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黒銀城に住まう者たち

「ター兄!もっと遊んでよー!」


 広い城内に幼い少女の声が響き渡る。似つかわしくない程に大きく華美な王座に腰掛けた白銀の髪色の少女が、手足を振り回して口を尖らせる。まるで駄々っ子であるこの少女はディアナ。白い肌と美しい朱色の瞳、黒いドレスを身に纏っている様相は、動かなければ精巧に作られた美しい人形と言っても過言ではない。そんなディアナの元にやれやれと言った表情で近づく青年。


「ダメだよ、ディアナ。今日はマイアさんとミイアさんの手伝いをするから。」


 黒い髪に銀色のメッシュが前髪に入った青年は、苦笑いを浮かべて言った。白いシャツを着て黒いスラックスを履いており、整った顔立ちはしているがディアナほどに特別な存在感を放っているわけではない。この青年はターシットと言った。


「ターシット様、私たちの手伝いは別に無理になさらなくても…。」

「そうですよ。ターシット様は私たちとは違うのですから。」


 黒い髪を後ろで束ね団子にした、ホワイトプリムを着用しメイド服に身を包んだ二人の美しい女性が言う。二人は似たような顔をしており、黒髪の頭から銀色の耳が生えていた。この二人はマイアとミイア。二人の違いは左右の目の色くらいである。マイアは右目が灰色、左目は青い瞳をしている。ミイアは右目が青く左目が灰色であった。


 二人ともこの城でメイドとして仕えている女性たちである。二人はターシットとまだ遊びたがっているディアナを慮っていた。


「ううん、駄目だよ二人とも。僕はディアナと違って特別な存在じゃないんだから。普通の人間なんだ。だから、この城に住まわせてもらうためにはできることをやらなくちゃ!」

「「ふ、普通の人間とは…。」」


 ターシットは屈託のない笑顔でそう言うと、マイアとミイアはターシットの返答に深いため息をついた。


「フフフ、ターシット様の謙虚さと頑固さは本当にどこから来たんだろうねぇ!」

「ハハハ、恐らくディエルナ様譲りですね。」


 マイアとミイアの話を割るかのように、メイド服を着た白髪でショートカットの小太りの女性が大きな声で笑いながら言う。この女性はユーリ。この城のメイド長。ターシットはユーリの豪快な声にまた苦笑いを浮かべる。


「ディアナ様、もう少し黒銀竜(こくぎんりゅう)たる威厳を…。」

「いーやーだ!私はもっとター兄と遊ぶのーーーーー!」


 ディアナの横で赤い髪をオールバックにし額から二本の(たくま)しい角を生やした片眼鏡の男性が溜息をつきながら言ったが、ディアナはその言葉を遮るように更に大きな声を出し駄々をこねる。説教しようとしたが、ディアナのあまりの駄々のこねっぷりに結局どうすることもできずにいる。


 この男性はシュナイダー。この国の宰相を務める鬼神族である。


 ここは黒銀城(こくぎんじょう)。遥か昔より、黒銀竜が治める城である。このプリミエールエトワールの世界では様々な種族が生きている。大別するだけで竜族、神族、亜人族、精霊族、人族など。この世界は異種様々な者が生活圏を共有し生きていた。


 その中で圧倒的に特別な存在なのが七頭の竜王で構成される竜族である。七頭の竜王はそれぞれ城を有し、その周辺地域に住まう各種族が敬意を払う程、竜族は尊き存在であった。


 そして、今この身に余る玉座で駄々をこね暴れまわっているディアナは竜王の一頭である。


「ディアナ…。あんまり皆を困らせたら…もう遊んであげないよ?」


 余りに駄々をこねるディアナを見て、ターシットは眼を鋭く尖らせディアナに言い放った。それを見てディアナは身をすくませて体裁を整えた。眼には涙を浮かべ、今にもぐずりそうな顔だ。


「ター兄…。そんなこと言わないでぇ。ディアナいい子にするからぁ…。」


 ディアナは玉座の上で大きな声で泣き出してしまう。その様子を見てマイアとミイア、ユーリ、シュナイダーはディアナに近づき宥めるかのように声を掛ける。


 ターシットはそんな様子を見てまた苦笑いを浮かべる。ターシットにとってディアナはとても可愛い大切な妹のような存在なのだが、竜王という立場のせいなのか我が儘がひどい。ディエルナ様の世継ぎとは思えない程だった。いい加減怒る前に大人しくしてくれるといいんだけどなぁとターシットは思いつついた。


 黒銀城での日常はこんな感じである。ディアナからは竜王たる威厳を微塵も感じられないが、それでも周囲の者たちのその対応を見るに、特別な存在であるのは間違いなかった。


 普段であれば宥められたディアナは昼寝をしここからターシットは、メイドたちの手伝いを始める。さて動き出すか、それぞれが次の仕事へと行動を移そうとしている時だった。


「シュナイダー様!」


 一人の西洋の全身鎧を身に纏った者が扉を開け玉座の間に飛び込んできた。その頭からは角が飛び出している様子から鬼神族である。かなり慌てているような様子から、只事ではないことが伺える。


「何事だっ!」

「はっ!たった今白金城(しろがねじょう)宰相、リーゼロッテと名乗る者とホロケウと名乗る人間が訪問し女王に謁見したいと…!」


 兵の言葉にその場にいた者にも緊張が走る。周りの焦っている様子からターシットも訪問者が只者ではないことを察した。


「リーゼロッテ…。その様な者がわざわざこの地まで赴くことなど…。」


 シュナイダーは突然の訪問者の知らせに動揺が走る。白金城はその名の通り、白金竜の住んでいた城である。宰相のような右腕たる存在が連絡も無く他の竜族の城を訪れることなど滅多にあることではない。


 そのためシュナイダーが思案してしまうのも無理はなかった。竜王に仕える宰相が伝達もなく訪問するなど基本的にあり得ないことだからだ。大体このような緊急事態はいい知らせではないに決まっている。


 そんな状況であり今の黒銀竜はディアナ。十歳になるはずなのに、五歳くらいかと思えるほどの駄々っ子王女である。


「シュナイダーさん。」


 そんなシュナイダーをターシットは真剣な表情で見つめ問いかける。シュナイダーが色々と考えており、対応するにしてもディアナで大丈夫であろうかという不安もあるのだろう。ディアナが竜王となってから来訪者など訪れたことは無く、ディアナが見ず知らずの者と適切に会話できるのかという不安はターシットも思っている。だが、ディアナは竜王だ。その力を信じてみるべきだとターシットは思った。


「とりあえずお二人をこちらへ通して話を聞いてみませんか?丁度皆揃っておりますし。」

「タ、ターシット様のおっしゃる通りではありますが…。」

「何か重大なことでなければいいのですが…。」


 優しく微笑み話すターシットと言葉を交わしたシュナイダーは大きく目を開いて前を向いた。


「その者たちを通せっ!」


 部屋に知らせに来た鬼神族に力強く命じた。進言したターシットも緊張しその場に佇んでいた。

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