隠れ鬼
あぁ、もうやだ。
本当やだ。
あぁ、鼻水が出そう。
涙目でズルズルと鼻をすすりながら、壁に八つ当たりするが足が痛くなるだけなので諦める。
とりあえず、どうするべきか。
行ったら当然、再度ロングジョー卿に会うことを強要されるだろうし、当然行くことになる。
むしろその場にいる事さえ考えられる。
だったらもう、行かない方がいいか……?
うん、そうだ。
そうしてしまおう。
行ってもどうせ、悪い事しか起こらない。
そうなると、ロングジョー卿が帰るまでという不確かな期限付きで、両親+ロングジョー卿に見つからない様にしなければならない。
あと出来ればメイド達にも。
つまりは、隠れ鬼ってやつだ。
いやー、懐かしいね。
小学校の時とかやったよね。
運動はあまり好きではないが、今回はそうも言ってられない。
一抹の不安が過ぎるが、やるしかない。
そんな事を考えながら自室に一旦戻れば、あの日変なお爺さんに買ってもらった外套が目に入る。
そういえば、これって―――……。
☆☆☆
「ねぇ、あの子見た?」
「あの子?」
「あの小さい子。ご領主様に呼ばれてるって言うのに、まだ姿を見せてないらしくて……。」
「えぇっ?!」
「大丈夫なの?マズくない?」
「それがちょっとイライラしてきてるみたいで……。」
「えっ…!」
「うわぁー…。」
「私達もちょっと探した方が良いんじゃ……?」
「……だよね?」
「はぁ〜。もう本当にあいつはノロマなんだから……。」
「とりあえず部屋に行ってみる?」
「いや、部屋には鍵がかかってるし、多分もういなかったみたいで……。」
「え〜?じゃあ何やってんのよあの子〜?」
「よく掃除してた場所とか、キッチン見てもいないみたいだし……。」
「……あの子、呼び出されてるって知ってんの?」
「……みたい。」
「えっ」
「じゃあまさか……。」
「「「逃げた―――……?」」」
☆☆☆
あれから私は、隠れながら逃げていた。
ロングジョー卿が来たのはお昼頃。
呼び出されたのは1時頃。
もう既に、あれから1時間は経っていた。
運動が苦手な私が、何故こうも逃げ続けられるかと言うと、もちろん私の頑張りもあるが、1番はこの外套のお陰だった。
あの時私は何もそんな高い物を……と思って恐縮したが、今ではとてもとても感謝してもしきれないぐらいの代物だった。
そう、なにせ……。
あの外套には、姿隠しのマジックチャームが付いていたのだから。
☆☆☆
「あの子どこ行ったのよ!!!」
《ガッシャーン!!!》
机の上にあった物が、床に投げ出される。
「も、申し訳ありませんっ!!」
「いっ、今皆で探しておりますので……。」
「早く見つけなさい!!!」
「「「はい!!!」」」
メイド達が大慌てで逃げるように部屋から出ていく。
「……チッ、アイツ――……っ。」
「この私に、手間かけさせるなんて―――……っ!」
☆☆☆
〈3時〉
「早く見つけて!」
「あっちは?」
「ううん、いない!」
「そろそろ奥様ももたないわ!!」
「急いで!!」
「部屋にはいなかったのよね?!」
「だから鍵がかかってたって!!」
「いや、さっき聞いたけどマスターキーで開けたらもぬけの殻だったって!!」
「チッ!」
「アイツ―――…っ!!!」
☆☆☆
いやー、皆さん凄いね。
これまで見たことない形相で、皆必死に私を探している。
私ってば人気者〜。
なんてふざけた事を考えつつ、白目を向きたくなる状況に戦々恐々とする。
皆自分に火の粉が降りかからない様、必死なのだろう。
そんな必死な彼女らを私は上から見下ろす。
ここならそうそう追っ手も来ないだろうと、私は屋根の上に座り込んで下を覗いていた。
そうやって皆がバタバタしてるのを欠伸をしながら眺めつつ、リラックスし始めた頃。
《ギッ、ギッ、ギッ》
ついに私がいる屋根の上にも、はしごで下から誰かが登ってきた。
ヤバいな。
この姿隠しの外套は、万能ではない。
文字通り姿隠しの機能しかない為、音を立てたり、触ったりすればすぐに分かってしまう。
屋敷の中に戻るには、そのはしごを通って中に入らなければならなかった。
「こんな所絶対居ないでしょ〜!」
「いいから早く!」
「怖いんだけど〜!」
《ギッ、ギッ、ギッ》
下から上がってくる音がする。
「ほらやっぱいないって〜!」
「本当に?!本当にいない?!」
彼女は屋根の上にひょこっと顔を覗かせると、きょろきょろ周りを見回し屋根の上を見た。
「いないいない!はしごだって常時かけられてるものだし〜。」
「えぇ〜?」
よしよしこのまま諦めろ……。
《ギッ》
「よいっしょっ、と……」
彼女は屋根の上に上がると、怖いのか両手を付いてハイハイで徐々に私に近づいてくる。
何で来る〜?!?!!
