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メスガキラー  作者: わっか
ベニハガネ編

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第84話 四大学園

 その晩――らむね、花子(はなこ)真奈美(まなみ)の元には、董華とうかからのメッセージが届く。


 その内容を確認した各々からの返答を見て、董華とうかは一人微笑んでいた。


 (やりましたわ。残すは……)




 翌日――。


 時間通りお姉さん組が我が家に集合すると、昨日に引き続き勉強会を行うこととなった。


 流石に四人が課題を広げるとなると部屋が狭いため、ひなたは椅子があるキッチン側のテーブルに、私とシシ子は部屋側で腰を下ろし昨日と同じテーブルを二人で使うことになったのだが――。


 「問題はギャル子ね」


 彼女の勉強スペースが無いのである。


 「あーし、床でもいいよ?」


 「そういう訳にはいかないでしょ」


 「夏樹(なつき)ちゃん、一緒に使おうよぉ」


 「いいよ、いいよ!

 ひなちゃん、狭くなってやりづらいでしょ?」


 「あっ、押し入れにもテーブルがあったはず。

 ギャル子、悪いけどそこから出しといて」


 私は押し入れの場所を指すと、皆に出す飲み物の準備を始める。


 「それじゃあ~、失礼してぇ」


 ギャル子は膝を突いて押し入れの中を捜し始めた。


 上半身を突っ込んで押し入れ内を捜索していると、彼女は唐突に声を上げる。


 「うわ~っ、なっつ~! ウサちゃ~ん、これ見てもいい?」


 「どれ?」


 見ると、ギャル子は箱に入った着せ替え人形セットを持っていた。

 いかにも子供向けのコーナーに在りそうなピンクの箱には、商品名や遊び方が印刷されている。

 正面は透明なプラスチックになっているため中身を確認でき、女の子の人形と大量の着せ替え用の服やアクセサリーが入っているのが分かる。


 「昔、流行ってたよねぇ」


 ひなたも知っているようで興味を示した。

 ギャル子は箱の正面を自分へ向けると、改めて着せ替え人形をまじまじと観察する。


 「しかもこれ、デラックスセットじゃん!

 あーしも欲しかったけど、通常版しか持ってなかったしぃ」


 「(弥兎みう、これ――)」


 「……」


 一瞬、当時の母の顔が思い返された――。


 「そんなのいいから……ほら、その端にあるのがそうよ」


 「はーい」


 素直に着せ替え人形を戻すと、ギャル子は折り畳みテーブルを引っ張りだし四つ脚を展開することで、自分の勉強スペースを確保した。


 各々が課題に取り掛かる中、ギャル子とひなたは夏休みの宿題をやっているようだったが、シシ子だけは参考書を開いていた。


 「シシ子は宿題しなくていいの?」


 私の問いに彼女はあっさりと答える。


 「わたくしはもう済ませましたので」


 (済ませた……? シシ子のとこはプリント一枚なのか?)


