表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/80

手合わせ①

「無効空間!」


 食後、テーブルが片付けられた大広間にてシュナイダーがユーリに指示を出すと、ユーリは両手を前に出して魔法を使った。


「ひょえぇぇ!これは凄いねぇ~!一瞬で景色が変わったよぉ~!」


 この世界には魔法が存在する。魔法はその力に差はあるが、誰にでも使えるものである。得意とする魔法は異なりユーリは空間魔法に長けていた。


「凄いですね、ユーリさん。さすがは黒狼族を束ねるお方。」

「フフフ、リーゼロッテ様。お世辞言っても何も出ないよ!?」


 瞬時に大広間に新たな空間が広がったことにリーゼロッテは驚きの声を上げる。ユーリは得意げな顔で答えていた。


「しかし、この空間の壁画は一体…。ハッ!」


 そこまで口にしつつ、リーゼロッテはハッとした顔をして口を塞いだ。黒銀城に住むユーリ以外の面々が口に人差し指を当ててそれ以上言うまいとリーゼロッテを見ていたからだ。


 ユーリは大広間をあっという間に違う空間へと変えたが、そこはまるで絵本の世界のようだった。絵本のイラストのように描かれたような木々や家があり、描かれたような豚や小動物が動き回っている。


「フフフ、可愛いでしょぉ~!」

「え、えぇ。と、とても素敵な空間です…。」


 誇らしく言うユーリにリーゼロッテはそれ以上何も言えなくなった。リーゼロッテとホロケウは目を合わせ頷き、それ以上その空間のデザインには触れないことにした。


「し、しかしこの空間は本当に凄いねぇ~!魔法を使えなくしているんだねぇ~!」


 ホロケウは無効空間の効果を色々検証していた。魔法を使おうにも使えない。ありとあらゆる魔法を使えない空間であるようだった。


「魔法使えたら殺し合いになっちゃうでしょ!?それに…。」

「まぁ、元から魔法は使うつもりは無かったけど…、確かにそうだねぇ~!」


 ユーリは何かを言いかけようとしたが口を噤んだ。ユーリの言葉に何度も首を縦に振りつつホロケウは答えた。


「さぁ、ホロケウ様、自分の好きな武器を念じて下さいな!」


 ユーリの言葉に促されるままホロケウは自身の武器のイメージを念じた。すると、訓練用の剣というべき鉄剣がホロの手に現れた。


「うぉぉぉぉ!これは凄い!」

「そうでしょ!?この空間は私の思うがままさ!いくら暴れても私たちに当たることは無いから安心していいよ!」


 まるでテレビショッピングのように驚きの声を上げ続けるホロケウの言葉に、ユーリはふんぞり返っている。


「ホロ様、凄いでしょ?ユーリさんの力。」

「うん、ターシット君はその剣でいいのかい?」

「えぇ、僕もこの鉄剣で構いません。」


 ターシットもホロケウと同程度の長さの剣を手に取り、重さを確かめるかのように軽く振る。


「魔法は使えないみたいだけど大丈夫かい?」

「えぇ、大丈夫です。僕は…、僕は魔法を使えませんので。」


 そう言うとターシットは寂しげに笑った。周りの皆は当たり前に魔法を使える。それなのに自分だけ使えない。しかも、人間でもこの世界で強弱はあるけれども皆魔力を有しており魔法を使えるという。そう言われるとまるで自分だけがこの世界の落ちこぼれのような気がしていた。


(あぁ、これも自信を無さげな一因かな…。)