まずいまずいまずいまずい……ッ!
《ギッ!》
探しに来た彼女の手は、私の体の寸前の所で宙を切る。
《ビュウッ》
「きゃっ!風が!」
「きゃっ!」
彼女達は一瞬目を瞑り、また目を開ける。
「も〜!」
彼女は、私の体があった場所に手を左右にブンブンと振る。
「ほらぁー!やっぱいないよ〜?怖いしもう下りていい〜?」
「そうよね〜……。ハァ……。いいわよ〜!」
下から見てる仲間が彼女を見て、ため息を着く。
《ストッ……》
それを更に下から見て、静かに安堵する私。
私は寸前の所で下に飛び降り、上昇気流のように魔法で風を出し徐々に減速。
地面にぶつかる直前に風を強め体の衝撃を減らし、ふわりと降り立っていた。
し、死ぬかと思った……。
出来るかもしれない、というか十中八九出来るだろうと何故か思ってたけど、本当に出来ると思わなかった。
こ、これが魔法か……。
魔法って、スゲー……。
いや、出来なければ死んでたけど……。
呆然としながらも今でもバクバクと心臓が脈打つ。
出来るだろうという謎の確信めいた勘はあったけど、魔法の無い世界で生きてきた私からすれば、なかなか結構……、勇気のいる行動だった。
一瞬の中でもめちゃくちゃ迷った末の行動だったが、上手くいって本当に良かった……。
おかけで彼女達は何か気づく素振りも無く、中に入って行った。
けど、もうこんな危ない事はするまい……。
本当に出来るかどうか分からない状況で、めっちゃ怖かった……。
今更ながらに緊張がまた戻ってきて。
バクバクと未だ脈打つ心臓を抑えて、涙目になりながら迷路のように広い庭を歩く。
そして自分で言ってて今更ながらに。
下手すれば自分は死んでたかも、なんて思って少し怖くなった。
落ちてる最中は、心情的にはそりゃもう必死で。
でも自分の身の危険を察知したのか、体的には勝手知ったるようにパパパッとほぼ無意識に魔法を行使してて。
気がついたら地面、みたいな感じだったけど。
あー、まじ怖かったぁ〜……。
☆☆☆
〈4時〉
「まだ見つからないの?!」
「も、申し訳ありません!すぐ!すぐ!見つけますので……」
「愚図が!!」
《ガシャン!!!》
「キャッ!!」
「キャアッ!!」
メイド達に向かって投げられた花瓶は、寸前の所で避けられ床の上で割れる。
「早くして!!!」
「「はい……ッ!!」」
☆☆☆
《ガサガサガサガサ》
「ねぇ、そっちいた?」
「いなーい!」
「こんな所いないって〜!」
「それにここだってもう、既に探した所だしさぁ〜。」
「こんなっ、所っ、いないって!もう!虫が!!」
「キャッ!もうヤダ〜!」
「文句言ってんじゃないわよ!後で怒られるの私達なのよ?!」
「だってさぁ〜!」
「適当に探してれば、そのうち出てくるって〜!」
「もう〜!!何なのよ!!あいつ!!」
「だいたい何で私達がこんな目に遭わなきゃいけないわけ?!」
「出てきたら絶対許さないんだから!!」
☆☆☆
近くを探しに来たメイド達は、私が息を潜めていればまたどこかに行ってしまった。
マジでこの外套には感謝しかない。
はぁ〜。
にしてもここからどうしようかなぁ……。
思い悩んでいると、またさっきのグループとは別のメイド達グループがこちらに来る。
「そっちいたー?」
