お水飲んだ方が良いと思うの。
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場所は中央の鐘塔がある広場の近く、一等地から少し外れた所。
豪華なお店が並ぶ所から少し外れた路地裏に、ひっそりとお店は建っていた。
外観は二階建ての貴族の屋敷みたいな、豪華な建物。
外玄関に入ると中の待合室には椅子が何脚かあり、混雑時でも待てるようになっていた。
エントランスホールから中玄関?に入ると、カランコロンという軽やかな鈴の音が鳴り、中からお爺さんが出てくる。
「あぁ、お久しぶりでございます。今日は可愛らしいレディをお連れですね。」
「ほほほ、えぇ。たまたま偶然、今日そこで知り合いまして、行動を共にする事になりましてね。実に興味深い、楽しいレディですよ。」
「ほぉ、それはようございましたな。」
「こんなにも可愛らしいレディはなかなかいませんからな。無事に見つけられて良かった。私の目も、まだまだ捨てた物じゃありませんな。」
「ふふふっ、何をおっしゃる。私からすれば、お客様はまだまだ現役に見えますがね。それにしても幸いでしたな。こんなにも可愛らしいレディと行動を共にされるとは、お客様は実に幸運のようだ。」
「ほほほ。えぇ、本当に。私は実に幸運な男ですな。」
おぉふ。
なになに、皆イケおじ過ぎじゃない?
店員さんまでイケおじとはどういう事。
類は友を呼ぶとはこの事か……。
しかもこんな子供相手に、何だかまるでナンパして成功した幸運な男みたいな話になってて面白い。
まぁ実際、ほぼほぼ間違ってないし。
言い方が誤解を生みそうだけど。
お世辞が混じったセールストークを軽やかに交わす様は、気品があり過ぎて会話に全く入れない。
うぅん、さすがイケおじ。
二人揃うと余計に気品さが増すのか。
しかも何か、私の事めっちゃ褒めてくれてるんだけど居た堪れなさというか、恥ずかしさが凄い。
まぁ前半何か、珍獣を評するような言い方だった気がするけど。
奥の個室に案内され中に入ると、そこは貴族も使う事が出来そうな品の良さそうな部屋だった。
お店の人に椅子を引いてもらい座ると、まるでお嬢様にでもなった気分。
いや、実際お嬢様なんだけど。
これまでちょっと実感が湧かなくて。
何ならこれからも、お嬢様でいられるかまだ分かってないし。
メニュー表を見ると、色々と美味しそうな物ばかりが並んでいる。
ふむ。
色々あり過ぎて悩むな〜。
しばらく悩んでいるとお爺さんに、おすすめコースという名の店主のお任せコースを勧められた。
こういう高いお店の物とかはよく分からないので、もうそれにしとこう。
しばらく待っていると、小さなグラスに緑と赤の2層のムースみたいな物が運ばれて来る。
「アヴァン・アミューズです。下が小松菜のムースで、上がトマトと紅茶のジュレになります。お好みでジュレの上にレモンをかけて、お召し上がりください。」
ほほぅ。
何だかよく分からないが、きっと絶対美味しいやつだな。
えーっと、この場合は……、どれから使うんだ?
たくさんのスプーンやフォークが並べられた魔境地帯は、私の判断を迷わせるのに充分な物だった。
私は魔境地帯を潜り抜ける為、じっと見つめて逡巡する。
だが私は知っている!
どこかで聞いた事があるのだ!
こういうお高いお店では、とにかく外側の物から使えと!
実際お爺さんも、外側の小さなスプーンでムースを掬ってるし!
右に倣えで私も外側の小さなスプーンを使うと、お爺さんと目が合ってニコッと軽く頷かれる。
合ってたー!
よっしゃー!
平凡な人間なら誰もが涙を飲む魔境地帯でも、私はやり過ごせる女なのだ。
フフンとドヤ顔を漏らし、さも最初から、こんなの簡単に分かってましたけど?みたいな顔でいると、お爺さんはスプーンを置き横を向いてゴホッと咳き込んだ。
どうした、イケおじ。
お水飲んだ方がいいよ。
気品溢れるお嬢様の様な顔で、私はしゃなりしゃなりと音も無くスプーンを使いムースを食べる。
グラスに入ったムースは、上がトマトの甘酸っぱい味で、下は小松菜の優しい味。
味は全体的に、甘酸っぱいまったりクリーミーなムースって感じ。
んんんー。
めちゃうま〜!
