覚悟
あれからも私は隙を見ては執務室に忍び込み、帳簿の確認を続けた。
領主が代替わりしたと思われる所からもさらに2、3年前分。
ちゃんと棚にしまってあった、前領主の帳簿の中身もチェックした結果。
前領主と今とでは、天と地ほどの差があった。
前領主は、税麦や税金もまぁそこそこ取ってはいたが、その分還元もしていた。
しかも飢饉など天災があった時の為に、きちんと蓄えもしっかりしていた様だった。
でも代替わりしてから、税金や税麦の徴収は右肩上がり。
徐々に還元もしなくなり、いつの間にか蓄えさえも月を追うごとにあっという間に減ってきている。
その税麦等の蓄えを売ったお金がどこに行ったのかなんて、想像するまでもない。
私の父親は紛うことなきクズだった。
前と比較して考えるなら、今の生活で高い薬を買い続けるとしたらたぶん無理がある。
食事は取れているだろうが、結構切り詰めていそうだ。
バランスの取れた食事をしている人は、あまりいないだろう。
生活に余裕はほとんど無いだろうし、あまり良い状態じゃないのは確か。
最近流行った流行病というのも気にかかる。
幸い今すぐどうこうという訳じゃないかもしれないが、何かがバランスを崩せば、吹けば飛ぶような状況である事に変わりはない気がする。
流行病が今後さらに流行らないとも限らない。
飢饉などの天災が今年来るかも分からない。
そうなった時、国内で真っ先に危なくなるのはうちの領だろう。
領内の様子を見ないと何とも言えないけど、なるべく早くどうにかしないと、いよいよ私の死期が迫って来てる気がする。
ちなみに病気が、どれぐらい領内に蔓延しているのかといった報告書の類は何も無かった。
それぐらい誰かまとめといてくれよ〜。
ギロチンが〜。
しかも少しづつ家宅捜索をした結果、どうやら借金もたっぷりこさえていた様だった。
ヤバい所からも借りてるのか、保証人にはリベルマン家本家やら、王家の名前まで勝手に出して約束を取り付けたらしい。
それらの所にも徴収しに行ってやろうかといった、半分脅しの類の催促状もあった。
服飾関係の所からも手紙は来ていて、いい加減ツケにしてるお金を払ってくれという嘆願書にも似た催促状もあった。
調べれば調べる程両親の杜撰さが目立つ。
しかも証拠までご丁寧に分かりやすく置いてあるのは、もはやギャグなのではないかと目を疑いたくなる。
ギャグや作り話だったらどんなにいいだろう……。
気が遠くなりながら、自室で私は親族宛てに手紙を書く。
今すぐ出せる訳じゃないけれど、どこかで折りを見て出せるかもしれないので今の内に書いておこう。
まず勝手に、リベルマン家から私の父宛に書いた手紙や王家からの手紙を見てしまった事への陳謝。
それに際して見ず知らずの孫である私が、突然手紙を送るのはどうしようか迷ったが、手紙の内容から考えるに、貴方達の人柄を藁にもすがる思いで信じて送っている事。
私に貴方達を信じさせて欲しい事。
どうか私を可愛く思うなら、良心があるならば、この手紙を最後まで読んで欲しい事。
そしてこれをどうか最良の形になるよう役立て欲しいといった前置きを書いて、今の家の内情を順に書き綴っていく。
帳簿の写し書きをしたメモを元に、家の税金税麦等の徴収量。
どれぐらいそれを領民に還元しているのか。
天災の時の為の蓄えはもうほぼほぼ残っていない事。
そして還元していない分の、つまり横領してる分の合計予想。
そして毎日の様に父は、賭け事や色事に勤しんでいる事。
本人が遊びに行くならまだ良い方で、家にも呼んだりして女の人の声が夜中まで響いている時もある事。
賭け事や色事の所からも、借金の催促状来ている事。
果てはどうやらリベルマン家や王家の名前も出して、ヤバい所からもお金を借りているらしい事。
そしてそのヤバそうな所から、半分脅しの内容の催促状が来ている事。
母も服飾関係からの催促状が来ている事。
多大な借金してドレスやアクセサリーを買ってるらしい事。
本人も街に遊びに行ったりする事もあるが、男の人を呼ぶのは母の方が多い様で、男の人もよく家に頻繁に出入りしている事。
つまり家が吹けば飛ぶような状況であるにも関わらず、横領分のお金はこれらの所に流れている可能性が高い事。
そしてこれまで私がされてきた虐待の内容。
父親とも母親ともこれまで会った事がなく、屋敷とは離れた所にある小屋で生活をしていた事。
