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私のペットは皆何故か凶暴です(仮名)  作者: じゃがいも
まずは味方を作りましょう
38/43

相対





ガチャッという音ともに、皆一様に頭を下げる。


この家の住人である彼らが席に着くまでは、私達メイドは皆頭を下げて待たなければならない。


コツ、コツ、コツ、とゆっくりと品定めをする様に。

大きな宝石の付いたピンヒールが、こちらに近付いてくる。

指輪とかによく付いてるサイズではない。

ブローチやネックレスとかに付いているような、大きなサイズの宝石が付いたピンヒール。


家にいるにも関わらず、この靴ならばすぐにでも舞踏会とかに行けそうである。


凄いなぁ、あれ何カラットなんだろう。


そんなどうでもいい事を考えながら気を紛らわせ、早く通り過ぎろと願っていればかけられる声。



「……フン。おい、お前ね?噂の子は。」



隣のメイドからトンッと肘鉄を軽くくらう。

ピンヒールは、私の目の前に止まっていた。



「どんな噂か知りませんが、最近入った新人は私の事だと思います。」



「……顔を上げなさい。」



俯き加減で顔を上げれば、じっと注がれる視線。

上から下まで舐め回すように見つめ、ため息を吐く。



「何故早く、ロングジョー卿に応えなかった。」



「……応えようとはしてましたが、先に進むのはとても恐ろしく、またロングジョー卿は紳士的な方でしたので、紅茶を飲んでからにしようという話になりまして。」



「……ほう?」



「……誠に申し訳ありませんでした。」



「お酒を飲んでいたのだから、すぐに寝てしまうかもしれないのは想像が付いたでしょう。」



「……申し訳ありません。」



「私達の了承も得ているとの話も聞いた筈です。」



「……はい。」



「逃げられない事を悟り、わざと時間をかける事で、もしかしたら寝入るかもしれないと思ったのではなくて。」



「いえ、いえ。私はただただ恐ろしく、どうしていいか分からずにいただけにございます。」





《パァンッ》





じんじんと響く頬は、平手打ちされていた。





「昨日はあれで、多少お金が入ってくるはずだったのに!どうしてくれるの?!」



「……っ、申し訳ありません。」



《パァンッ》




先程とは逆の頬を勢い良く打たれ、思わず倒れ込む。




「誰が倒れていいと言ったの?!あなたに責任が取れるのっ?」



「……、申し訳ありません。」



「……チッ、涙のひとつも見せないとは何とまぁ可愛げのない!」



「……、申し訳ありません。」



「跪いて許しを請いなさい。」



「……、申し訳ございませんでした。」



「……チッ、面白くない。既に次の予定は組んであるから。次は無いわよ。」



「申し訳ございませんでした。」



「……、あぁ。そうそう、良い事を思い付いたわ。貴方、今日の夕食と明日の朝は抜きね。おいたをしたのだから当然でしょう。悪い子にはちゃんと躾をしないとね。メイド長達も、彼女の躾がなってないんじゃないの?」



