レティシアちゃんは食い道楽
近くに椅子とかがある訳じゃないので、店の近くとか道の端に寄って立ったまま皆食べてる。
私も邪魔にならないようにお店の近くの道の端に寄って、まずはシンプルな塩味の串焼きからかぶりつく。
こういう下町的な所は、お上品にしなくていいからとても気楽だ。
出来たばかりでまだまだ熱々状態の串焼きにガブッと勢い良くかぶりつくと、炭火焼きのいい匂いがふわりと鼻に抜ける。
「アチッ」
ジュワッと肉汁が溢れてきて、慌ててこぼれ落ちないようにはふはふしながら食べ進める。
柔らかくてジューシーなのに、きめ細かい身の詰まった肉のむっちりした感触に驚く。
何の肉だろこれ。
めっちゃ美味いな。
野性味溢れる肉々しい感じと、鶏肉っぽい淡白なさっぱりした美味しさが混在してる。
弾力性が程よくあって噛みごたえがあるのに柔らかい。
味にコクというか深みがあって、めっちゃお肉〜!って感じ。
噛めば噛むほど、じゅわ〜っとコクとか深みとか肉本来の旨みとか甘みが増してる気がする。
炭でただ焼いただけ。
塩をかけただけ。
凄くシンプルな調理法と味付けなのに、びっくりするぐらい美味しい。
えー、めっちゃ美味しい…………。
高級地鶏的なやつかな〜?
これは次も期待できる。
思わず生唾飲み込んだ私は、逸る気持ちを抑える。
今度はスパイシーな匂いのする串焼きにかぶりつくと炭の香ばしい匂いと、ふわりとレモンのような柑橘系の爽やかな香り。
それからにんにくの、ガツンと食欲を誘う香り。
ジュワッと肉汁が溢れて飛び出してくる。
遅れて黒胡椒と唐辛子のピリリッとした辛味と塩気が、口の中に一気に広がる。
これまた柔らかくてジューシーで、でもキメの細かい身の詰まったむっちりした感触。
程よい弾力性と噛みごたえ。
食べれば食べる程、噛めば噛む程に、じゅわりじゅわりと出てくるコクや旨みや甘み。
そこにスパイシーな味付けが混ざり合い、それがまた食欲をそそる。
レモンの爽やかな香りと果汁で、後味はさっぱり。
でもにんにくの後引く旨さと食欲を誘う香りが、気がついたらいくらでも食べてしまう美味しさ。
危険だ。
危険過ぎる。
何だこの美味さ。
止まらない。
さっきのは正面切って殴られたようなガツンとした美味さ。
でも右ストレートでありながらしみじみと、じわーっと後から後からも来るような美味しさだった。
そして今度のはそう、所謂ボディーブロー。
レモンの爽やかな風味が油断を誘うが、肉の旨味とピリッとした辛味。
レモンの風味が後味をさっぱり〆てくれてあっさりしてるのに、にんにくの風味の後引く美味さが、じわじわと後から後から効いてくる。
気が付いたらいつの間にかたくさん食べてしまう。
手が止まらなくなる危険な美味しさ。
これはヤバイ。
次はタレだ。
もう私のHPは残りわずかだろう。
だが負けるわけにはいかない。
それが店主とした熱い約束だ。
最終ラウンドである熱き激闘の末、
笑うは店主か私か―――――――……ッ!!
今ここに、
戦いの火蓋は切って落とされた―――――……ッ!!
かぶりつくと香ばしい炭の匂いと、ふわりと香る甘〜い匂い。
にんにくのガツンとした、食欲を誘う香りが鼻に抜け食欲をそそる。
かぶりついた所から、ほわほわとした湯気がゆっくりと上に上がっていく。
はふはふしながら食べ進めると、じゅわわっと溢れる肉汁と後から来る甘〜いタレの味。
タレは甘じょっぱい味に、ピリッとした唐辛子のような辛味と、ガツンと来るにんにくと生姜の風味。
噛めば噛むほどじゅわりと奥底から顔を覗かせるのは、ガツンとした鶏肉本来のコクと旨みと甘み。
野性味溢れる肉々しい味とは裏腹にキメ細かい身の詰まったむっちり感。
弾力と噛みごたえがあるのに、柔らかくてジューシー。
タレと混ざり合っても、後ろに控えている鶏肉本来の強い旨味が満を持して後からガツンとやってくる。
肉本来の濃い味、甘みと、タレの甘じょっぱ辛い味が混ざり合い、まさにここが天国。
唐辛子のピリッとした辛味とにんにく生姜が後を引き、止まらない。
けれど他の皆に隠れて、砂糖では無い優しい甘さがさらに隠れてる。
りんごみたいにフルーティーで、スッキリとした優しい甘さ。
その優しい甘みがタレに溶け込み、食材の角を丸くし全てを調和し包み込む。
これはまさに聖母……。
バラバラになりそうな主張の濃い食材も、全てを調和しまとめ上げてるこの優しいスッキリとした甘さ。
実はこの串焼きの、隠れた一番の立て役者なのでは。
これはそう、まさしく脳天を貫くアッパーのよう。
強烈な旨み甘みに脳天が揺らされ、気が付いたら一瞬で中毒になってしまっているような、止まらない旨さ。
フッ
やられたぜ。
遠くでゴングの鳴る音がする気がする。
レティシア選手、K.O.――――――――――ッ!!
