ギルド
話しながら水飴みたいな棒付き飴を舐めてると、魔法関連街にあっという間に入る。
透明な水飴は、色が付いていないので水飴の向う側も見通せそうだ。
日が当たるとキラキラと光っていてとても綺麗。
うぅん、これを覗き込めば未来とかが分かればいいのになぁ。
そしたら私も、楽にこの状況から脱出出来るだろうに。
どうせ転生するなら、よくある本とかゲームの中の世界とかだったら未来もある程度分かったのになぁ。
なかなか上手くいかない物だ。
このまま行くと、1番可能性の高そうなギロチンコースを想像してぶるりと震える。
暗くなる気分に見ないふりをして、今はこの世界に没頭する。
せっかくの異世界で、せっかくの休日だ。
今はこの状況を楽しまないと。
悪い想像は一旦置いといて、周りを見渡して深呼吸。
口の中でトロリと溶けた飴が口の中いっぱいに広がって、少し癒される。
子供だからか甘党だからか、はたまた悪い未来に震える今の状況だからか。
暗い気分を吹き飛ばすような強烈な甘さが、今は心地よい。
大丈夫、大丈夫。
どうにかなる。
どうにかする。
その為に今から手紙を出そうとしてるのだから。
ガヤガヤと騒がしかった飲食店街から魔法関連街に入ると、どこか別の世界に迷い込んだかのように辺りは一変する。
まるでここだけ一部が切り取られたみたいに静かでヒンヤリとしていて、雰囲気のある景色に変わる。
飲食店街より石造りが多く、全体的には白っぽい感じ。
木造も屋根や壁の色味は、白や暗いクリームぽい色、グレーや黒が主に使われてる色で、そこに緑色のツタが所々建物に絡み付いていて良い味を出している。
これはこれでめっちゃオシャレ。
いかにも魔法とかが出てきそう。
おのぼりさんの如く目を忙しなく動かしていると、お爺さんはまたくすりと小さく笑う。
「街並みが珍しいですかな。」
「えっ、まぁ、ハイ。最近まで外にあまり出られなかったもので。」
うぅん、田舎者感が出てしまったか。
ちょっと恥ずかしい。
「ほぉ。ご病気か何か?」
「えぇ、まぁ。そんな所です。それに最近は仕事も忙しかったので、あまり見る機会が無くて。」
「ほぉ。幼子をそんなに駆り出す程に忙しいのですか。どこも大変ですねぇ。」
うぅん、やっぱりどこも大変だよねぇ。
幼子でさえもっていうのは、口振り的にも多少珍しいのかもだけど、昔の日本やヨーロッパも子供は貴重な働き手だったって聞いた事あるし。
この世界の子供も大変なんだなぁ。
遠目に見えていた鍛冶師街が近づくと、魔法関連街では所々軒先に生えていた草花や建物に絡み付いたツタすらも、ぐっと減ってあまり見かけなくなる。
鍛冶師街はまさしく質実剛健って感じで、余計な物があまり無くてシンプル・イズ・ベスト。
色味は同じような色を主に使っていて、落ち着いた感じ。
でもこっちは全体的にはクリーム色っぽい感じで、魔法関連街より石造りだったり木造だったり雑多に混じっている。
これもこれでオシャレ。
飲食店街は全体的に茶色やオレンジ、クリーム色が多かったけど、それぞれ好きな色に塗った屋根や壁もあって異国情緒溢れる感じで面白かった。
でもこっちはこっちで、世界観がパキっと決まっていて、めっちゃオシャレ。
うぅん、これはいつか他の区画も見てみたいな。
街並みを眺めているだけでも面白い。
ギルドは大広場からすぐ目の前に、大きくでんっと建っている。
親切なお爺さんにお礼を言って別れようとすると、色々と心配だからと断られた。
何が心配だと言うのか。
お陰様でちゃんと目的地には着いてるし、迷子にもなっていない。
あまり敬語で話さないようにしてるから、労働者階級の子供のフリは完璧だし、いうてちょっと賢い子供ぐらいだろう。
何かあったら大きな声で助けを呼べばいいし、最悪魔法という手もある。
体は子供でも中身はそこそこの歳だし、何かしてやられる事も無いだろう。
完璧じゃない?