「も、申し訳ありません……っ。まだ小さく、入ったばかりですので。」



「口答えするの?」



「いえ、いえ。とんでもございません。申し訳ありませんでした。」



「後でそれは1晩外に追い出しておきなさい。」



「かしこまりました。」




オワッター。


死んだわー。




《ガチャッ!》




ようやく彼女が席に着いた所で、また扉が開く。

メイド達はまた、一様に頭を下げた。

コツコツコツッと勢い良く革靴の音がして、また私の前に止まる。



「おい!お前かっ!ロングジョー卿からの誘いを断ったというのは?!」



「断った訳ではありません。私はただただ恐ろしく、戸惑っていた所をロングジョー卿のご好意で、紅茶を飲んでからにしようという話になっただけでございます。」



「フンッ!わざと寝入るまで待ってただけだろう!!」



「とんでもございません。そのような意図はありませんでした。」



「頭を上げろ。お前にその意図が無かろうが、これで多少入ってくる筈だったのに台無しだ!!」



《ドゴッ》






旦那様はグーで私の頬を殴った。





「……ッ、申し訳ありません。」



「ふざけるなよ!!メイドの分際で!!!誰が倒れて良いと言った!!」



「……、申し訳ありません。」



《ドスッ!》



「ゲホッ!ゲホッゲホッゲホッ!」






鳩尾に思いっきり膝蹴りが入り、思わず咳き込む。




《ガッ!ドゴッ!ボコッ!》




そのまま倒れ込めば上から蹴られるので、丸まって腕で頭を抱え込んだ。




「……ふふふっ、その辺にしておきなさいな。」



「……フンッ。」



「私も既に躾た後です。その辺でもういいでしょう。次の予定は既に組んでありますし。」



「君は随分優しいね?」



「次は無いと言ってありますから。続きはその時でいいでしょう。」



「フンッ、サラの優しさをありがたく思えよ!」



「……さっ、早く食べましょう。貴方のお陰で、胸がスッとしました。貴方も私と同じ考えで嬉しいわ。」



「そ、そうか?私も君と共有出来て嬉しいよ。」



「ふふふっ。」



「と、ところで、次成功した暁には私の取り分を少し増やしてくれないかね。」



「あら。どうして?」



「ロングジョー卿は私の紹介だろう?」



「あら。丁度良い男性の知り合いが多いのは貴方なんだから、貴方の方が有利なのは仕方無いでしょう?」



「うぅむ、だが私の方が」



「あらあら、嫌だわ。最初に取り決めた事じゃない。それを今更変えるだなんてずるいわ、そんなの。」



「い、いや。だが、しかしだな。」



「ふふふっ、それとも最初に決めた事を変える嫌な男なの?」



「え?!いや!そうじゃない!そうじゃないんだ!」



「ふふっ、私をあまり失望させないでね?」



「……う、うぅむ。」





どうやら旦那様は、奥様に逆らえないようだ。

辺りが静まり返る中、料理をテーブルに置く音だけが響いた。









《ザー》



「災難だったわね。ふふっ。それじゃあ、悪いけど。」


何人かのメイド達はお互い顔を見合せて、しょうがないわよねとくすくす笑う。

何がしょうがないんだろう。

笑ってるくせに。



《バタン》



両親の夕食が終わると、すぐさま私は着の身着のまま屋敷の外に追い出された。

ざぁざぁ降る雨の中を。



あーマジかー。

本当にするのかー。

やったって事にすればいいのに。

本当にするのは彼等が怖いからか、彼女等の意志か。

どちらでもありえそうだ。





とりあえず、草木の影に隠れて家を出る道を歩こう。

急げば乗合馬車のおじさんが、街に帰る時間に間に合うかもしれない。



ふぅふぅと息を切らせながら、早歩きで庭を歩く。



地面はちょっとぬかるんでいて、少し柔らかくなっていて歩きにくい。

しかも日が落ちて真っ暗だし、雨が降ってるのが良かったのか悪かったのか。

パッと見この暗闇の中では人が歩いてるようには見えないし、雨音で私が出す音も消えていた。

こんな子供が雨の中、しかも真っ暗の中で歩いてるとはとても思えないだろう。

庭を出たら、頑張ってしばらく走った。



「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」



途中で何度か歩きに戻ったり、走ったりを繰り返してようやく乗合馬車の停留所が見えてくる。

頑張って走った甲斐もあり、どうやら間に合ったようだ。




「……っ。ハッハッハッ、おじさんっ!!」



「はっ?えぇっ?!」




おじさんは幽霊でも見たかのように、ポカンとした顔で数秒停止した。

そして次の瞬間にはズサァァッと勢い良く後ずさって、腰と足を強かに荷台に打ち付けた。




「あっ、痛ッ!!」



「ふふふっ、大丈夫?良かった!間に合った〜!」



「い、いやいやいやいや。おいおいおい……。どうしたどうした?大丈夫か?何があった?」



「いやまぁ、……うん。色々とあって。」




いや本当、色々あったんッスよ……。

話すと長くなるんですけどね……。

HAHAHA……。




「……ほう。そうか……、うん。大変だったな。」




アハハ、察してくれて助かります。




「今から帰るんだよね?良かったら私も乗せてくれない?」



「そいつァ良いが……。」




頬をポリポリとかきながら、おじさんは言い淀む。




「あ、お金は今は無いんだ。ごめん。次の時に払うから。」



「…あぁ、いや、いいよ。そうじゃねぇ。その金も要らねぇ。常連だからな。取っとけ取っとけ。」




おじさんは少し考えると、くるっと私に背を向ける。

そして面倒そうに後片付けをしながら、手をヒラヒラさせた。




「や、本当次払うから。」



「いいからいいから。ほら。さっさと乗れ乗れ。」



「ありがとう、本当に助かる。ふへへへ…。いや本当、間に合って良かったー。」




ヘラりと笑いながら、荷台を改造させた屋根付きベンチに座って一息つく。

いや〜、疲れた疲れた。




「フッ。着くまで寝てても構わんぞ。」



「あぁ、大丈夫大丈夫。ちょっと前に仮眠してるから。」



「うん?」





おじさんは不思議そうな顔をした。




「いや私も忙しくてね。いつもはこの時間起きてるんだ。」



「……そうか。」



「うん。」



「行く宛てはあるのか?」



「えぇ?……うぅ〜ん。」



「……、俺の家に泊めてやりてぇが、家はなぁ。散らかり過ぎてて……。もし他に無けりゃ、お前さんさえ良ければ泊めるが。」



おじさんは言い出しにくそうに、頬をポリポリ掻きながら言ってくれた。



「えっ、いいよいいよ。とりあえずどこか、街のベンチにでもいるし。最悪そこで寝ても」



「ハァッ?!バカか?!こんな時間に、ッんな事!!」



「いやぁ……、ハハ。」



「まったく。笑い事じゃねぇぞ?こんな時間じゃあ、何かと物騒だ。何かあってからじゃ遅い。」



あぁ、そっか。

ここ日本じゃないし。

まぁ、そうだよねぇ。



「うーん。あ、あそこはどうだ。アリマンの所。」



「アリマン?」



「宿屋兼飲食店。短い髪でオレンジ色の髪の女がよく店先でスープ売ってる所。」



「あぁー。近くに魚介串焼きとか甘い物が売ってる?」



「それだそれだ。そこの店主のチーボも知り合いだし、俺が頼んでやるよ。」



「えっ、でも」



「バッカ、子供が遠慮なんかすんじゃねぇよ。そこはありがとうでいいんだよ。むしろ強引にでも連れて帰らなかったら、アリマン辺りに俺がドヤされるわ。」



「えぇ?……、ありがとう?」



「まぁ、本当にダメそうだったら俺ん家に止めてやるよ。フン。覚悟しとけよ、俺ん家汚ぇからな。」











「ふふふっ。ありがとう。」




「フン、良いってことよ。」




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