて頭を撫でる。その様子を顎に手を当ててシュナイダーと隣に立つ黒い虎の亜人、黒銀城零番隊隊長ギルティが見ていた。筋骨隆々で鋭い目をしており、並の者であればその姿を見ただけで失神してしまいかねない程の恐ろしさを纏っていた。
「ふむ、しかしターシット様は大丈夫だろうか。」
「シュナイダー殿、心配及ぶに足りんよ。ターシット様は我々神族すらも打ち負かす実力の持ち主よ。何を心配する必要があろうか!」
「しかし、万が一訪問先で悪魔などが現れでもしたら。」
「シュナイダー殿、貴殿も心配性か!?あの方が悪魔なんぞに後れを取るわけがなかろう!」
「フッ…。ターシット様の師である其方にそこまではっきりと言われたら、これ以上心配しようがないな!」
ギルティはターシットに武器の扱い方を教えた第一人者であった。そのギルティがシュナイダーの心配事について全て否定し笑ったのである。
そうであればシュナイダーも杞憂であることを認めないわけがない。やれやれ馬鹿師匠かと心の中で思ったがフッと口元を緩ませた。
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