 その顔を見てホロケウはターシットの晩餐会での発言を思い出していた。


「そっか…。まぁ、それならこの空間であれば私も咄嗟に魔法とか使えないから、同じ条件であっていいねぇ!」

「魔法を使うおつもりだったんですか!?」

「いや、わかんないじゃないの。ターシット君が恐ろしく強くて命の危険を感じたりでもしたら。」

「いやいや、竜の子孫とされる方が僕如きでそんな状況になることはないですよ。でも、手加減はしないで下さいね。」

「もっちろん!手加減なんてしたら手合わせを願い出て、失礼の限りだよぉ~。さて、それでは始めましょうかぁ~。」


 対峙した二人は会話を軽く交わし談笑した。そしてホロケウは右手に、ターシットは左手に鉄剣を構えた。


「では、今回の手合わせはターシット様の提示したルールに乗っ取り行うこととする!」


 シュナイダーが大きな声を上げた。ターシットの提示したルール。それは額、頸部、心臓部、両肩、両大腿に強い衝撃が加わると黒から赤へと色が変わる魔法印を施し、そこに攻撃を当てて計四箇所の色が変えれば勝ちというゲーム形式のものであった。


 鉄剣と言えど普通ならば致命傷になりかねないが、無効空間の能力がダメージを無効化してくれるとのことである。その話を聞いた時、ホロケウはこの空間で世界を支配できるんじゃ、などと思ったが強大な魔法にはそれ相応のデメリットもあるらしいので、深い詮索はしないでおいた。


「では…、開始!」


 シュナイダーが大きな声を出し、勢いよく掲げた右手を振り下ろした。お互いに剣を構えつつ牽制し合っているようだ。二人は動きが止まったままだ。


「来ないなら…。先手必勝!ハァァァァッ!」


 しかしその時間も束の間、ホロケウが素早く間合いを詰めターシットに斬りかかった。


「クゥゥッ!」


 ホロケウは素早い連撃を繰り出し、それを耐えるターシットの声が聞こえる。激しく鉄がぶつかり合う音が無効空間に響き渡る。


 空間内に驚嘆する声が響き渡る。竜の子孫と言えどホロケウの緊張感のない今までの態度からは垣間見ることが無かった、本物とも言うべき実力者であることを初手だけで感じられたからだ。


 恐らく並の者ならば目で追えぬほどの連撃。その高速の中で繰り広げられる一撃のどれもが洗練されており、無駄がなかった。正しく澄んだ川の流れのように美しい連撃だった。


「ほう、あの一瞬で印がある場所を全て狙いつつ九連撃とは。リーゼロッテ殿、ホロ様はなかなかの剣の腕前。」

「えぇ、シュナイダー殿。やはり竜の子孫であると言うべきか。恐らく我ら竜の城に住む者たちにも匹敵、いや、それ以上の力を有しているのは間違いありません。彼らは本当に強い人間だと思います。」

「そうですな、魔力が利用できない空間の一瞬の攻撃で我々をこれ程魅せることができる者ならば、大変な強者だ。」

「そうなのです。そうなのですよ…。しかし…。」

「ん?」

「そのホロ様の攻撃を凌いでみせたターシット殿は一体…!?」


 リーゼロッテは目の前に映る状況に驚いていた。ホロケウが圧倒的な連撃を繰り広げたにも関わらず、ターシットはその連撃を防いだのだ。


 正確には防ぎ切ったわけではない。右肩の魔法印は赤く色を変えている。ターシットは構えを取りつつホロケウの強さに驚き口の端が上がる。


「…ホロ様、流石ですね!」

「それはこっちのセリフだっての!全部当てて終わらせるつもりだったのに!」


 お互いに構えつつも口元を緩ませた。


「それじゃあ、今度は僕が!」


 そう言うと、ターシットは深く腰を落とし剣を持つ左半身を後方に構える姿勢を取った。


「ハッ!」


 掛け声とともに強く地面を蹴る音が響くと共に一瞬で間合いを詰めた。レイピアの突きのように鉄剣でホロケウを連続で突いた。しかしホロケウはその突きを剣の捌いて凌ぐ。


 全ては防ぎ切れてはいないようであったが、それでも要所要所は的確に防いでおり魔法印の色は変わっていない。


(…荒々しいけどいい攻撃…。それに…。)


 紙一重で捌いている状態だったが、それでもホロケウは何故か心が躍るようだった。


(こんな速さで繰り出してるってのに、一撃一撃重すぎだっての!)

お読み頂き感謝致します!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