 余計なことを考えるのは止めて課題に取り掛かり、今日も分からないところがあるたび私はシシ子に教えてもらっていた。


 「シシ子、これは?」


 「はい、ここはですね――」


 (しば)しそんなやり取りを繰り返していると、ギャル子が声を上げる。


 「ねえ~、ウサちゃん。何でシシちゃんにばっか訊くの~?」


 「ギャル子、分かんの?」


 「あーしがウサちゃんくらいの時に習ってたやつでしょ~、流石に分かるしぃ!」


 「そう……じゃあ、どこだっけ……。

 あっ、数学のここ、昨日分からなかったから解き方教えて」


 「もちっ! あーしにお任せだしぃ~!」


 ギャル子は意気揚々と受け取り、問題集とにらめっこを始める。


 「う~ん」


 私は手元の問題を解きながら、シシ子とひなたに尋ねた。


 「流石にあんた達も毎日集まるのは難しいわよね」


 「そうだねー。でも、出来るだけ弥兎みうちゃんとの時間を作るようにはするよぉ」


 「う~ん……」


 ギャル子は徐々に険しい顔つきになっていく。


 「いいのよ。毎回電車でさすのも気が引けるし、一人の時に分からなかったら連絡するわ」


 「どうぞ、ご遠慮なくですわ。 わたくしも可能な限りお時間を作りたいのですが、えー……次にお伺い出来るのは――」


 シシ子が予定を確認するために何かを取り出そうとしたところで、私はそろそろ解答を尋ねることにする。


 「ギャル子、分かった?」


 「ん……」


 彼女はすんとした表情をこちらへ向けると、徐々に瞳が潤んでいった。


 「あー……、いい、いいのよギャル子……、ありがとう」


 私がギャル子からそっと数学の問題集を回収すると、彼女は申し訳なさそうにしながら消え入りそうな声でぽつりと呟く。


 「ごめんね……ウサちゃん……」


 結局、該当箇所はシシ子に教えてもらった。


 先程の問題を終えると、シシ子は生徒手帳を見ながら予定を確認している。

 それにちゃんと予定を書き込んでいる奴なんて居たのか。


 すると、シシ子の持つ生徒手帳の校章で気付いたのか、ギャル子は驚きの声を上げた。


 「マジっ!? シシちゃんって“西王せいおう女子”なの?」


 「はい。素晴らしい環境で学ばせていただき、両親には感謝しておりますわ」


 「知ってる?」


 私はひなたに尋ねた。


 「うん。お嬢様学校だねぇ」


 「四大よんだい学園のひとつだよ! ウサちゃんっ!」


 「そんな呼ばれ方してんの?」


 「実際は各校創設や歴史などに関係がある訳ではございませんが、わたくしの通う西王せいおう女子大学付属学園と北法ほくほう大学付属学園、東政とうせい学園、南商業みなみしょうぎょう学園。

 これらは方角の名とそれに相応しい場所に位置することから、何時(いつ)の頃からか学生達の間では四大よんだい学園と呼ばれるようになっておりましたわ」


 「自分達だけの呼び方って付けたくなるよね!

 あーしも友達とは場所とかを略称で読んだりするしぃ」


 「ふーん。あっ、らむねは東政とうせい学園なのよ」


 「まあっ! そうでしたの。

 わたくしの親友に來加らいかさんと言う方がおりますが、彼女は北法ほくほう学園に通っておりますわ」


 シシ子は親友との関係を語り始めた。


 「わたくしは人生において、他者との協力が不可欠であると考えておりますわ。

 人は一人では生きていけないからこそ、互いに手を取り合い助け合えるのは素晴らしいことですから。


 一方で來加らいかさんは孤高を掲げ、人は誰しも一人であり、最後に頼れるのは己自身、個人の力量こそが重要であるというお考えですの。


 互いに相反する考えを持ちながら、わたくし達は相手の思想を否定することは致しません。

 違う意見と考えに耳を傾けることで視野を広げ、物事をより俯瞰して見ることが出来ますわ。


 以前は同じ学舎(まなびや)で進学を期に互いに別々の道へ進みましたが、來加らいかさんは変わらずわたくしと親しくして下さいますの」


 「ずっと仲良しな友達か居るって良いよねぇ~」


 「はい。特に來加らいかさんとは学力をずっと競い合っておりますわ。

 学園や塾などで行われる全国学力テスト、皆様もご経験があるのではないでしょうか」


 「何か一年の頃にやったわね」


 「あれ、学校の試験より難しかったしぃ」


 「実際、難しいって聞いたよぉ」


 「おっしゃる通りですわ。だからこそ競いがいがありますの。

 試験結果にはランキングも掲載されるので、わたくしと來加らいかさんはその順位と点数で勝敗をつけておりますわ。


 今のところ互いに地区、地域共に一桁台を維持し続けているのです」


 「二人共そんなに頭良いのに一位じゃないのね?」


 「それが……わたくし達の地域には常にランキング一位の方がおりますので、トップを目指すにはさらなる精進が必要ですわ」


 「もしかして、そいつの点数って……」


 「満点ですわ」


 「うへぇ~、ほんとにそういう子って居るんだねぇ」


 流石に満点を取るような奴には、皆興味が湧いた。


 「その子、お名前は?」


 「掲載されていたのは名字だけでしたが……早乙女さおとめさんという方ですわ」


 「そういう天才の子って、まれに居るもんなんだねぇ」


 ギャル子が感心していると、シシ子は思い出しながら答えた。


 「そうでもありませんわ。先輩の代にも、そのような方が居ると聞いたことがありますもの。毎年満点の方」


 「どの年にもそういう奴って居るのね。そいつは何ていうの?」


 「わたくしが気に留めていた訳ではなかったのでお名前までは、たしか……“ナントカさき”さん?

