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メスガキラー  作者: わっか
ベニハガネ編

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第85話 気付き

 毎日勉強する日々が続いていた――。


 初めはやる気などなかったが、今では自分でも驚く程投げ出さずに取り組めている。


 それまではただ惰性だせいで生きていたに過ぎず一日が長く感じていながら、振り返ればそんな日々はあっという間で、不毛な時間しか過ごしていなかったことに気付く。


 それを思えば、目的を持ってやることがあるという現状は充実していた。


 決して楽しい訳ではないが、無駄に命をすり減らすよりかは生きていると実感できる。


 ここまで投げ出さずにいられる理由を私は分かっていた。


 学校と家庭が滅茶苦茶になったあの時から、自分の好きなように生きると決めたが、具体的な目標ややりたい事があった訳ではない。


 ただ相手の迷惑をかえりみない自己中な奴と、それに合わせる腰抜けや無能な大人が居る空間、そして――母の笑顔が失われたあの部屋には居たくなかったのだ。


 それからの私は堂々と振る舞った。


 胸を張って歩けば、世界は自分を中心に回っているように感じられたから。


 開き直っているのは分かっていたのだ。


 このままでは駄目だと理解しながら変わる機会を見つけられないでいると、次第にどうとでもなれと投げやりになっていった。


 それでも、今を生きる私を現実は放っておいてくれなかった。


 運命の糸に手繰たぐり寄せられるように、私は訳の分からない状況に巻き込まれ、生き残るためには他の者達と関わりを持たざるを得なくなった。


 その後、暴行事件で過去の出来事に固執し他人を傷付ける選択を取ったらむねを目にして、私は怖くなった。


 立ち止まるだけではなく、悪い方へと進み自分を制御出来なくなっている彼女を目にして、私もいずれあのようになってしまうのかと思ったからだ。


 らむねの怒りは理解できたが、話せば話すほど彼女を放っておくことは出来なかった。

 彼女を前進させることで、自分も救われる気がしたから。


 そうだ――、私はらむねに気付かされたのだ。このままでは駄目だと――。




 夏休みの間、全員で集まれなくとも各々は時間を見つけては私の元へ来てくれていた。


 「弥兎みうさんは覚えが早いですわね。今のやり方で、こちらの問題も解けるはずですわ」


 「やってみる」




 ――だが、気付けたところで現状を変えるために行動できるほど、私は強くなかった。




 「弥兎みうちゃんは頑張り屋さんだねぇ~」


 「……」


 ひなたは時より、こうして私の頭を撫でる。




 ――ところがドール・ゲームを通じて出会った契約者達と苦楽を共にすることで、私の中に変化が起こり始めていた。




 「ウサちゃ~ん……、ここ教えて?」


 「は?」




 ――そして今、課題をこなすことで私の時間は進みだした。


 彼女達と出会い、自信がなくとも力になりたいと思い、夢を持ち、あやまちに気付け、他者のために行動し、人との関わりを重んじ、自分のやるべきことを理解し努力できる。


 そんな奴らが居ることを知って、彼女たちの行きつく未来を見てみたいと思った。

 そして、そこには私も共に居たい。


 だからこそ、私は頑張れた。


 これからの長い人生を彼女達と共に歩んでいけるのなら、どれだけ辛く苦しい道のりでもやり遂げて見せる。

 一人も欠けることのない未来を掴むために。


 願わくば――理不尽なゲームから解き放たれ、昔のように母と暮らしながら、彼女達とくだらないことで笑い合っていたいのだ。


 もしも――、望みが叶うなら。


 この先もずっと皆と笑い合う日々を送りたい、それが私の望みだ――。




 花子はなこは買い物をしながら真奈美まなみと通話をしていた。


 「クマさん、自分は上手くやれているでしょうか?」


 「……ああ、お前はよくやっているさ」


 「どもっス。夏休みの特訓で、たとえ数回でもお互い成長出来ている気がします」


 「……そうだな。そこで、実戦でどこまで通用するかそろそろ確かめておきたい。

 ……明日あたり魔力回収に行けるか?」


 「うっ……はい。そうっスよね、戦わなければ意味ないですし、やりましょう……」


 戦闘への不安が無いわけではなかったが、真奈美まなみは覚悟を決めるのだった。


 二人は具体的な捜索範囲を決めると電話を切り、会計を済ませた花子はなこは買い物袋を手に目的地へと向かっていった。




 夕方過ぎに一人課題をこなしていると、聞き慣れない軽そうな足音がドアの前まで近づき、呼び鈴が鳴らされた。


 (誰かしら……)


