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メスガキラー  作者: わっか
ベニハガネ編

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第86話 針金

 翌日――。


 私とひなた、ギャル子とシシ子の四人はまだ捜索したことのない街へ出向いていた。


 「おしっ! さあ、行くわよ!」


 「何だかウサちゃん、生き生きしてるね!」


 「勉強より得意なのは確かね!」


 久々の外出に加え、体を動かせるということで自然と気分は上がっていた。


 固まって行動する私達の元には念のため“みたらし”だけを残し、他のキラー・スタッフト・トイは捜索をするように指示を出した。




 「みんなぁ~、“まくら”が見つけたって」


 しばらくしてから戻って来た“まくら”の報告を受け、私とシシ子は自分達のドールを呼び戻し、“まくら”の後を追う。


 繁華街から路地へ進むと、次第に人気ひとけはなくなっていき辺りは静まり返っていった。


 その辺り一帯は都心の発展からおいていかれ、当時の状態から時間が止まったようである。


 シャッター街と化し、町工場まちこうばのどれもがとうの昔に活動を止めており、薄汚れた外壁とひび割れたガラス窓が哀愁を漂わせていた。


 通路の脇には鉄パイプや巨大なくぎなど一部の建築資材が放置されたままになっており、捨てられた土地であるのが見て取れる。


 路地にある真っすぐ伸びた通路の左右にはそんな建物が並び、その先には小高い山があった。


 山の斜面には人気ひとけのない縦長の朽ちたマンションが一棟いっとうそびえ立ち、町工場全体を見下ろしている。


 その通路のずっと奥の方に二体のアサブクロが居たのだ。


 だが、それ程危機感はなかった。


 一体は腕の先から幾つもの釘が露出している“女のアサブクロ”。

 雑に描かれている顔が違うため別個体だろうが、私が初めて遭遇したアサブクロと同じタイプだ。


 もう一体は腕の先から無数のカッターの刃が露出している“男のアサブクロ”。

 これも別個体だろうが、ハム子の実力を見る時にアスファルトの広場で遭遇したヤツと酷似している。


 どちらもアサブクロの中では比較的人の原型をとどめており、戦いやすい。

 ひなたの魔力回収には持って来いの相手だろう。


 唯一気になるとしたら、今まで顔に被っている麻袋にだけ描かれていた雑な顔の落書きが腕や足にもあることだった。


 私達がヤツらを視界に捉えたことで向こうにも気づかれたのか、ゾーンが展開され全員が引き込まれた。


 元より戦うつもりでいたため、皆動じることなくアサブクロに注意を払った。


 「よし! 行くわよ、ひなた!」


 「うん!」


 「ウサちゃん、あーしらも手伝おっか?」


 「平気よっ! ギャル子とシシ子はひかえてて」


 (この二人じゃ、手加減してても倒してしまいそうだし……)


 私とひなたは一歩前へ出る。


 「いい? 私がヤツらを瀕死に追い込むから、ひなたはとどめを刺して!」


 「分かったよ、弥兎みうちゃん」


 私はウエストポーチからロリポップを取り出し、慣れた手つきで包みを剥がし叫ぶ。


 「“ロリポップ”っ!」


 ひなたは胸の前で手を合わすと、“まくら”に頼んだ。


 「“まくら”、力を貸してねぇ」


 二つの閃光が走ると、私達は憑依体へと姿を変えた。


 ひなたの憑依体は前回見た時と同様、綿わたで覆われている振袖のような両腕に、大きな裁縫針が幾つも刺さっている。


 綿が地面に着かないように腕を上げているため、ひなたの立ち姿は内側へひじを曲げ手首から先は外側へ力なく曲げる幽霊の“恨めしや”のポーズを高めの位置でやっているみたいであった。


 私はロリポップを咥えると、一人駆け出しヤツらの元へ接近する。

 二体のアサブクロもまた、横並びのまますり足で前進してきていた。


 ヤツらが私の攻撃範囲内に入ったところで三本の鉤爪かぎづめを立て、憑依体の右腕を右後方から左前方へ向けて伸ばした。


 (まとめて切りつけ、転倒したところを畳みかけてやる!)