 すみません、覚えていませんわ」


 「ま、私じゃその手の成績上位組とは一生縁はないでしょうね」


 「そんなことはございませんわ。わたくしと弥兎みうさんはこうして出会えたのです。

 どこにどんなご縁があるかは分からないものですわ」


 「取り敢えず、私は目の前の課題をこなすことに尽力するわ」


 おしゃべりはこのくらいにして、課題に戻ろうとする私にシシ子は称賛の声を掛ける。


 「素晴らしいですわ! 上ばかりを見ていてはつまずいてしまいます。少し先を見通すくらいが成長への近道ですわ」


 シシ子はさらに嬉しそうに告げる。


 「それに、弥兎みうさんが頑張ったあかつきにはご褒美を用意しておりますので!」


 「何よ、それは」


 「それはまだ秘密ですわ!」


 シシ子はギャル子とひなたに目配せをし、二人も楽しそうに声を合わせる。


 「ねぇ~!」


 (こいつら何企んでんだ?)


 親友の事と楽しい事を思ったシシ子は、同時に今の状況に悲しみを覚えたようだった。


 「しかし、この事態に巻き込まれてからは親しい方とは余り会わないようにしておりますので、寂しいですわね……」


 「うん……。あーしも全くってことはないけど、長く一緒に居るのは避けがちかなぁ。

 クマちゃんが言うには、キラードールは一般の人を襲わないっぽいけど……」


 「確かに、その場面を見たことが無いだけで絶対とは言い切れない以上、あんたらの判断は正しいと思う。

 ひなたはあれから襲われたりした?」


 「うん、一度だけね。でも屋上の時のような大きな麻袋の人じゃなかったから、私と“まくら”で何とかなったんだぁ」


 「そっか。まあ……、これだけの期間があれば遭遇するわよね。

 でも、まだ二回ってことか……」


 「ふへぇ?」


 私の引っ掛かりをひなたはみ取れていなかった。


 「いやね……私はあの頃、ひなたは極力戦闘を避けた方が良いと思っていたのよ。

 危険なだけだし、私には無いモノを持つひなたには夢を追い求め続けてほしかった。

 応援もしてる」


 「弥兎みうちゃん……」


 「だけど、憑依経験と魔力回収による憑依体の強化を知ってから、考えが変わったわ。

 処刑女も出てきた今、憑依体が初期の状態から成長していないのはかえって命取りになる」


 「しょけいじょ?」


 ひなたは聞きなれない言葉の数々に疑問符を浮かべた。


 「ちょうどいいわ、二人にも話しておく。

 この事態……ドール・ゲームのことを――」




 私とギャル子は、現在判明しているドール・ゲームに関する事を全てひなたとシシ子に伝えた。

 その際、今まで同様この事態に関する用語を共通させ、話が通るようにしておいた。


 「皆様……、そこまでこの事態にお詳しかったのですね」


 「難しい言葉がいっぱいだねぇ」


 「互いの実体験と推測から情報をまとめ上げているだけよ。

 ほんとのことを分かってる契約者なんて、誰も居ないんじゃないかしら……」


 私はペンを強く握る。


 「とにかく、まずは目の前の課題を倒すわ! あんたらも、なんか考えてくれてるみたいだし。

 だけど、いずれひなたのための魔力回収は実行する」


 「はい! お互い力を合わせていきましょう!」




 弥兎みう達の勉強の日々が続く中、花子(はなこ)真奈美(まなみ)も魔力が回復し時間が合えば特訓を続けていた。


 だが、その日は木々が立ち並ぶ公園で一人、花子(はなこ)はゾーンを展開し憑依体となって自分の手を見つめていた。


 (……やはり可能性はなかったのか?)


 「……ふぅ~……」


 花子(はなこ)は拳を構えると、手前の木へ向かって投げやりに殴打を放った。


 (……くそ)


 腰を入れての打撃――。

 だが、次の瞬間轟音が響きわたり花子(はなこ)は思わず目を閉じた。


 「……なんだ? ……っ!?」


 彼女が目を開けると、直線上にあった木々が全てなぎ倒されていたのである。


 花子(はなこ)は殴打を放った自分の手に目をやりながら、声を漏らすのであった。


 「……これは」

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