私に隙は無いぞ。
むふーっと1人で若干ドヤ顔しつつも、お爺さんの心配も一理ある。
確かに小さい子供を1人で出歩かせるのは、ちょっと見てて心配かもしれない。
ギルドとか、役所みたいな所なら尚更。
難しい事は大人がいた方が安心だったりするし、相手側も大人がいた方が見てて安心するだろう。
進まない話も、大人がいれば円滑に進んだりするしね。
中身はそれなりの歳なんだけどこればっかりはしょうがないなと思いつつ、お爺さんの言う通り一緒にギルドに入ることにする。
お爺さんと目が合うと困った様な笑顔で、しょうがない子だなぁみたいな目で見られた。
え、何だその目は。
納得がいかないながらも、お爺さんと手を繋いでギルドに入ると、中はガヤガヤとしていて冒険者みたいな格好の人がいっぱいいた。
うわー、本当に冒険者の格好してるわー。
凄い、本当に冒険者っているんだなぁ。
全身革鎧をしている人もいれば、ベストみたいな形の人、肩だけの人や胸元や膝だけの軽装備の人もいる。
マントみたいな物を付けてる人もいれば、丈が短いポンチョみたいな物を着てる人もいるし、長めの丈を着てる人もいて、それぞれが思い思いの自分に合った格好をしている。
本当に冒険者って、こういうの着るんだなー。
「お嬢さんは、ギルドカードは持っていますかな。」
「持ってないです。」
「ふむ。でしたらまずは、ギルドカードから作りましょう。ギルドカードは身分証にも使えますから、あると便利ですしな。」
ほぅ。
やっぱりギルドカードってそんな感じなんだ。
一般受付の窓口に行くと、受付のお姉さんに今日はどうされましたかと話しかけられた。
「私のギルドカードの発行を、お願いしたいです。」
「新規発行ですか?」
「はい。」
お姉さんはニコニコ〜と、優しく話しかけてくれる。
「それではこちらにお名前と、自分が何歳かをお書きください。私がお書きしましょうか?」
「自分で書きます。」
薄い木の板に乗った紙が配られたので、受け取ってペンを持つ。
この世界の文字を書くにも言語チートは作用してるらしく、何の不便も無く私は名前と自分の歳を書く。
受け付けのお姉さんはそれを受け取ると、まるで小さい子を褒めるかのように、ニコニコ〜っと優しく笑いかけてくれて、紙に書かれた名前を見てギョッとする。
困ったような顔で私も笑いかけると、お姉さんはゴクリと喉を鳴らせ、精一杯笑い直してくれた。
「本当にこれでお間違いありませんか?」
「はい。」
「それではこちらの紙に、唾液か血を垂らしてください。針は使いますか?」
「要らないです。」
名前を書いた紙とは別の、小さな紙に唾液を少し垂らす。
紙は分厚く、染み込んで滴り落ちるような物では無かったので、それを1回折ってお姉さんに返す。
お姉さんはそれを受け取ると、名前の紙を家庭用プリンターみたいな小さな四角い機械にセットして、唾液の紙もその機械の横に付いている、小さなトレイみたいな物にセットする。
ボタンを押すとするっと大きな機械音も無く2つの紙は吸い込まれていき、機械の周りがぼんやりとほのかに光り出す。
数秒待っていると吐き出し口から小さな四角い物が勢い良く出て来て、備え付けのトレイにコトンっと落ちると、お姉さんはそれを渡してくれた。
渡されたカードは黄緑がかった鈍い銀色で、ツルツルしていて硬い紙質だった。
カードには私の名前と年が、ミミズが這ったような筆記体みたいな文字で彫られている。
ほえー。
凄いな、こんな感じで作るんだ。
「チェンジと唱えてから3回振りますと、形が小さなプレートに変わり、ネックレスやブレスレット等に変わります。バック等に付けるぐらい小さくする事も出来ますので、思い浮かべてからして頂けますと、ご希望の形になるかと思われます。」
「チェンジ」
ブレスレットになるのを想像して、唱えてから3回振ると、カードが光りだしブレスレットに形を変えた。
ほえー、凄いな。
魔法か何かかな。
「身に付けておいた方が便利ではありますが、見えるように付けておく必要はありません。カードのまま、他人に見られないよう隠し持つ事も可能です。なのでなるべく無用なトラブルはその、避けた方が無難だと思います。」
お姉さんは穏やかに、言いにくそうに話す。
確かにムキムキの大人が付けてるなら分かるけど、小さな女の子が見えるように付けていたら、無用なトラブルを招く事もありそうだ。
小さな子がレベルの上がったギルドカード下げていたら、誰のを借りてきたの?とかなりそうだし。
「再度発行する場合は1000クローネかかりますので、無くさないように気をつけてくださいね。」
「はい。」
さっきの肉の串焼きと、コンソメスープが120クローネ。
魚介串焼きは、魚は120クローネ。
貝と海老が150クローネ。
お菓子は確か110クローネだった気がする。
そう考えると、1000クローネは結構高い出費だ。
無くさないように気をつけないと。
主人公の名前のレティシア・リベルマンにミドルネームが増えました。
レティシア・(レスピレ・アリス)・リベルマンに変わりました。