「いなーい!」
「ほぉーら、出ておいでー!」
「今出てこないと、酷い目に遭うわよー!」
「いや、これもう酷い目に遭うのは確定じゃない?」
「プッ、確かに。」
「「「アハハハハハッ!」」」
「……ふぅ。……あれ?」
「何?どうしたの?」
「ねぇ、これって……。」
「足跡……?」
「いや、でも何か色々混ざってて……。」
「うーん、分かんない……?」
「でも、小さい子供の足跡みたいなのもない?」
「これ?」
「え、うーん?これそうなのかしら……?」
「色々混ざっててよく分かんないかも……。」
「……でも、本当にもしかしたら……?」
「「「……っ」」」
《ガサガサガサガサ!!》
「ねぇ〜、いるの〜?」
「近くにいるのは分かってるのよ〜?」
「早く出ておいでー!」
「皆心配してるわ〜!」
少しづつ、私のいる茂みに近付いてくる。
「出てきたら、お菓子あげるわよー?」
「良い子には、良い物が貰えるかもよー?」
少しづつ少しづつ、声が大きくなる。
「今出て来ないと後でとても大変な事になるわよー?」
「大丈夫よ〜!今ならまだ間に合うわ!」
「一緒に頑張りましょう〜?!」
《ガサガサ!!!》
私の目の前で足が止まる。
私は目を閉じて下を向き、息を殺した。
《ガサガサガサガサ!!!》
私の上に生い茂ってる葉っぱをかき分けて、彼女は下を覗き込む。
「…………はぁ。ダメね、いなーい。」
「こっちもいないわー。」
「もうここにはいないんじゃない?」
「そもそもあれが本当にそうかも分からないしね〜。」
「「「はぁ〜。」」」
「ちょっと一旦中に入って、休憩したいわ〜!」
「私も〜!」
「一旦水分補給してからまた探しましょう。」
「まだ外にいるかもしれないわ。」
「もー本当、こんな事するなんて!」
「ただじゃおかないんだからアイツ!」
《ガサガサ》
徐々に声が遠くなる。
っぷは〜!!!
いやー、焦った〜!!!!
さっさと行けばいいのに、全然行かないんだもんアイツら〜。
こんな時ばかり皆真面目に仕事しやがって〜!!!
にしても中はもう可能性が少ないと思ったのか、さっきより足音が多いしひっきりなしにこっちにも探しに来る。
逆に今度は中に居た方が安全かな?
はぁ〜。
もう〜。
運動苦手なのに〜!
☆☆☆
〈5時〉
「いた〜?」
「いなーい!」
「も〜!!あいつどこ行ったのよ〜!!!」
「いい加減観念して出てきなさいよ!」
「本当よ!何が嫌なのよ!」
「あのお貴族様だって、金払いは良いらしいじゃない?」
「ご当主様よりマシでしょうに。」
「ねぇ?」
「私らだって我慢してそういう事してるのに!」
「あの子だけ逃げるなんて許さない!」
「本当よ!」
「あの子だけ逃げるなんて、許される事じゃないわ!!」
「あの子だって同じ目に―――……っ!いいえ。もっと酷い目に合えばいいのよ。」
「ふふっ、そうよそうよ。」
「そしたら私達だって、少しは優しくしてあげるのにね。」
「ねぇ?本当、可愛げが無いったら!」
「本当それ!いつも下向いてボソボソと!幽霊かって!」
「プッ!幽霊って!」
「「「アハハハハハッ!」」」
☆☆☆
※ある使用人の独白は話の順番整理の為に一旦消させてもらいましたが、その内またちゃんと載せます。




