ダンジョン攻略③
「怪我とか大丈夫かい?」
「はい!問題ありません!先に進みましょう!」
案じるホロケウだったがポーションを飲み回復したことを確認すると平然と答えるターシット。ホロケウは以前にブラックサーペントと対峙したことがあるがその時は漆黒の冒険者パーティーで戦っていたが全員それなりにダメージを負ったと語った。いくら二度目の対戦をしたホロケウがいても初見のターシットを含めてほぼ無傷で終えたことは、とても凄いことだと改めて実感する。そんなことを知る由もなくターシットはブラックサーペントに勝利したことに安堵していた。
「ホロさん、気になっていたんですが他の漆黒の冒険者ってどんな方たちなのですか?」
「あぁ、私の他に五人いて全員で六人。そのうち五人は光の戦士。」
ブラックプレート所持者の冒険者、通称漆黒の冒険者。漆黒の冒険者の由来はブラックプレートと共に贈呈される漆黒のマントにある。時に王国直轄の者ではどうしようもない問題が生じた際に、ギルドから緊急依頼として漆黒の冒険者全員に依頼をされることがある。その際は漆黒のマントを纏うことが義務付けられている。そのような依頼事はそう多いことではないが、そこからブラック冒険者は漆黒の冒険者と言われるようになったそうだ。
「だからこの世界で純粋に育ったのは一人だけだねぇ~。まぁ、彼も十五歳で漆黒の冒険者になっちゃうくらいだから相当な化け物だよぉ~。」
「そんな若さで!それは凄い!今度お会いしてみたいものです!」
自分と同じ歳でホロケウと同じ立場にいるという驚きとそれくらいの強さを持っている。それだけでターシットは心を躍らせた。
(いやいや、あんたも大概なんだよぉ~!)
二人はまた下層に向けて歩みを進めた。すると先程までの洞窟といった様相とは異なり、石でできた城の広間とも言えるような場所へと出た。
(こ、これは…。)
足を踏み入れた途端、ターシットでも感じてしまう程の圧倒的な強者のオーラともいうべきものが二人へと放たれた。
「あれらを退けここまで来る者がいるとはな…。」
オーラを放っていた者は少しずつ歩みを進め二人の前へと姿を現した。
「ようこそ、招かれざる者よ。」
鋭い目をした白い長い髪の美しい女性だった。黒を基調とした着物が色白の肌を際立たせ、妖艶な雰囲気を醸し出している。
「あんたがこのダンジョンのボスってわけだねぇ~。私はホロ、あんたは?」
「如何にも。我が名はユキ。何故貴様らはここへと足を運んだのだ?」
「ダンジョンがあるとこの世界の生態系が崩れるからねぇ~。あんたを倒してその生態系を戻さないと困る人たちがいるんだよぉ~。」
「フフフフフフ!」
ユキはホロケウの話を聞き、まるで嘲笑うかのように大きな声を上げて笑った。その様子を見てライオットとリアンを思い出したターシットは苛立ちを隠せない。
「何がおかしいんだ!?」
「そのような些末なことで我に挑もうというのだ。これを笑わずしていられようか。」
「些末なことだとっ!?ダンジョンができたせいで死んだ人や傷ついた人が沢山いたんだ!それを些末というのか!?」
「如何にも。どの世界においても生物の死など一つの過程に過ぎない。」
「ふざけるなっ!」
「ターシット君!」
ターシットは生態系が崩れたことで傷ついたエルデバルトの姿を思い出し、ホロケウの制止も無視し怒りに身を任せ剣を装備し飛び掛かった。
「喚くな小僧…。貴様らが倒した赤蛇や黒蛇は貴様らにとっては魔物かも知れんが我にとっては大切な者だったということを忘れるな…!」
「ぐっ!」
ユキが鋭くターシットを睨み付け右手を開きターシットに向けた途端、ターシットは動けなくなった。
「全く…、折角の機会なのだから会話というものを少し楽しませろ。」
ユキは溜息を吐いた。
「ユキさんはこれまで出会ったダンジョンのボスとも違うようだねぇ~。会話できる奴も多かったけどもっと好戦的だったよぉ~?」
様子を見ていたホロケウが行ってきた過去のダンジョン攻略において、ここまで理性を持って話ができる者はいなかった。今までも魔物から神格化した神族がボスであることが多かったが、どれもすぐに戦いを仕掛けてきた。
「それは元から理性が無かったものがダンジョンが作られる際、人化の法により神族化したからであろうな。我には前の記憶は無いが理性を持ち合わせていたようだ。そのせいか貴様らを排除する前に話をしてみたいと思ったのだ。」
「なるほどねぇ~。この世界にいる神族に近い人たちの同じような立ち振る舞い、強さを持っているってわけねぇ~。恐らく元の世界でもあんたは只ならぬ存在だったって訳だろうねぇ~。」
「フッ、あの黒蛇を倒したほどの者に強いと言われると嫌な気分はせんな。」
「自分に自信がある人のセリフだねぇ~。これから戦おうとしている人に言われると皮肉にしか聞こえないけどねぇ~。」
ユキが招かれざるものと言った理由、それは二人の強さを一瞬で認めたからだ。自身を討ち殺す可能性がある程に。蛇種の神族であるユキはレッドサーペントとブラックサーペントと意思を交わすことができた。ここの前にいるブラックサーペントも恐らく十分に強かった。しかしこの二人は無傷に近い状態でそれを退けたことを知った。倒されたことに怒りが無いと言えば嘘になるが、自分の元に来る程強い者がいるとは思わなかっが故に、不思議と興味を持ったのだった。
ユキは以前の記憶など存在しない。ダンジョンが生まれたと同時に自然とこの世界にいた。頭の中にあるのはこのダンジョンを守れ、侵入者は排除せよという不思議な使命感だった。そのせいなのか誰も来ないダンジョンにいることを退屈だと思うことも無かったし、それが自分の存在理由だと思っている。
「戦うことが宿命だとしても、少し色々会話をさせてほしい。我が知らぬこの世界のことを少しでも知りたい。」
ユキはそう言うと地面に腰掛けて、二人に座れと言っているかのように合図をした。動けるようになっていたターシットはホロケウと目を合わせると頷いたため、二人も地面に腰掛けた。