 だが私の攻撃が迫ると、“男のアサブクロ”と“女のアサブクロ”は引っ張られたように体を“く”の字にして後方へ飛び退く。


 結果、私の攻撃は空振りとなる。


 二体のアサブクロは着地すると、すぐさま腕を振り上げ前方に居る私目掛けて飛び掛かってきた。


 「っ!?」


 私は即座に跳躍力を活かし後方へ大きく飛び退く。


 「くっ……!」


 着地して二体のアサブクロを見ると、ヤツらは今しがた私が立っていた場所へ腕を振り下ろしていた。


 「ウサちゃーんっ!」


 「大丈夫ですのー?」


 ギャル子とシシ子は私を気遣い、声を掛ける。


 「えぇっ! 平気よ!」


 背を向けながら答えるが、私は内心動揺していた。


 (攻撃を躱すアサブクロなんて……初めて見た……)


 ヤツらはただこちらを襲ってくるだけ、恐れや警戒心を持ち合わせてなどいない、それがアサブクロのはずだ。


 だが、臆することなどない。相手はただのアサブクロなのだから。


 (躱せないスピードで、攻め切ってやる!)


 念のため距離を取ったまま、私は肩から生えた憑依体の腕で連続した素早い斬撃を二体のアサブクロへ放った。


 「はあああーっ!」


 「ウウウ~ッ……!」


 「アアアア~ッ……!」


 “男のアサブクロ”と“女のアサブクロ”は悲痛な声を上げる。

 切りつけられたことで全身は傷ついていき、麻袋もボロボロになっていった。


 「ウ……」


 「アァ……」


 それぞれ力なく倒れ、後一撃与えれば倒せるだろう。


 「よし! ひなたっ! ヤツらにとどめを!」


 私は振り返って彼女に指示を出すが、ひなたは戸惑った顔をしていた。


 「弥兎みうちゃん……、あれ……」


 「えっ?」


 私はアサブクロへ向き直ると、ヤツらは弱々しくも何とか立ち上がろうとしていた。


 「まだ動けたのね。だったら……! はっ!?」


 「ウッ……ウブッ……ブハァッ!」


 “男のアサブクロ”は苦しそうにすると吐血し、被っている麻袋の内側の口がある辺りが血で染まった。


 「ウブッ……ウウッ……!」


 「ねえ……、何かあの子気持ち悪そうじゃない?」


 (死にかけているのか?)


 「ウウッ……ウー……ウヲヲォォォ~……!」


 「なっ!?」


 急に天を仰いだ“男のアサブクロ”の体を目にして驚愕する。


 ヤツの体の内側を蛇のような細長いモノが無数にうごめいているのだ。

 体の中を這いずり回る度、皮膚の表面や各部位を覆う麻袋が盛り上がっていく。


 (何が起きている……!)


 「アアッ……アァァァーッ……!」


 それは“女のアサブクロ”にも同様に起こっていた。


 二体共立ったまま痙攣したように体を激しく動かしていると、突如として皮膚を突き破り全身から無数の針金が触手の様に滑らかに動きながら飛び出した。


 針金は所所ところどころだまになっているところもあり、有刺鉄線にも見える。


 生気のない青白い肌に被さる麻袋は、吹き出す血によってベージュ色から瞬く間に赤く染まっていく。


 “男のアサブクロ”から飛び出た太さの異なる様々な針金の先端はヤツに狙いを定めると、破れた麻袋を縫い合わせ始めた。


 大きな麻袋で覆われ歩きづらそうだった両足は深靴ふかぐつのようになり、肩回りと下半身を覆う破れた麻袋はそれぞれが肩布、腰布が如くなびく。


 あちこちから飛び出た針金は体の別のところへ突き刺さり、変形した輪っかが幾つも生えているようになった。


 右腕には針金が激しくからまり、手の先のカッターの刃を爪のように構え禍々しさが増す。


 左腕から伸びた針金は、町工場の脇に放置された鉄パイプにからまり勢いよく引っ込むと“男のアサブクロ”の手に突き刺さり、左腕と鉄パイプに針金が巻き付いていきながら武器を持つように固定させられた。


 風を切り、鉄パイプを剣のように振るう“男のアサブクロ”は暴徒のようだ。


 顔の麻袋は右目の部分が破れ、中からは白目に瞳孔が開ききった黒い点がある血走った瞳がこちらを捉えている。

 口元の左側の一部も破け、食いしばっている歯茎が確認できた。


 「ウゥー……ウゥー……」


 今までの脱力した立ち姿と違い、肩で息をしながら仁王立ちをしている。


 「ウヲオオォォーッ……!」


 雄叫おたけびを上げ、“男のアサブクロ”の筋肉がミチミチと引き締まる音が響いた。


 「何なんだ……あの――」


 それは全身に針金をまとう麻袋がくれないの血に染まったアサブクロだったのだ。


 「――“ベニアサブクロ”は……!」

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