メイド達が持って来てくれるはずの飲み物も食べ物も最近は持って来てくれず、死にかけていた事。
あまり覚えてはいないが、朧気な記憶の中ではメイド達から暴言や暴力が振るわれていたと思われる事。
最近はメイドとして変装して生き長らえている事。
いくら変装してるとはいえ、メイド達は私の名前も顔も覚えておらず、私だとは欠片も思っていないようだとという事。
メイドの業務中でも暴言を言われている事。
休憩室で話した時に、領主様の娘に最近食事を提供してないから亡くなって居るかもしれないと、笑いながら話していた事。
亡骸は誰か適当に処分したんじゃないかといった話で、メイド達は盛り上がり嘲笑っていた事。
つまりそれは、メイド内共通の認識事項だと言う事。
それらを簡単にと言っても、被害が多過ぎてまったく短くならなかったけどどうにか纏める。
そして、手紙の返信は何か手を打つのでこの家に直接送って来ないで欲しい事。
事を起こすならなるべく迅速に、かつ慎重にやって欲しい事。
加えて最後に、誠に勝手ながらもし甘えてもいいのなら。
出来ることなら、両親とはもう会わないよう縁を切りたい事。
両親とは離れて暮らしたい事。
今の現存の使用人達とも、もう会いたくない事。
両親を止められなかった事への陳謝と、可能であるならば、まだ私は生きたい事。
どうか孫の私を可愛く思うなら、私のわがままを聞いてくれると嬉しいと最後に書き残し文を締めくくる。
結局手紙の内容は長くなってしまった。
しかも礼節やら時候の挨拶といった洒落っ気も無い。
いきなり本題に入る内容は、ご貴族様からすればなかなかに失礼な内容だろう。
文字も多分汚いし誤字脱字もありそうだが、とりあえず精一杯の私の思いを書いた。
これで無理なら隙を見てもうここから出て行くしかないけど、それならそれで気ままにのんびり旅をして暮らしていこう。
文明の利器を使いまくっていた現代人なので、自給自足の旅っていうのは最初はちょっとキツイだろう。
でも慣れればそれなりに楽しいかもしれない。
苦労もするだろう。
せっかくの異世界を満喫するといっても元々インドア派なので、旅にはたまに出るぐらいが良かったけれど。
本当は日当たりのいい部屋で、小説片手に3食昼寝付き。
おやつもオマケに付いた悠々自適な暮らしがしたかったけれど。
まぁ、それはそれで。
ここまでやって、ダメだったらもうしょうがない。
後々出来るかもしれないし。
腹を括るしかない。
旅に出たとしても飲み水は魔法で出るし、火とか風とか上手く使えば獣も狩れるかも。
血抜きとか捌いた事は無いから、そこはもうめっちゃ気が重いけどどうにかするしかない。
いざとなったら魔法でどうにか出来ないだろうか。
風の刃でこう、上手いことスーパーで売られてるみたいな感じに……。
なる、かどうかは分からないけど……。
とりあえず毛とか毟って、傷を付けて逆さまにして、上から吊るして血を抜いて、軽く水で洗って。
適当に切ってよくよく焼けば、食べれるのでは……?
合ってるかどうかは分からないけど、とにかくお肉は焼いとけば食べれるって聞いたし。
美味しさとかはおいおいってことで。
土魔法とかで洞穴みたいな物を作るか、風の刃で木とか切ってお家とか頑張って作れば、雨風も凌げるし。
幼児が寝るだけのスペースなら、洞穴も小さくて済むのですぐに作れるだろうし。
ど、どうにかなるだろう……。
現代人としては一抹の不安が過ぎるが、そうならない為にも証拠を集めたり、親戚達から同情を得たり、若干媚びを売った手紙を書いてるわけで。
私は使える物はフルで使うぞ。
ここまで来たら野となれ山となれ。
人事を尽くして天命を待つってやつだ。
果報は寝て待てとも言うし。
白雪姫は毒林檎食べて寝てるうちに、全て事は終わってて、優しいキラキライケメン王子捕まえてるし。
何がどうなるかなんて分かんないし。
マジで人間万事塞翁が馬ってやつだし。
祖父母がまともだったら保護してくれるはず。
手紙で見た限り、まともそうだし良い人そうだし。
実際、全て上手くいく可能性だってあるし。
っていうか、上手くいかせるのだ。
大丈夫大丈夫、心配するだけ無駄無駄。
まぁ、夢の無い事を言うと。
果報を寝て待ってた結果、白雪姫の王子は死体愛好家のヤバいやつだったのでは?
っていう説も、見た事あるんだけど。




