第3話 戦闘
あんな奴がいれば流石に騒ぎになる、そうでなければ私に霊感が備わったとしか思えない。私は期待と不安を胸に周囲の人へ目をやるが、それは叶わなかった。
この場には私達しかいなかったのだ。
先程まで大勢の人が行きかっていた駅前には人っ子一人見受けられない。
それどころか世界は彩度を落としたように映り、明確に色を持つのはこの場にいる私達だけだった。
「なっ!……」
うまく言葉が出せない。
見慣れた景色は別世界となり、目の前の化け物の存在も相まって、自分の存在すら疑いたくなる。
気付けば私の目の前まで達した化け物は一度静止したかと思うと、勢い良く片腕を振り上げそのままこちらへ目掛けて振り落としてきた。
「ひっ!」
逃げることも出来ず、振り落とされる腕の先端の無数の釘を見やった。
最悪な結末を覚悟したその瞬間、“ロリポップ”が間に入ったかと思えば腕を振り上げ、ヤツの体に三本の深い傷を刻み込んだ。
その衝撃で、現れたであろう場所まで血しぶきを上げながら化け物は吹き飛ばされ、のた打ち回る。
“ロリポップ”を見ると、両腕の先端にはそれぞれ三本の鋭利な鉤爪が生えていた。
今はあれこれ状況を整理する時間も惜しく、コイツに頼るほかない。
起き上がろうとするヤツに身構え、私は無我夢中で命じた。
「……ヤれ! “ロリポップ”!」
ヤツ目掛けて飛び掛かった“ロリポップ”は素早い斬撃を何度も繰り出す。
その攻撃に抵抗することも出来ず、化け物は不快な断末魔を上げながら力尽きた。
するとヤツから青白い発光体が湧き出し、やがて “ロリポップ”へ吸収された。
化け物の体は徐々に黒い靄に包まれ、体だった部分は空中へ塵となって巻き上げられながらゆっくりと消滅していった。
いまだ緊張感が抜けず自然と息が上がる。
何も語らない“ロリポップ”の背中に独り言のように語りかけた。
「アンタ……、何なの」
振り返った“ロリポップ”の口から答えを期待した瞬間、後ろから誰かがぶつかった。見るとサラリーマン風の男が“失礼”と一言残しそのまま通り過ぎる。
それを目で追うと周囲は先程のように人でごった返し、世界は色を取り戻していた。
「何なのよ、いったい……」
無意識にそんな言葉が漏れた。
この日私は、自分の運命を大きく変えてしまったのだ。