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私のペットは皆何故か凶暴です(仮名)  作者: じゃがいも
まずは味方を作りましょう
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ある領民の独白






俺は、小高い山の上に住んでいる奴らが嫌いだった。

丘の上に聳え立つ、馬鹿でかい屋敷に住むそいつらは領主一族と呼ばれていた。



前に住んでるヤツらは良かった。

貴族とは言っても頻繁に領内を見回り、領の事を町人達の事を分かろうとしてくれていた。

実際に、町人の中で直接話だってした奴らもいるらしい。


こちらが要望書を出せば、大体の話は聞いてくれたらしい。

聞いてくれなくても、理由をきちんとこちらが分かりやすい様に書いてくれた。

必要ならば、使いの者に伝聞を持たせてくれた。

正当な話だった。

難しい事でもそれでも改善しようと、なるべく動いてくれた。






それが今はどうだ。


今の奴らに変わってからは、どんどん税金やら税麦やら納めなきゃいけない作物等は日増しに増えた。


漁師は前より頻繁に船を出し、前より無理に漁獲量を増やす様になった。


量も珍しい魚も、全てアイツらが持っていくせいだ。



いつの間にか、店に並ぶ品は少なく質が悪くそして値段は高く変わっていった。



母さんは最近顔色が悪いのに、私が頑張らないとと無理して働く事が増えた。


父親はいない。

妹や弟達が産まれる前に、腹の中にいる頃に死んだ。


だから俺が父親代わりで、まだ小さい弟と妹の面倒を見てる。


でも父親に加えて母親までもが居ない時間が増え、まだ小さな弟や妹は度々母親を探し歩き急に泣き出す事が増えた。


俺は、父親代わりにも母親代わりにもなれないらしい。


食卓に並ぶ品は、いつの間にか減っていた。




今はそれなりに落ち着いてきたが、領内では流行病によって亡くなる人が増えていた。






薬屋の爺さんはただでさえ体にガタがきてるってのに、最近いつも忙しそうだ。


俺が死んだら、婆さんの事をたまにで良いから見に行ってやってくれないかなんて真面目な顔して言われた。


俺が茶化すように笑ってやったら、それでも真剣な目で俺の事を見つめてきやがった。



いつもは半分死んでる様な顔で、うつらうつらとよく寝てる癖に。

たまにボケたようなふざけた事を言うくせに。



ジジイがこの前綺麗な姉ちゃんに見とれてた事、知ってんだぞ。

あんまり変な事言うなら、婆さんにチクるぞ。



なんて内心独り言ちたって、今日もジジイは自分が食べる分を減らして、婆さんが食べる飯の量を増やそうとするのだ。



自分だって、あんまり食べていないのに。



今日はもうお腹がいっぱいだから、勿体ないから食べてくれなんて嘘をついて。

自分はなんてことない顔して今日も笑うのだ。

今日は婆さんが少し食べてくれたと。






そんな調子で皆が少しづつ我慢する事によって、今の状態をギリギリで保っていた。







なのにアイツらと来たら。


やれ、娼館で見た。

やれ、男娼館で見た。

やれ、カジノで見た。

やれ、高級服屋で見た。

やれ、高級アクセサリー店で見た。


町内で回る噂はクソばかり。

しかも目撃情報には、周りの使用人や町人を手酷く扱う話もあった。


領主一族とやらはそんなに偉いのか。

クソの役にも立たない癖に。


これなら、その辺で生えてる草の方がよっぽど役に立つ。

尻も拭けるし、食用の物を探せば腹の足しにする事だって出来る。





そんな、ムカムカとしている頃だった。


最近、変な子供が町内を彷徨(うろつ)いているらしい。



とうとう、頭の可笑しなヤツまで出てきたか。



内心、そんな失礼な事も考えていたぐらいだった。



実際、確かに奇妙な幼女だった。



ソイツは、子供ながらに豪商や貴族のような金持ちの所で働いてるメイドらしい。

妙に質のいい生地を使った、仕立ての良い真っ黒なワンピースは、少々薄汚れていて所々ほつれていた。


明らかにメイド服に使われるであろう形の服は、襟や袖口を留める白いのや頭に被る帽子みたいな物が無い状態で、つまりはただの黒いワンピースの状態の幼女。

しかもサイズが合わなかったのか、ブッカブカユルッユルのワンピースの袖口を何度か折って、腹に紐を巻き付けて裾を合わせていた。



少女が動く度、ブカブカユルユルの袖が裾がスルスルと動き、少女の肌をちらちらと覗かせる。




足首や手首には、(おびただ)しい程の擦り傷切り傷、それにどす黒い痣。

治りかけてきたのか黄色っぽい物もあった。


親か仕事相手か、はたまた仕事仲間にでも暴力でも振るわれているのだろう。


実際に貴族である、あの領主一族の評判はめちゃくちゃ悪い。

そういうハズレを引けば、あんな目に会うのも無理は無い。






そんな事を考えていると、彼女はハンカチを落としたらしい。

ワタワタとしながらきょろきょろと辺りを見回すと、見つけたのか明るい顔でこちらに向かってくる。

パタパタと大急ぎで取りに走っていく彼女は、こちらを特に気にすること無く俺の横を通り過ぎた。








彼女はとんでもない美幼女だった。


前髪の厚さ、それに鬱陶しい程の長さによって、ちょうど目の辺りが隠れていた。

しかも俯き加減でよく下を見ていたことと相まって、よく顔が見えなかったのだ。


それが走る事により、前髪が風に吹かれて顔が

少し見えた。



あれだけ可愛ければ、目立つはずだ。

でも町内であんなに可愛い子は俺は見た事ないし、聞いた事もない。


そんなに大きな街じゃない。

どこにだって噂好きな奴はいる。

あんなに可愛ければ、噂が回るのは早いはずだ。

それなのにそれらしい噂は聞いた事もない。





メイド服を着てるのだ。

だったら商家の子供か、下級貴族の子供か。



だったら何で顔を隠すのか。

あれだけ顔が整った顔なのだ。

上手く使えば、相手を取りこめる。


それにそれなりの家であるならば、手首や足首に傷があるのも余計おかしい。

行儀見習いとして入っているならば、普通の親ならばあんな物を見たらすぐさま仕事場である場所にクレームを入れるだろう。


しかもあの顔だ。

行儀見習いとして行かせるなら顔を見せる事により価値を高め、普通なら仕事場で大事にしてもらう筈だ。


それがわざわざ自分の価値を貶めるような事をして、しかも実際に大事にされていないのだ。







そこまで考えて、あの小高い山の上に立つ屋敷には、昔小さな子供が居たらしい事を思い出す。

あそこに住む貴族の一人娘は、そう言えば最近何故かとんと噂を聞かなくなった。

生きてるのか、死んでるのかさえも分からない。


荒唐無稽な想像が頭を過ぎる。



いやいやまさか、そんなまさか。



だが俺の想像に反して、彼女は美味しそうに幸せそうに色んな物をパクパクと食べ歩く。

まるで、食い溜めをするかのように。

まるで、美味しい食事を思う存分久々に楽しむかのように。



そしてある貴族の下で働いてるらしい、時々やってくる老齢の男と、仲良く一緒に歩き終いには抱き上げられていた。

目を白黒させながら戸惑い、それでも満更でもなさそうに笑う彼女を見て、俺はあそこに住むという領主一族全員を嫌う事を辞めた。



あそこの父親と母親は嫌うべきだが、せめて行方知れずとなってる一人娘だけは、少なくとも嫌うべきではない。

目の前の彼女の幸せを願って、俺は今日も慌ただしい一日を過ごす。



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