ヘルプミー!
「それから手紙を出したいです。」
「はい、それでは今作っていただいたギルドカードと手紙を出してください。」
お姉さんはギルドカードを何かの機械にまたスキャンする。
「手紙を出すには、通常の物は100クローネ、速達は130クローネ、より確実にいち早く渡したい場合は150クローネになりますがどれになさいますか?」
「1番確実のやつで。」
「150クローネになります。」
お金を渡すと、何かの機械に手紙をセットする。
コーヒーマシンみたいな縦長の機械のボタンを押すと、機械からボトッと赤色の蝋みたいな物が落ちてきて、お姉さんがシーリングスタンプみたいな物で手紙の封をしてくれた。
すると、キラキラと光る透明な赤色の羽根が手紙に生え、ふわふわふよふよと手紙が宙に浮いていく。
しゅると小さく音を立てると、瞬く間に手紙は赤い小鳥の姿に姿を変えた。
「ピピーッピ!」
「わ!可愛い〜!」
「ふふ。」
私の指に小鳥がスリっと身を寄せると、ふわふわした優しい手触りが私の指をくすぐる。
何この子、めっちゃ可愛い〜!
「いい子だね〜!」
よしよしと優しく撫でてあげると、指先からぷくぷくと透明な小さな泡のような物が出て来る。
小鳥はそのキラキラとした小さな泡を小さな嘴で啄むと、ピピーッと嬉しそうに鳴き声を上げた。
身をくるりと回転させると小鳥は軽やかに羽を羽ばたかせて頭上をゆっくり3回旋回し、ピピピ!と楽しそうに声を上げる。
窓の横に付いた犬や猫が自分で通れる小さなドアみたいな所に身を寄せると、小鳥は自分の体でドアを開け大空に飛び出して行く。
キラキラと光るふわふわの小鳥は、瞬く間に青空に消えていった。
「赤ですから何かあればバリアが張られますし、すぐに届きますよ。おやつも貰ってますし、まず大丈夫でしょう。」
「おやつ?」
「あなたがさっき小鳥にあげていたものです。」
「え?あぁ、あれ。あげたつもりは無かったんだけど……。」
「お互い友好的な感情を持っていましたし、貴方にも拒絶感情が無かった様ですので、無意識的に小鳥が吸い出してしまったのかもしれません。」
「なるほど。」
「だとしても、よっぽど魔力量が余ってて漏れ出していない限り、いえ、多少漏れ出してても普通はありえない事なんですが……。」
「あー、そうなんですね〜。」
「えぇ……。まぁ、たまにこんな事もあるのかしら……?うーん。まぁ、それにあなたはまだ小さいから、魔力コントロールがあの時だけ、上手く出来ていなかったのかもしれませんね。」
「あ〜、うん、そうかもしれません。小さければそんな事も、たまにはあるんじゃないかなぁ。うん確かに、何かちょっと疲れた気がする〜。」
「まぁ。では今日はもうあまり、無理をしないようにしてくださいね。」
「はーい!分かった!お姉さんありがとう!ちなみに帰ってきた手紙の受け取り先は、ギルドとかに出来ますか?」
「ふふふっ。はい、出来ますよ。」
「それじゃあ受け取り先はギルドでお願いします。」
「分かりました。」
一段下にある机の上にはモニターみたいな物が置かれている。
テレビのように自立して立っているそれを、お姉さんはまるでiPadを操作するみたいに手を動かしていく。
「受け取り期限は3ヶ月となります。3ヶ月経ちますと、手紙は順次こちらの方で処分させて頂きますので早めに受け取りください。」
「分かりました!」
「ここまでで、何か聞きたい事はありますか?」
「無いです!ありがとうございます!」
「はい。それでは以上となります。」
「ありがとうございました!」
「ふふふっ、いえいえ。」
バイバイと笑顔で手を振ると、お姉さんも笑顔で手を振りながら、小さくまたねと声をかけてくれた。
あっぶな〜。
これ多分、今の対応で合ってたやつだよね。
多分上手い事、見た目と話し方の幼さも相まって、お姉さん上手く騙されてくれたよね?
私変なこと言ってないよね?
ちょっとドキドキした。
お爺さんを見ても、ニコッと微笑まれるだけで何も言われない。
う〜ん?これ……は、どっち?!
