ビスケットクラッシャー
あれからハウスメイドのティータイムでも、同じようにつまづいてバランスを崩し持っていたビスケットを放り投げた私は、いつの間にかビスケットを足蹴にし踏み潰していた。
また、自分の分のビスケットを粉砕してしまった。
その事によって、私はビスケットクラッシャーというあだ名が増え若干揶揄される割合が増えた。
悲しい。
貴重な甘味なのだ。
私だってクラッシュしたくてしてる訳じゃない。
そして私は別に、足が太い訳でも大きい訳でも無い。
子供は本来、夜遅くの労働は良しとされていない。
でも万年人手不足が極まってるリベルマン家では、そんな法も常識もあって無いような物だ。
連日ご当主様達が観劇やら賭け事やらに行くせいで、私まで夜遅くに駆り出される始末。
当然疲れも溜まってる訳で、いくら途中で仮眠が出来るからと言って5歳児はまだまだ未発達。
小さな体に負担を重ねれば、自ずと無理は効かなくなる。
そんなこんなで最近は寝不足+疲労気味でぼーっとしている時に、たまたま転んでしまってビスケットを粉砕するという事が続いただけなのだ。
だから決して、私の足が太い訳でも大きい訳でもない。
何なら子供特有のぷにぷにさ加減を考えれば、まだまだ全然足りないぐらいだ。
あのメイド達め、いずれ目に物を見せてやるわ。
そしていずれは、沢山寝て沢山食べてやるんだから!
見てなさいよ!
ふんふん鼻息荒く歩きながら、私は第2館に向かう。
第2館、またの名を小館。
本館別館とは別にある小さな屋敷みたいな物。
そこにはランドリーメイド達が寝起きしたり生活出来るぐらいの小さなスペースと、雨の日用に洗濯場として使える大きな水場が館内にあったり、干す場所等があるらしい。
とは言え、小さい小さいと言いながらも現代で言えば充分な程の大きさの二階建て。
家いうか屋敷というか、オシャレな洋館って感じで現代人からすればよく見る大きさ、もしくはちょっと大きいかな?ぐらいの大きさ。
これで小さいと言うなら現代人に喧嘩売ってるレベル。
余裕で数人は住めるだろうし、洗濯物を洗う場所も干す場所も充分過ぎる程に広いだろう。
場所は本館、H型の右縦棒の居住部である上の部分の、外側の右斜め上にあるらしい。
まぁつまりは、縦棒の外側から角が生えてるイメージ。
その線上に小館はあるらしい。
何でそんな所に私が行くのかと言うとまぁちょっとした嫌がらせというか、自分の分とはいえビスケットを粉砕したお仕置き的な意味らしい。
確かにぼーっとしてた私も悪いっちゃあ悪いんだけど、そもそも論として夜遅くまでの労働は子供はしちゃいけないのに、やらせてたのが原因なのだ。
そんな事が続いていれば、当然寝不足+疲労気味になるのも無理はない。
こんな事をしたからといって、状況が改善されなければ意味が無いんだけどなぁ。
はぁ〜、めんど〜。
そんなこんなで今日の私はランドリーメイド。
まぁつまりは、今日の仕事はお洗濯。
お洗濯が何でお仕置きになるのかっていうと、まぁまずは重労働。
いくら人手不足とはいえ、メイド達全員分となると衣類やシーツはとんでもない量となる。
しかも本来なら家主達にそれぞれ専属メイドや執事が何人も付き、その人達が自分の主人の服を洗ってくれたり協力してくれたりもするらしいが、なんせ家は万年人手不足。
そして家主達の人望は底辺を這っているので誰も手を上げたがらない。
つまり貴族用の無駄に布を使ったヒラヒラしたシャツやら半端なく重いドレスなんかも含め、全て、洗濯物は数少ないランドリーメイド達が洗う事になる。
そして無駄に布や量が多いという事は当然水を吸えばアホみたいに重くなる。
まぁ本当に重いのなんのって。
しかも汚れを落とすのにゴシゴシ擦っても、現代みたいに性能の良い洗濯機がある訳でも、汚れをすぐに落としてくれる洗剤がある訳でも無い。
冗談みたいに落ちない洗剤を使って、手洗いするしかないのだ。
大変でしかない。
つまり冬場は地獄。
寒空の中冷たい水を使って洗うのだ。
手は荒れ放題、しもやけあかぎれひび割れ当たり前。
そこに汚れを落とす為の洗剤も加わり余計に手は荒れ、出来た傷には洗剤が染み、冬場の冷水が突き刺さってピリピリとした痛みが襲う。
今が暖かい時期だったのがせめてもの救いだ。
そんな大変な仕事なのに、いやだからこそとも言うべきか。
人気の無いこの仕事は、素行が悪い者だったり何か悪いことをした時の罰。
左遷先として他の担当から移ったり、ともすれば落ちこぼれと呼ばれるような、仕事の成績が良くない人が来たりする場。
つまりは私のあだ名の一つである、トゥイーニーの様な物なのだ。
その仕事をしてるというだけで、仕事内容は半端なく大変なのに周りからはそんな仕事をしてるのかと揶揄される、割に合わない仕事なのである。
でもランドリーメイドというのは、本来褒められるべき仕事だ。
とんでもなく大変な事に加え、布によって汚れによって使って良い洗剤や使う道具は異なる。
しかも貴族の服の汚れを落とすとなれば、新品同様にしなければならない為、職人並みの技術や専門的な知識が膨大に必要になる。
本来なら褒められこそすれ、貶される様な仕事ではないのだ。
というか洗濯だって掃除だって料理だって、全部大変な仕事で、生きてくのにそれぞれ皆必要な仕事だ。
そこに優劣は無いはずなのに、何でこんな事になってるのか。
そんなに大変な仕事をしてくれる人達がいてくれるからこそ、私達は綺麗な服を着て風邪も引かずにいられるのだ。
整理整頓された綺麗で過ごしやすい部屋。
お金が無いなりに工夫して作られた、美味しくて栄養価が高い料理。
それらがあって初めて、私達は満足に生きてられるのだ。
縁の下の力持ち的な人とか、現実的に考えればマジで必要な人材なんだからさぁ。
本当、もうちょっと大事にしてくれてもいいのに。
せめて貶すとか、そういう事するのはマジで止めて欲しい。