上の透明な赤いジュレは、つるんとしたゼリーみたいな食感で、トマトティーみたいな味。
噛むと紅茶のサッパリした味に、トマトの酸味と、奥深くからちらりと顔を覗かせるコンソメがじゅわわと出てきて美味しい。
下の小松菜のムースは生クリームが使われているのか、クリーミーでとろーっとしてて、ふわぁ〜とまったり優しいムースが口の中いっぱいに広がる。
さらにバターのようなコクが深みを増して、その上コンソメのような、優しくて深みのある味が奥底からじんわりと口の中に広がっていく。
波のように次々とやってきて、海のように奥深い味わい。
この二つの層の繋ぎ役をしてくれてるのは、たぶんこのじんわりと奥深くにいる、優しいコンソメの味。
軽い食感と、後味のトマトの甘酸っぱい酸味と紅茶のサッパリ感に、いくらでも食べられちゃいそう。
そこにさらにレモンを足すと、爽やかなスッキリとした酸っぱさが、ますます手を進ませる。
何かもうこれだけで、凄く良い物を食べた感がある。
味がもう何か、めっちゃオシャレ。
食べ終わって一息つくと、空のグラスとスプーンが片付けられ、手を洗う為のフィンガーボールも下げてくれた。
さらに少し待っていると、凄く綺麗に飾り付けられた料理が運ばれて来る。
ちょこっとしかお皿に乗ってないが、見た目はめっちゃ綺麗だ。
「アミューズです。ペーストには玉ねぎ、長ネギ、オリーブオイル、アンチョビ、ケイパーが使われています。」
小さな木の棒のような物に、プチトマトとサーモンかまぐろ、それから何かのペーストが刺さっている。
その2種が乗ってる側に、周りに少しバジルソースみたいな物がオシャレにお皿に付いていて、めっちゃ綺麗。
オシャレ。
その2つと少し離れた所に、イチジクに白いチーズと生ハムを巻いて棒に刺した物。
3種類の小さな串に刺されたオシャレな食べ物が、私の目の前を煌びやかに彩る。
これは絶対美味しいやつだわ〜。
まずはサーモンとまぐろの小さなオシャレ串焼きから食べよう。
サーモンもまぐろも刺身のようだ。
さっすが港町!
それだけでここに生まれた価値がある!
飴色玉ねぎの香ばしい味わいと、長ネギの辛くない爽やかな香りの部分がペースト状になっており、そこにオリーブオイルとアンチョビのしょっぱさが絶っ妙!
めちゃくちゃ合う!
そこに酢漬けされたケイパーの独特な匂いと酸味が、新鮮なサーモンとまぐろ、トマトによく合っている。
甘酸っぱい小さなプチトマトを噛めば、プツッと音と共にじゅわりと甘酸っぱい爽やかな酸味が広がり、後味爽やか。
んふっふっふっ。
めっちゃ美味い。
これ系はたぶんワインとか合うと思う。
魚介類なら白が良いらしいので、大人になったらぜひ一緒に食べたい。
アンチョビを足して味を濃いめにしたり、黒胡椒やニンニク、レモンとかを足してアレンジすれば、たぶんビールとも合う。
お皿にオシャレに付いてる、バジルソースに付けて食べればちょっとイタリアン風味。
オリーブオイルとトマトに、バジルソース。
絶対間違いない味だ。
んふふふ。
素晴らしいね。
異世界で、こんなに美味しい料理が食べられるとは。
イチジクと白いチーズと生ハムの小さなオシャレ串焼きを食べると、イチジクのフルーティーな香りにジュワリと出てくる、爽やかな甘過ぎない甘さ。
白いチーズはクリーミーで、たぶんクリームチーズ。
クリームチーズのまったりとした優しい塩味と、生ハムの程よいしょっぱさ。
合う!
めっちゃ合う!!
んんんんー!
最っ高!!
これ好き!!
ってか、今まで出てきたやつ皆好き!!
いつかこの組み合わせ、絶対またやりたい。
いつかまた食べたい!
ってか、このお店に連れて来てくれたイケおじと、作った料理人2人に固い握手を交わしたい。
空になった皿とカトラリーが片付けられ、次の料理が来る間に爛々とした目で、お爺さんに小さくグッとグーサインを出して軽く頷くと、お爺さんはまた横を向いてゴホゴホッと咳き込んだ。
どうしたイケおじ。
だからお水飲んだ方がいいって。
何だかんだ言ってもやっぱり歳なんだし、ゆっくり食べないと逆流性食道炎になるよ。
失礼な事を考えていたのがバレたのか、ちらりと私の方見ると、ゴホンッとまた1つ咳き込んで元の体制に戻った。
何でバレたんだろう。
お爺さん横向いて咳き込んでたのに。
解せぬ。