美味かった――――――――――――…………ッ。
悔いは無い。
私は白く燃え尽き、灰になった。
と、いう馬鹿な幻想が見えた所で現実に戻り、気がついた私は真顔で、おじさんのお店の近くにあるゴミ箱に串を捨てていく。
「おじさん、最高に美味しかった。」
カッコつけてイケメンのようにフッと笑って、グッとキメ顔でグーサインすると、おじさんに笑われた。
全部見られてたらしい。
恥ずかしいので、何も無かったかのように話を続ける。
「これ何の肉?」
「これは鳥の魔物の肉だよ。」
「え?魔物?」
「ああ。食べたのは初めてかい?美味いだろ。」
「うん、初めて食べた!めっちゃ美味かった。」
いや、真面目にあれは魔物の肉と言われても食べたくなる旨さ。
美味しければ何でもいいのだ。
うんうん。
「おじさん、美味しかったからまた来るよ!」
「おう、またな。」
おじさんは嬉しそうにニカッと笑うと、手を振ってくれた。
私も笑顔で手を振り返して、まためぼしい物を探す旅に出る。
いつの間にか串焼きさんには行列が出来ていて、おじさんは忙しそうだった。
分かる。あれは美味しい。
皆食べるといいよ!オススメだよ!
そんな気持ちで行列に並んでるお客さんに同じようにグッとグーサインをして無言で頷くと、遠くでお客さんもグッとグーサインをして無言で頷いてくれた。
優しい、皆。
次は何食べようかな〜。
「お嬢ちゃん!次はお魚焼いたのはどうだ?海老さんや貝もあるぞ!ウチのは美味いぞ〜!」
お、確かに港町だし絶対美味しいよね。
魚介串焼きと書いてある看板のお店にフラフラと寄ってくと、ジュウジュウと鳴る素敵な音。
醤油みたいな匂いとスパイスの匂い、それから海鮮が焼ける最っ高にいい〜匂いがしてくる。
日本人なら皆、食べたくなる匂いだ。
塩おにぎりとか食べたくなってきた。
海苔を巻いて、緑茶とか飲みながら食べたらきっと最高だ。
それならきっと、味噌汁も絶対合うはずなのでいつか一緒に食べたい。
「魚介の匂いとかマジ最高かな…………。」
「ウチもどうだい!美容に野菜は大事だよ!具は小さいけど、ウチは朝採りされた新鮮な物を使ってるスープだ!温まるよ〜!!」
確かに最近外寒くなってきたし、スープも飲みたくなってきたかも。
ふわふわと漂ういい香りに釣られて寄ってくと、とろとろになっているたっぷりの小さな野菜と、小さな肉片が入った熱々スープを器に入れている。
コソンメみたいな優しくて、絶対的に安心感のある匂い。
間違いなく美味しいやつだ。
「ハイハイ、ウチの甘ーいお菓子はどうだい!お嬢ちゃん甘いお菓子は好きかい?こんがり焼けて外はサクサク、中はふわふわだよ〜!」
え〜、甘いお菓子も食べたい!
皆大好き甘いスイーツに、思わず小躍りする勢いで釣られて寄ってく。
小さな丸い膨らみがある鉄板からじゅうじゅうと素敵な音がしてきて、甘〜くて優しい、幸せな匂いがしてくる。
あぁ……、ここに幸せはあった。
少額で叶えられる幸せ。
なんと素晴らしき事か。
ま、迷う〜!!
全部美味しそう〜!!
行ったり来たりしながらお店を見渡し、周辺をウロウロしながら迷っていると男の人に声をかけられる。
「よし嬢ちゃん!何が食いたい?おじさんが全部買ってやろうか?」
「え?本当?あり……、いやでも知らない人に何か貰っちゃいけないって…………。」
「お嬢ちゃんは良い子だなぁ…………。よし、何人家族だ?お母さんには内緒だぞ。弟妹はいるか?兄弟分なら全員買ってやるぞ?」
え、おじさん良い人……。