美幼女怪盗レティシアちゃん
まずは、このガリガリの細腕をどうにかしなければ。
この歳の子がぷにぷにではなくガリガリとか、ありえない。
何をするにしても体は資本だから、腹が減っては戦は出来ぬと言うし、まずはそれなりに動ける体、動いても今みたいに疲れない体を作る為に、とにかく今は食べなければ。
そう考えた私はあれから、確実にキッチンに人がいるであろうお昼時とはずらして日中に1回、夜皆が寝静まってから1回、あの屋敷に忍び込みご飯の調達に勤しんだ。
最初はバクバクと心臓がうるさかったものだけど、日中は暴れてる音かご当主様はどこかに出かけていたのか静まり返った屋敷か、大人的な諸事にお盛んに耽る音が聞こえるだけでキッチンには誰もいない。
夜もどんちゃん騒ぎが遠くで聞こえたり、これまた諸事に耽る音か、はたまた物音1つしない夜しか来ず、キッチンや館内の見回りには誰も来る気配も無い。
他の時間はまだしも、日中の貴族がいない時間にキッチンの料理人や使用人は何してるんだろうか。
別室でご飯でも食べてるのか、屋敷でも抜け出してヒャッハー状態なのか。
お昼時ずらすといつ来てもいないんだが。
当然、屋敷裏口前に誰かが見張ってるなんて事も無く、氷で冷やす冷蔵庫は相変わらず食材がどこに何が入ってるのか分からないぐらいぎっちり入っていて、時々貴族当主の食事か賄いか知らないが、作ったスープ等が鍋に入ったままそのまま置いてある事もあった。
日本と違ってカラッとした暑さで、夏と言っても日本みたいにそこまで暑くないので腐らないのかもしれない。
っていうか、夏野菜がある時点で夏なんだろうけど本当に夏なんだよね?
それとも異世界ぶりを発揮して、実る季節が違うとか、どの季節の野菜でもいつでも生える的なやつだろうか。
パントリーも常温保存、長期保存出来る野菜や果物が入った箱は開けっ放し、もしくは蓋が付いていない。
瓶詰めに入ってる何か、パンや焼き菓子等はぐちゃぐちゃと所狭しと並んでいて、いくつか拝借しても分からないぐらい杜撰な管理だった。
なんて言うか防犯的にも何にしても、色々と大丈夫なのかこの家。
そうこうしてるうちに、物置部屋等も散策しだした私はこの屋敷で使われていたと思われる、小さなメイド服を見つける。
少し汚れていて、私にはちょっと大きいが、着れないことも無い。
変装に使えるかもしれない。
そう思った私は小屋にそれも持ち帰る事にする。
私の存在は完全に忘れ去られているのか、小屋には本当に誰も来ないので絶好の隠し場所だ。
ガサゴソとしてるうちに、ちょっと薄汚れた大分前から磨かれていないだろう大きな鏡を見つける。
特に装飾品の類いが色々付いてるわけでは無いし、埃を被っていて少し汚いが、磨けばたぶん素敵なアンティーク調の品の良い鏡だ。
勿体ないな、なんて思いつつ大きな鏡に自分の姿を映す。
そこには、未だに細腕ではあるけど少しづつ太ってきた小さな体と、びっくりするぐらいの可愛いお顔、くすんでいてボサボサではあるものの綺麗な薄い金髪の美幼女が立っていた。