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メスガキラー  作者: わっか
ベニハガネ編

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第88話 反復

 「ちくしょう……」


 私は起き上がりながら、攻撃を受けたことに腹を立てる。


 (机をおとりに使うなんて……)


 今までのアサブクロは本能的に襲ってくるといった感じだったが、ベニアサブクロの行動には明らかに知性を感じた。


 立ち上がると“男のベニアサブクロ”が追撃してこないので、私はひなたを心配して急いで窓から身を乗り出す。


 視線を落とすと、予想通りヤツは対象をひなたに切り替えていたのだ。


 ひなたの近くでは綿に包まれた“女のベニアサブクロ”がのたうち回っており、裁縫針による攻撃から抜け出せずにいる。


 (そうだ。ひなたの憑依体による攻撃は単発の威力が低いものの、あの継続ダメージを与えられることこそ、他の憑依体にはない強みなのだ)


 改めてひなたの能力に感心しながら、“男のベニアサブクロ”の注意が逸れていることを好機と捉え、窓から飛び出すと私は憑依体の腕を伸ばし斬撃を放った。


 「はあっ!」


 だが、“男のベニアサブクロ”は背を向けたまま壁へ跳んでこちらの攻撃を躱すと、私には目もくれず壁走りをしながらひなたへ向かっていく。


 (コイツ背中に目でも付いているのか……!)


 「わわっ!?」


 「ひなたっ! 気を付けて!」


 ひなたは両腕の裁縫針を引っ込めると、自身を抱きしめるように憑依体の腕を体に絡ませた。


 すると全身を覆うように綿を生成し、ひなたは大きな綿の球体となった。


 「ひなちゃんっ! 魔力の残量には注意だよ!」


 「うっ、うんっ!」


 ひなたが中からくぐもった声で返事をする一方、彼女が大きな綿の球体となると同時に“女のベニアサブクロ”を覆っていた綿は消失した。


 どうやらひなたの能力である綿の生成は無限に生み出せる訳ではなく、生成可能量を超えて新たな綿を生み出すと、古い物から自動的に消失してしまうようだ。


 「ウヲオォォ~ッ!」


 壁面を蹴り上げ飛び掛かると、“男のベニアサブクロ”はひなたへ鉄パイプを振るった。


 ヤツの攻撃は直撃したが、大きな綿玉わただまとなったひなたははずんで壁に当たると跳ね返り地面に転がる。

 誰の目にも負傷していないのは明らかだ。


 どうやら同じ防御型でもギャル子のような固い装甲で覆われたタイプと違い、ひなたは柔軟性を活かした柔らかいタイプの防御型のようだ。


 攻撃後、反対側の壁面に到達した私は鉤爪かぎづめを壁に突き刺し、窓のふちに足を乗せるとひなたへ叫んだ。


 「ひなたっ! ヤツらを中央へ追いやって!」


 「分かったよぉ!」


 返事と同時に自身を覆っていた綿を飛ばして両腕を振り上げたひなたが見えると、彼女はそのまま左右の腕をあおぐように動かし二体のベニアサブクロへ綿を飛ばす。


 二体のベニアサブクロはそれぞれ綿を躱しながら、私の居る方へと後退してきた。


 左右が町工場で挟まれた通りにはひなたが生成した綿が舞い、私と彼女が二体のベニアサブクロを挟む形となったのだ。


 (コイツらに動き回られると面倒だ。動きを封殺しつつ、一気に倒す!)


 「ひなたっ! 通路に綿を敷き詰めて! 上下で攻めるわよ!」


 「はっ……! うん!」


 私の作戦を理解しひなたは両腕を地面につけると、絨毯じゅうたんのように真っ白な綿が広がっていった。


 私は壁面から鉤爪(かぎづめ)を抜くと、二体のベニアサブクロの真上に跳んで憑依体の腕を構える。


 「今よ!」


 「え~~いっ!」


 ひなたの掛け声と共に綿の地面から無数の裁縫針が飛び出し、二体のベニアサブクロの下半身を貫く。


 「ウグァァッ……!」


 「アアァァッ……!」


 堪らず壁面へと逃げようとするヤツらへ、私は空中から斬撃を放った。


 「はあっ!」


 こちらの攻撃によってベニアサブクロらの退避は妨害される。


 私は跳んだ先にある二階の壁面へ両足を着くと、反対側の壁面へ跳びながら連続してヤツらを切りつけた。


 「はあっ! はあーっ!」


 私は反対側の壁面へ到達すると、すぐさま逆側の壁へと跳んだ。

 跳んでいるあいだは、空中でベニアサブクロへ向けて斬撃を放つ。


 高い跳躍力を生み出すこの憑依体の脚力を利用し、左右の壁の間を反復横跳びの様に跳び続けることで、真上からの攻撃を維持し続けていたのだ。


 動こうにも地面から飛び出す無数の裁縫針と上から雨のように降り注ぐ私の斬撃によって、二体のベニアサブクロは抵抗する術を失っていた。


 (“床槍しょうそうの貴婦人”も感知式ではなく、常に作動できていたのなら私を仕留められたでしょうに、惜しかったわね!)


 私とハム子が受けた、運動性能にけた奴を封殺する吊り天井作戦である。


 「はあああぁぁぁ~っ!」


 「ウグォォ~ッ……!」


 「アアァァ~ッ……!」


 全身をズタズタに切りつけられ、二体とも最早もはや虫の息だろう。


 私は攻撃をめ、ひなたへ指示を出した。


 「ひなたっ! とどめを!」


 「うん!」


 ひなたは両腕を上げてそれぞれをぐるぐると回すと、左右の腕の先に大きな綿飴のような毛玉が二つ生成された。

 それによって地面の綿は消失していく。


 彼女がベニアサブクロへ向かっていくと、全身を包むように上から毛玉を被せ、ベニアサブクロは二体とも綿に覆われてしまった。


 「え~い……やあ~~っ!」


 ひなたは振り上げた両腕を力強く下ろすと、毛玉の内側へ向かって無数の裁縫針が飛び出す。


 「ウグェアッ……!」


 「アギヤァッ……!」


 裁縫針が全身を貫くと真っ白な綿が赤く染まっていき、“女のベニアサブクロ”が包まれた綿の中からは魔力が湧き出し、ひなたへ吸収された。


 “女のベニアサブクロ”はその場で倒れ込むと、黒い(ちり)となり消失が始まる。


 「ウヲォォーッ……!」


 だが、“男のベニアサブクロ”は最後まで足掻きを見せ、暴れながら全身の綿を払うと通りの奥へと弱々しく歩いていく。


 「まだ、やる気!」


 私は着地して憑依体の腕を構えるが、“男のベニアサブクロ”はよろけながら数歩進むと、ひざをついて力なく倒れた。


 その体からは魔力が湧き出し、ひなたへ吸収される。


 やがて“男のベニアサブクロ”の全身は黒いもやに包まれ、消失が始まった。


 「んー……」


 私はヤツに近づきその様子を観察していると、疑念が浮かぶ。


 (あれ? 倒したわよね……)


 ベニアサブクロの体は消失していっているにも関わらず、ゾーンが閉じないのだ。


 そう思ったのもつかの間――。


 「あっ」


 ゾーンが閉じられると世界は色を取り戻し、私達の憑依は解除された。


 (少し遅れていただけか……)


 新たな敵の出現に困惑しながらも、私は半透明の状態で消失していくベニアサブクロを見つめているのであった。

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