再来
「ごめんごめん!遅くなっちゃった!」
「いや、時間ちょうどピッタリだな。他に乗って待ってる奴もいないし、もう行くか。」
「うん!ありがとう!」
「でもなるべく早く行った方が良いんだよな?じゃあちょっと飛ばすか。しっかり掴まっとけよ〜。」
「は、は〜い…。」
行きもなかなかだったけど、さらにガタゴトするのか……。
それもこれも、全て両親のせいだわ…。
私がもし領主になったら、絶対この辺改良してやる……っ。
若干この先が不安になりながらも、決意を新たに手すりに掴まると、おじさんは早々に馬を走らせた。
おじさんと会話しながら、精一杯手すりに掴まりいつもの停留所まで戻る。
道中はガタゴト言いまくってて辛かった。
背もたれに腕や背中等体の色んな所が当たりまくるわ、お尻も痛いわ散々でしたわ。
しかも椅子固いしな。
まぁちょっと急いだお陰で、少し荒い運転ではあったけどある意味アトラクションの様な感じだし。
おじさんとの会話も少し現実逃避にはなったので、余計なことを考えずある意味良かったのかもしれない。
「それじゃあな。何かあったら、またバレないように上手く下りて来いよ。」
おじさんがニヤッと笑う。
「ふふふ。うん、ありがとう。」
おじさんとも別れた私は、また歩いて家まで帰る。
あ〜、このままどっかに行ってしまいたい気分だ。
でも、私はまだ、やり残した事があるから。
手紙もこの前送ったし、もう少ししたら状況も変わるかもしれない。
まだどうにもこうにもいかなくなったわけでは無いし、今はまだ、もうちょっとだけ頑張ろう。
萎んだ気持ちを入れ替えて気合い入れて歩けば、シャラリと腕輪が鳴った。
家まで戻ってきた私は、ドアの前でため息を着く。
これ、このまま入っていいんだろうか。
でも1晩って言われてるしなぁ。
もう既にそろそろ始業時刻だ。
これで遅れたら、また何か色々言われそう。
一応入るかー。
使用人用入口から入れば、私を追い出したハウスメイド達数人がニヤニヤと面白そうに笑いながら待ち構えていた。
「あら、遅かったじゃない。もう少ししたら呼びに行こうと思ってたのよ?」
「それはご親切に、ありがとうございます。」
「外の空気は美味しかった?」
「雨の中出されたから、心配してたのよ?」
「……お姉様方の配慮、痛み入ります。ありがとうございます。」
「それにしても可哀想にねぇ、ご領主夫妻に目をつけられちゃうなんて……。」
「本当にね。いつまで持つのかしら…。」
彼女達はくすくすと笑うと、一頻りからかって満足したのかどこかに行ってしまった。
これ、私が街に下りたことバレてないんじゃね……?
彼女達に何を言われるのかと少し戦々恐々としちゃったわ。
掃除を始め淡々と仕事をこなしていけば、嵐の前の静けさなのか特に何も言われず。
もう不気味過ぎてむしろ怖いよ!
