突然の申し出
「ふむ、成程。貴様の話もわかった。どちらの話も中々に興味深い。人間に対する興味が出てきたわ。」
「まぁ、私らは普通じゃないから…。普通の人間は普通に母親から生まれて普通に死んでいくんだよぉ~。」
「そうですね、僕も明らかに普通の人間ではないですね。」
ユキが興味津々と言った表情で見ていることに、二人は苦笑いを浮かべる。二人の返答にユキも普通の人間であれば自分に会うことなどできないだろうし、このように話してみようとは思わなかっただろうと思っていた。
「さて、どうしたものか…。」
「ユキさん?」
ユキは急に思案を巡らすかのように黙り込んでしまった。
「ん?貴様ら、いや、そなた等と共に行動するにはどうしたらいいものかとな…。」
「「はぁっ!?」」
ユキの突然の申し出に二人は声にならないような声を上げた。討伐すべきダンジョンのボスが一緒に行動したいと言い出してきたのだ。驚かずしていられるわけがない。
「いやいやいや、こちらの話も終わったからハクさんの頭の中に排除せよって命令もあるし、これからそれじゃあ一戦交えましょうかって流れでしょぉ~!?」
「そうですよ!僕らは貴方にとっては侵略者みたいなもんですよ!?」
突然の申し出に二人は先程の流れを思い返しつつ、慌てつつ言葉を並べる。ホロケウは今まで会ったことの無い知性的なユキの振る舞いに興味を持ったのは事実だし、ターシットもあのまま抑え込まれていたら負けていたはずなのにそれよりも会話を優先したユキの人格に惹かれたのも事実だ。だが自分たちもダンジョンを攻略するという使命があるし、ユキも侵入者は排除しなければならない。しかもレッドサーペントとブラックサーペントを討伐した二人はユキにとって仇のような存在であるはずで、それは許せるはずもないと思っていた。
「まぁ、あ奴らは偶然的にこのダンジョンで共に生まれた存在であったし心を通わせたのも事実。しかし、そなた等は私に嘘を付かず自分の今までを飾りもせず話してくれた。それはそなた等の顔を見れば分かる。敵であるにも関わらず。我はそなた等に興味を持った。排除せよという使命以上に。」
ユキは寂しげな笑顔を見せる。ユキの美しくも儚げな笑顔は二人にとっても見惚れてしまう程に絵になっていた。
「だけどだよぉ~?ユキさんダンジョンから出られるのぉ~?」
「うむ、頭の中でダンジョンを死守せよ、ダンジョンに侵入する者は排除せよという使命というか命令のようなものは常にあるからわからんのだが…。それよりもそなた等に対する興味が勝っている。」
ユキにとって初めて会話した二人の人間のこの世界での過去は、ある意味ダンジョンのボスとして生まれた自分と酷似していると思った。ダンジョンモンスターはある種生まれ変わりのようなものである。自分たちの過去は知らないにしろ、新たな命を形成される際に紡がれた魂。ホロケウは他の世界からそのまま移ってきた存在、ターシットは別の命を受け継いだ魂。魂が移ったという点において近い存在だと感じた。そんな二人と行動を共にしたら色んなことを知ることができるのではないか、そんな興味が使命の声に勝ってしまったのだ。
「全く…。わかったよぉ~!こんないい女性が引き籠りにしちゃあこの世界の男性が許さないってねぇ~!」
「ホロさん…、気持ちはわかりますしなんかめっちゃやる気になってますけど方法あるんですか?」
ホロケウはユキの理性の高さ故に生じてしまったことなのではないかと思った。こうなったらこれ以上どうこう言っても埒が明かないし、正直ユキと戦ってダンジョンごと消すのは好ましく思えなかった。立ち上がるホロケウを見てターシットは冷静に問いかける。ターシットとしても出してあげたいが、ダンジョンには何かしらの制約があり成立していることは理解できた。それ故にユキの願いを叶えることは難しいのではないかと考えている。
「うん、私じゃぁ無理だけど…。でも、漆黒の冒険者舐めるんじゃないよぉ~!少し時間頂戴!」
ホロケウはターシットとユキにダンジョンの入り口を私が塞いでおけば急ぐ必要ないから、とだけ伝えダンジョンを後にした。ターシットはユキと二人で残されたことに若干困惑する。二人になると、先程一触即発状態だったことを思い出してしまった。
「ユキさん…。」
「なんじゃ?」
「さっきの言葉が引っかかっていて…。少しでも晴れるなら一戦交えませんか?」
ユキにとってレッドサーペントとブラックサーペントが大切な者、ここで戦うことが宿命という言葉がずっと頭に引っかかっていたターシットはユキに提案する。ユキはターシットの思いに気付いたのだろう。フッと笑いターシットを見つめた。
「ふふ、そなたの方から気にせずとも良いものを。よかろう。だが構える以上は加減はできんぞ?」
「えぇ、わかっています。でも…、でも僕もユキさんほどの実力者と本気でやってみたかったんです…。」
「負ける可能性が高くとも挑むか…。面白い奴じゃのう…。」
ターシットは漆黒の剣を構え、ユキは腰に差していた扇子を両手に構えた。
(愚直じゃのう…。全く…。)
ユキはフッと笑みを浮かべる。嫌な感じは全く無い、美しい笑顔だった。
「行きますよ!」
「来るがよい!ターシット!」
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