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備えあれば患いなし

 温泉に浸かりゆっくりと睡眠をとることができた朝、三人は討伐のために支度を整えていた。そしてエルデバルトに許可を取り先に食事を頂くことにした。ライオットとリアンが深夜まで起きていたためにまだ眠っていたこともあり、ターシットとホロケウ、ソフィだけで食卓を囲む静かな朝となった。


「さてと、オーク討伐だけど。」


 目の前のパンを口に運びながらホロケウが話を始め、ターシットとソフィも真剣な面持ちで耳を傾ける。


「ターシット君、先陣を切ってもらえるかな…。」

「え!?僕なんかで大丈夫ですか!?」


 ターシットには未知の敵に不安しかなかったが、ホロケウが先陣を切れと言ってくれた。それだけ期待してのことだろうと鼻息を荒くした。


「うん、そして次の作戦ね…。」


 ホロケウの雰囲気に二人とも息を飲む。


「私とソフィさんで死体を私の収納袋に入れる!終わり!」


 ホロケウの作戦とも言えない漆黒の冒険者のものとは思えない言葉を聞き二人とも口を開いて言葉を失っていた。


「…な!?ターシット殿は昨日冒険者登録したばかりですよ!?」

「そうですよ!敵を舐めすぎですよ!ホロさん!」


 我に返った二人はホロケウのぶっ飛んだ発言に怒りを込めた口調で詰め寄った。


「まぁまぁ、ターシット君、オークの肉は美味いんだよぉ~!」

「え、そうなんですか!?」


 肉が美味いと聞きターシットは目を輝かせる。


「そしてソフィさん。ターシット君はね、おかしいから…。まぁ見ていたらわかるよぉ!」


 ホロケウはソフィの肩を何度も叩きつつ高らかに笑った。


「ターシット君、とりあえずひたすら首を切り落とそう。そしたら、最終的に美味い肉を食べることができる。できるかい?」

「なるほどですね…。どんな敵かわかりませんがやれるだけやってみます!」

「ターシット殿!ホロ殿への信頼は如何程か測りかねますが、オークはブロンズ冒険者ならば苦戦する相手ですよ!」


 そんなソフィの杞憂に対してホロケウは肩を軽く叩き首を横に振る。ターシットは涎を垂らしつつ何かを考えているようだった。ソフィはこの人たちとここに来たことは間違いだったかもしれないと心から思った。


「さぁてと、作戦も決まったし…。二人の武器とか手に装備する物を見せてくれるかい?」


 ホロケウの急な話に困惑しながらも武器を出した。ターシットは黒い刀身の剣、ソフィは手入れの行き届いた綺麗な剣と中心に青い宝石が装飾された重厚な盾をテーブルに置いた。


「おっけ!それじゃちょっと手を貸してね!」


 そう言うとホロケウは右手でターシットの武器を握り、左手はターシットの頭に触れた。すると目の前の漆黒の剣は消え、代わりにターシットの左手人差し指に黒い蛇腹の指輪が装着された。

 驚いている二人を気にも留めずに今度は右手にソフィの剣を握り左手は頭を触れた。するとソフィの剣は消え、人差し指に銀色に輝く指輪が装備されていた。同様に左手にソフィの盾、右手をソフィの頭に置くと、盾が目の前から消え今度はソフィの左手の人差し指に青い宝石の付いた指輪が装着された。


「ホロさん!これは!?」


 ターシットが驚いたように声を出した。目の前の武器が急に消えて指輪が現れたので驚くのも無理は無かった。


「私ね、物を自由自在に変えることができるんだよぉ~。だから、二人の装備を指輪に変えたのぉ~。使いたいときは念じれば使えるからぁ~。」


 ホロケウが笑いながらそう言うのを聞き、二人ともそれぞれ自分の武器を装備するように念じてみた。すると、指輪は瞬く間に形を変えそれぞれの装備に形を変えていた。


「凄い!ありがとうございます!ホロさん!」

「ちょ!?これ、神具と言っても過言ではないような代物ですよ!?」


 装備が自由自在に形を変えるなんて話をソフィは聞いたことが無かった。それを平然とやってしまったホロケウに感謝をしつつも先に驚きが優先した。物語の昔話に、そのような逸話を聞いたことがあったし、この世界では物体が形を変えるようなことは奇跡に近い話だったからである。


「う~ん、まぁ私ブラックだから。」


 そう言ってホロケウは笑った。ソフィもこれ以上聞いても無駄だろうと思い諦めて素直に感謝することにした。冒険者にとっては漆黒の冒険者は伝説に近い存在。過去にいなかった時もあるほどである。漆黒の冒険者の行動に驚いても仕方がない。そう考えることに努めた。


「いやぁ、これで首が刈りやすくなりました!」

「でしょでしょ~!?備えあれば患いなしだよねぇ~!」


(この二人の緊張感の無さが仇とならなければいいが…。)


 嬉しそうにするターシットとその横で調子に乗るホロケウ。そんな二人を尻目にこれから始まる先頭にソフィは不安を隠すことはできなかった。


「よし、それじゃ行きましょうか!」

「だねぇ~!初狩り頑張っていこう!」

「は、はい…。」


 意気揚々とターシットとホロケウは立ち上がった。そんな二人とは対照的に不安を隠しきれないような表情でソフィは立ち上がった。

 ターシットはエルデバルト家族のために朝食を準備しテーブルにセッティングし、エルデバルトに感謝を伝えると、エルデバルトも感謝しつつ家族総出で三人を見送った。


「ホロ様、ターシット様、ソフィ様、終わりましたらまたこちらに絶対戻ってきてください。」


 そんなエルデバルトの言葉に三人は恐縮しつつ頭を下げて手を振った。

お読み頂き感謝致します!

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