背中がぶるりと薄ら寒くなった。
昼食時。
私はキッチンメイドの方々に連行され、キッチンメイドとご飯を食べることになった。
当然私、やだなーやだなー、怖いなー怖いなーと思ったんですよ…。
そしたら案の定。
いつもの様に日常会話を話す中で、キッチンメイドもポロポロと聞き捨てならない事を零しましてね。
「そういえばあの子どうなったの?」
「あの子?」
「あの子よ。」
1人が聞けば、他の人は得心がいったのかニヤリと笑って返す。
そうすると、誰も彼もがくすくすと楽しそうに声を潜めて。
まるで、楽しい楽しい内緒話をするかの様に話し出す。
「死んだらしいわよ?」
「やだ〜。本当に?」
「本当、本当。」
「ップ」
「今頃、獣か魔物かの餌にでもなってる頃だろうって。」
「え〜、やだ〜。怖ーい。」
「っふ。」
「でも彼女は食べても美味しくないだろうにねぇ。」
「確かに。」
「ガリガリで食べるところも少ないし。」
「小さいし。」
「汚いし。」
「匂いなんてとてもじゃないけど、食べれたものじゃなかったらしいわよ?」
「やだ〜。汚〜い。」
「貴族の娘だなんて思えない。ップ。」
「……っふ、ふふふっ。」
「それに、ほら……。」
「あぁ…。」
「特製ご飯!あげたりしてたしね〜!!」
「しかもそれ食べてたって…っ。」
「……ふふふっ。」
「本当に食べる?普通〜。」
「それはほらー、両親に似て意地汚いし。」
「あんまり言うこと聞かない時は、ちょっと脅して躾けたら、すぐ食べたって。」
「ッぶ。本当ー?」
「怖ー。」
「可哀想〜。」
「だってあれでしょー?」
「そうそう。」
「残飯なんか良い方で、腐りかけてる物とか腐ってる物とか、あと虫とか集ってる物とかもあったんでしょー?」
「うわぁー。」
「まぁさすがに、虫食べる前に壊れちゃったみたいだけどさー。」
「……だって、ねぇ…?ずるいじゃない?」
「自分達ばっかり良い物食べて。」
「怒ると私達も呼び付けて当たり散らすし。」
「本当、本当。」
「それに別に誰も見てないし。」
「少しは痛い目にあえばいいのよ。」
「まぁ私達は使ってない容器に、残飯捨ててるだけだしね?」
「それをハウスメイドの奴らが、勝手に持って行ってただけだし?」
「「「「「……ぷっ。アハハ!」」」」」
「……ふっ、ふふっ、それにしても可哀想に。」
「本当にね〜。」
「両親に愛されなかったばっかりに。……ふっ、ふふふっ。」
「捨てられて。……ぷっ。」
「あんな両親でも、親は親だものねぇ。」
「そんな物まで食べさせられて。」
「しかも虫って……っ。」
「あー、可哀想……。」
「ノロマで鈍臭いんだし、あんたも気をつけなさいよ〜?」
「…あっ。」
肩を強めに押され、思わずよろけて転ける。
「目をつけられないように。」
「……ぷっ。もう遅いかー。」
「可哀想に。」
「「「「「……アハハハハッ!!」」」」」
っていうね。
世にも恐ろしい、本当にあった人怖話でしたね。
でもこれでランドリーメイドもハウスメイドも、キッチンメイドもレティシアちゃんに酷い事をしたって言うのは本人達の口から事実確認が出来た。
いやー、素晴らしい。
いや、話の内容は全く素晴らしくないけど、口が軽過ぎてあんまりにも皆楽しそうに話すから、途中からこの人達って馬鹿なのかなとすら思ったよ。
これで何の憂いも無く、皆まとめて大掃除出来るね!
もうね、こいつら本当に……とは思ったけどね、もう何も言うまい。
思い出すのも夥しい。
皆同じ目にあってから、同じ事言えばいいよ。
それはそれとして、手紙、いつ来るのかなぁ。
手紙で見る限り人柄的には悪くなさそうだったし、まともそうだったし、大丈夫だとは思うんだけど……。
一抹の不安が過ぎるけど、これで悪人だったらもう出奔するわ私も。
いや大丈夫だと思うけど。
大丈夫だと思いたいけど。
それに、あっちもあっちでゴタゴタしてるのかもしれない。
あっちからして見たら、生死不明の孫からの手紙が突然来てるわけだし。
両親がこんな事してるって言うのも、何となく大まかは予想は出来たかもしれないが、詳しくは知らなさそうだったし。
本家からすると、ここまで酷い状態に陥っている事は本当に寝耳に水かもしれない。
となると、私の所に返信が来るのはもう少し先かなぁ。
それに、王家にも手紙を送った方がいいだろうか。
娘にも何とか言ってくれとか書かれてた気がするし。
そうなると、王家も十中八九親戚だろうし。
いやー、でも王家かぁ……。
……よく見る物語では、断罪する側だよなぁ。
私、まだ生きられるんだろうか。
まだ5歳なんだけどなぁ。
でもとても恐ろしい事に、リアリティ度高め設定の転生物とかの話だと、こういう場合の貴族って一族全員大概処刑だよなぁ。
子供だろうが乳飲み子だろうが関係無く。
たまに私みたいな立ち位置の人、つまりは被害者ないし、裏切って証拠を差し出した重要参考人みたいな人物が助けられることもあるけど……。
後はどっかの僻地に追いやられるとか……。
塔に幽閉とか。
何の処罰もされずってパターンも見るけど、どれで来るんだろう。
一縷の望みをかけて、王家にも手紙書くかぁ…。
出せるか分かんないけど……。
温情かけてくれるか分かんないけど………。
……まだ5歳だし、甘く見てくれないだろうか。
一応被害者だし。
なんて、遠い目になりながら私は祈るしかない。
神様仏様この世界の神様―――――…。
………いや、この世界の神がそもそもの元凶か?