ニコッとお返しに微笑んでみても、お爺さんの笑みは全く変わらない。
ひぇ。
何だこのお爺さん、どっちだ。
どっちなんだ。
特に何も考えていないのか、演技が上手いのか。
うーん、何も言うまい。
藪をつついて、蛇を出す方が怖い。
それにしてもあのお姉さん、めっちゃ優しい。
見た目だけじゃなく、話し方とか雰囲気とかがもう美女感が凄い。
惚れてまうやろ〜!
美人だったし、優しかったし、絶対あのお姉さんモテるよ〜!
ギルドの中では、修羅場が毎日起こってるに違いない。
ギルドから出てそんな下世話な想像をしていると、お爺さんに話しかけられる。
「次の目的地はありますかな?」
「無いです。」
「それじゃあ、飲食街に戻りましょうか。」
そう言うとお爺さんは、私が何も言う前にまたひょいっと私を抱き上げる。
「ギルドでは他にも、お金や貴重品を預ける事も出来ますし、訓練場や飲食店、解体所も併設されていますよ。」
へー。
郵便局だけじゃなくて、銀行、訓練所、飲食店も兼ねた総合施設タイプなのか。
凄いな〜。
「お金を預けた場所じゃなくても、預けた時と同じ額のお金が下ろせたり、貴重品を返してもらったり出来るの?」
「えぇ。ギルドカードを持って行けば、違う場所でも同じように出来ますよ。」
「そうなんだ。」
ふむ。
そうなると、旅に出た時でも安心だね。
お金を不必要に持ち歩く必要も無いし。
あの家から追い出されるかどうかはまだ分からないけど、良い事を聞いたかもしれない。
覚えておいて損は無いだろう。
飲食街まで戻って、さっきの飴屋さんのゴミ箱で棒を捨てる。
バイバイと手を振ると、おじさんもニカッてして小さく手を振ってくれた。
「さて、ここまで戻ってきましたが、これからどうしますか?」
「大きな目的は達成出来たので、ここからは特に何も……。せっかくの休日なので、食べ歩きでもしようかなと。」
「ふむ、それでは私も付いて行ってもいいですかな?」
「いえ、流石にそこまでしてもらうのは……。」
「ほほ、私めはこれから寂しく老いていく身。ですが家族とは基本的に離れて暮らしていますし、孫にもしばらく会えていません。雇い主からは扱き使われていますし、疲れも溜まっているんです。そこに少しぐらい癒しがあったって、バチは当たらないでしょう?」
お爺さんはさも悲しそうに話す。
うぅん確かに、小さい子は見てるだけでも可愛いし、多少の癒し効果はあるかもしれない。
私で癒されるかどうかは疑問だが、外見はとんでもなく超絶美幼女のレティシアちゃんなのだ。
そういった効能もあるかもしれない。
気持ちは分かる。
このぐらいの歳になれば、孫を猫可愛がりする程可愛がる人もいるらしいし、溢れる父性の行き場が無いのかも。
「それならお爺さんも、ちゃんと楽しんでくださいね!」
「ほほっ、分かりました。小さな愛らしいレディのお供が出来るとは、実に光栄ですな。」
何だか若干、上手い事丸め込まれた気もするが、こちらとしてもリターンが大きい。
お爺さんは変わらず私を抱き上げて歩いてくれるので疲れないし、子供だけだと心配な事も、大人と一緒なら大丈夫だろうし。
「もうそろそろお昼ですな。まだ少し早いですが、早お昼にしましょう。何か食べたい物はありますかな?」
「うぅん、朝は肌寒かったけど暖かくなってきたし、迷いますね〜。」
「ですがまだまだ肌寒いですし、温かい物の方が良いのでは?」
うぅん、確かに。
お爺さんは軽めのコートを羽織ってるけど、私は長袖のマキシ丈のワンピース1枚だし。
中の下着は丈が長めのキャミソールみたいな物に、ドロワーズと呼ばれる膝下丈の薄手のズボンみたいな物しか履いてないし。
「ふむ。でしたら良いお店があるんです。メニューはそちらに行ってから決めましょうか。」
「分かりました!」
「そこは何を頼んでも美味しいですから、きっと気に入ると思いますよ。」
ほぉ。
嬉しい事を言ってくれるじゃないの。
そんな事を言われたら、今の時点でもう既にワクワクしちゃうんだが?
何食べよっかな〜。
主人公のギルドカードを、黄緑色がかった銀色に変更しました。