怒り
レティシアちゃんが、まだ生きたかったのかどうかは分からない。
飲み水はまだ少し残っていたけど諦めていたのかもしれないし、もしかしたら具合が悪くて動けなかったのかもしれない。
でも私の意識が戻らなかったら、レティシアちゃんはあのまま死んでたんじゃないかと考えてしまう。
現に食料は随分前から届いてないし、飲み水だって徐々に持ってきてくれる回数が減っていた。
ここ数日はぱったり来ていなかったし、時間の問題だったのではないか。
そう考えると、ふざけるなよと思ってしまう。
五歳の子供をほっぽり出して、明らかに劣悪な環境で、食べ物も飲み物与えてやらないとか、どんな奴らだ。
しかも覚えてる事で、痛いがあるって、誰かがこの子を殴ったり蹴ったりしたんじゃないか。
服をめくれば腕や足に、擦り傷の他に青くなった痣がいくつか見える。
白いワンピースは薄汚れていて、あちこちほつれている。
体だって少しベタついていて、腕や足も痩せこけて子供特有のぷにぷにさは無い。
切なくなるぐらいガリガリだ。
下ろされた前髪は、長過ぎて邪魔だったのでしょうがなく真ん中で分けてはいるけど、横と後ろの髪と一緒くたに混ぜられて、腰ぐらいまで貞子みたいにボサボサに伸びてる。
いつ整えられたかも分からない。
綺麗な薄い金髪だっただろうにツヤもハリもない。
それらは一目見て簡単に、この子が劣悪な環境にさらされている事を想像させる。
あれだけ大きくて豪華な屋敷だったら、お金もそれなりにあるだろう。
朧気な記憶の中ではメイドさんだっている。
なのに、たくさんの大人が身近にいるだろうに、
誰も、この子に、何もしてやらなかったのか?
どんな地獄だここは。
この子を幸せにしないといけない。
前世を思い出しただけで、レティシアちゃんと私は同一人物だ。
だからレティシアちゃんは勿論、私でもあるんだけど、今まで1人で頑張ってきたレティシアちゃんの怒りや悲しみ、寂しさは彼女だけのものだ。
彼女が頑張ってきた証で、彼女が感じた感情だ。
その感情はどこにも無くならないし、速水愛理である私と混ざっても、今も心の奥底でふつふつと陰っている。
この子を貶めた大人も、
助けず見殺しにしようとした大人も、
絶対許さない。
子供は本来、今日明日生きるか死ぬかなんて考えなくてもいいはずだ。
子供はもっと何も考えずとも、親の庇護下で明るく楽しく幸せいっぱいに、人生を過ごしていいはずだ。
この子はもっと守られるべきなのに、こんな環境で、この歳の子が幸せに生きられないなんて周りの大人がおかしい。
相手が誰だか知らないが、この子は絶対に幸せにしてみせるし、絶対に守るので首を洗って待ってろよとやや物騒な決意を私は固めた。