……、お父さんお母さんお姉ちゃん、私は元気です。
いや、全く元気じゃないけど元気です。
とりあえず、今の所生きてます。
でももうすぐそちらに行きそうです。
いや、死んでも戻れるか分からないけど。
でもどうか助けてください。
とりあえず痛いの嫌なので死にたくないです。
出来れば痛くないやつ……、いや、私とレティシアちゃんを酷い目に合わしたヤツらがむしろ痛い目にあって欲しいです。
辛いです。
異世界転生とかもう嫌です。
ハード過ぎます。
どうせなら、全方向から愛されまくってチート炸裂平和な世界で両親に愛されてる美幼女が良かったです。
それで俺TUEEEEとか逆ハーとかしてみたかったです。
この世界の神がいるなら恨みます。
そんなこの世界への神への恨み節も混ざりつつ、とりあえず家族に祈っとく。
届くといいな………。
特に神に。
そんな事を願いながら、いや、半分呪いながら?
数日が過ぎ―――……。
そんな願いも?呪いも?虚しく……。
また最近、噂話を耳にしました。
ロングジョー卿がまた来るらしい、と。
あいつやっぱ、あの時殺しておくべきだったな……。
なんて物騒な事を思いつつ。
当然、実際そこまでする勇気も無く。
して責められるの多分私だしな。
ああ、神よ……。
いつか本当にお目見えする時があったら、是非聞きたい。
お前って、邪神なの?
呪い殺すぞこの野郎。
とうとう神にまで八つ当たりで、怒りと呪いが本格的に湧きそうな頃、ロングジョー卿はやって来た。
もうやだこいつ……。
追い払っても追い払ってもやって来るって、ゴキブリか何かかな……?
気色悪いんだけど……。
涙目になりながらロングジョー卿をもてなす為、メイド達は忙しなく動く。
あぁ、何で私があんな奴の為にこんな事を……。
咽び泣きたいところだが、仕事は仕事なのでしなければならない。
じゃなきゃ私が死ぬ。
今日は絶対裏にいよう。
そうしよう。
世話役とか見える範囲に絶対行くまい。
隅っこで拗ねたい所を抑えて仕事をこなしていれば、もしかしたら奴も帰るかもしれない。
そんな淡い期待を打ち砕くかのように、ご当主様から呼び出しが。
しかもそれを伝えに来たメイドは、私を追い出したメイドの一人で、今朝からかってきた内の一人。
フンッと鼻で笑いながら、可哀想にとさも私を心配する態度で眺めて、その後面白そうに笑って去っていったのが忘れられない。
くっそー!
あいつら〜!!
マジ泣くんだけど!!!
八つ当たりに壁にげしげしと蹴りを入れるが、勿論壁はビクともしないしむしろ私の足の方が痛かった。
※「領主様って酷い人」でランドリーメイド達のレティシアへの陰口が足されました。
足したのは、主に仕事をちゃんとしてないという趣旨の話です。
クソ野郎なのは変わりないので、無理して見なくても大丈夫です。
※ある領民の独白は話の順番整理の為に一旦消させてもらいましたが、その内またちゃんと載せます。