 「はい」


 ドアを開けると、そこに居たのはクマ子だった。


 「……よう」


 買い物袋を持ちながら、ぽつんと立っている。


 「クマ子? 何か用? いや……取り敢えず入んなさいよ」


 「……ああ、上がらせてもらう」


 互いにダイニングキッチンまで進んだところで、声を掛けた。


 「なんか久しぶりね」


 「……海の日以来だからな」


 夏休みに入ってからは課題にてんてこまいで、思い返せばクマ子に電話も出来ていなかったのだ。


 「それで? 何の用? こっちは今、滅茶苦茶忙しいんだけど」


 「……お前の状況は夏樹なつきから聞かされているさ」


 「何だ、知ってたのね。

 朝から晩までひたすら問題集とにらめっこで、ロリポップの消費も激しいのよ。

 食って寝ては勉強の繰り返し……だけど、何とかやってるわ」


 「……そんな生活をしていて、よく丸くならないものだ」


 「まっ! 貧乏生活の利点は太らないことかしらね!」


 私はわざとらしいグラビアポーズを取ってみせると、クマ子はぼそりと呟く。


 「……貧困式ダイエット」


 「ああんっ!?」


 ドスのいた声を上げたところで、彼女が持っている買い物袋が気になった。


 「買い物でもしてきたの?」


 「……ああ。差し入れだ」


 差し出された袋を受け取ると、中にはエネルギー補給に最適なキャップ付きの飲むゼリーや栄養ドリンク、後は菓子パンや惣菜パンが入っていた。

 私が以前クマ子の奢りでパンを食べていたから、米よりかはパン派と思われたのだろう。


 「くれるの? ありがとう」


 「……気にするな、夏樹(なつき)が“すごい頑張っている”と褒めていたぞ」


 「そう。そっちはどうしてた?」


 「……実はここのところ真奈美(まなみ)と特訓をしていてな。お互いにさらに憑依体の扱いが向上したと言えるだろう」


 「へえ~、それは楽しみね。是非実戦で見てみたいものだわ」


 「……ああ。楽しみにしておけ」


 クマ子は自信有り気な表情を浮かべていた。


 「そうだ、明日はひなたの魔力回収をしにみんなで出掛けることにしてるけど、クマ子達も来る?」


 「……回収が目的なら例え複数体のキラードールが現れようとも、全てひなたへ与えるべきだろう。

 ……それならば、二手に分かれた方が互いに魔力を得られる可能性がある。

 ……元々、明日は真奈美まなみと回収に出向くつもりでいたからな。こっちはこっちでやっているさ」


 「ならいいけど……あっそうだ。クマ子、分からないとこあったから、ちょっと教えてくれない?」


 シシ子に訊こうと思っていたが、ちょうどクマ子が居るため尋ねることにする。


 「……間違えるのも勉強のうちだぞ」


 「ケチケチしないで、教えなさいよ。

 暴行事件の時、協力してやったでしょ。そのお礼ってことで」


 「……その礼は飲み物と情報で返した」


 意外と粘るクマ子の肩に強引に腕を回した私は、ウザ絡みをする。


 「なぁ~によ、クマ子ぉ~相棒でしょ~」


 「……っ!」


 当然無視されるか適当にあしらわれるかと思ったが、クマ子は驚いた様子で目を丸くすると私を見て固まってしまった。


 予想外の反応に私は困惑してしまう。


 「えっ……? 何? どうかした?」


 「……」


 我に返ったクマ子は悲しそうな目をすると、私から顔をそむけぼそりと呟く。


 「……いや、……何でもない……。……どこだ?」


 クマ子は何事もなかったように話を続け、該当箇所を教えてくれた。




 「そういえば、シシ子達が何か企んでいるらしいんだけど、あんた知ってる?」


 「……ああ。お前にだけはまだ教えていないと言っていたな。

 ……何でもお前の課題の目途が付いたら実行するんだと」


 「責任重大じゃない!?」


 「……だからこそ、しっかりこなせ。あと分からないところは?」


 その後少しの間クマ子に教えてもらうと、彼女は帰り支度を始め玄関へ向かう。


 帰りぎわ、私はクマ子に一言告げた。


 「処刑女が出るかもしれないし、明日は気を付けなさいよ」


 振り返ったクマ子は、ぼそりと呟くのだった。


 「……お互いにな」

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