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メスガキラー  作者: わっか
レオリィ編

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第79話 ギロチン

 「くっ……!」


 憑依体の腕の伸縮を戻すが、半分から先は綺麗な切断面だけを残してなくなってしまった。


 「……んっ!」


 クマ子が拳を構え“ギロチンの処刑女”へ向かおうとすると、ヤツは高く浮き上がりながら胸下回りのカーテンを閉じて足を内部に引っ込ませる。


  直後に私達の頭上を通過しながら、真っ黒なカーテンの内部からギロチンの刃を空爆のように次々と投下してきた。


 「……けろ!」


 「ちっ!」


 「ひいぃぃ~っ!?」


 頭上に伸びる枝を容易く切断しながら、ギロチンの刃は私達が居た場所へ落とされる。

 刃は先程同様地面に埋没しきっており、切断力の高さがうかがえた。


 上空を通り過ぎ遠のいて行くかに思えたが、“ギロチンの処刑女”は旋回し再びこちらを狙ってきていた。


 「……また来るぞ」


 私は憑依体の左腕に力を込める。


 「動きは特別早くはないわ! 攻撃を見極めれば倒せる!」


 吊り天井戦と違い、体の自由が利くだけで十分に勝機はあったが、直ぐにある考えが頭をよぎった。


 (待てよ……じゃあ、ギロチンをかせるヤツって……)


 答えを導き出した瞬間、森の奥から枝がきしむ音が高速で近づいてくる。


 「っ!?」


 「ナーハハハハハッ!」


 左右の腕にあるかせ付きワイヤーロープを枝へ交互に伸ばし、ターザンのように移動してきた“高笑いの処刑女”は背後の木に止まった。


 「はっ!?」


 その存在に気付いたハム子はヒマワリの種型ナイフをハム蔵の前足と後ろ足、さらに自分の手の先に計六本出現させ、その内二本を“高笑いの処刑女”の顔と胴体へ向けて放つ。


 放たれたナイフに対し、ヤツは人であれば背骨が完全に折れているくらいに体を後ろへ逸らして躱してみせた。


 上体を起こすと腹部がうごめき出し、ゴスロリ服の中から手足を拘束できるくらいの大きさをしたかせ付きワイヤーロープが触手のように三本飛び出してきた。


 「ナーハッハッハッ!」


 その内の一本がこちらへ伸びると、私の首を掴む。


 「うぐっ……!」


 “高笑いの処刑女”は続けて手足にある大きなかせも伸ばし、私の憑依体の腕を拘束することで反撃の手を封じてきた。


 「ナーハハハハハッ!」


 “高笑いの処刑女”が後ろ向きに木から飛び降りると、ヤツが足場にしていた枝にワイヤーロープが(こす)れ、滑車かっしゃの原理で私の体は持ち上げられていく。


 「んぐぅ……! うぅ……!」


 体は高さを増しながら地面を離れていき、首吊り状態となる。

 首とかせの間に指を入れて締まらないようにするが、苦しさは増す一方だった。


 「……真奈美まなみ! ……ギロチンを近づけさせるな!」


 「はっ、はいっ!」


 クマ子は木の根元まで走り、ハム子は上空から迫りくる“ギロチンの処刑女”へ向き直る。


 ハム子が再び二本のナイフを出現させ計六本を構えると、“ギロチンの処刑女”は高度を下げ木々を遮蔽物しゃへいぶつ代わりにした。


 「ご勘弁をっ!」


 六本のナイフが放たれるが“ギロチンの処刑女”が木々の間を左右に移動すると、ナイフは樹木へ突き刺さり阻まれてしまう。


 「御代おかわりっス!」


 さらに六本のナイフを出現させたハム子は、木々の隙間を狙って一本ずつ投げると何本かが命中し、“ギロチンの処刑女”は森の奥へ後退した。


 「遠ざけました!」


 「……いいぞ、真奈美(まなみ)


 クマ子は背中で答えながら木の根元を掴み鋼鉄の指がり込む程力を込めると、メキメキと音を立てながら木を“高笑いの処刑女”の方へ押し倒した。


 「ナーッ!」


 “高笑いの処刑女”は自分に向かってくる木を前に私の拘束を解き、再度ターザンのように移動して森の奥へと姿を消した。


 木が倒れると同時に、私の体は地面に打ち付けられる。


 「……弥兎みう!」


 「ウサさんっ! 平気っスかぁ!?」


 「うえっ! えほぉっ……! うっ……はぁー……、あわや口からトロピカルオーシャンよ……」


 「……大丈夫そうだな」


 周囲を警戒するが、処刑女らは距離を取っているようである。


 落ち着いたところで、私は切断された憑依体の右腕を見つめた。


 「これ元に戻るのかしら……」


 「……憑依体が損傷した場合、時間が経てば再生はしていたが。

 ……それ程の損傷では、最悪そのままという可能性も有りるな」


 (ちくしょう……)


 「皆様ーっ! ご無事ですのぉー?」


 自分の失態を悔やんでいると、遠くの方にシシ子が見えた。


 「あの方を見失ってしまいましたわー! そちらへは――」


 シシ子が声を張っていると、彼女から距離を置いた斜め後方に“高笑いの処刑女”が着地した。


 地面を踏み締める音で、シシ子もヤツの存在に気付く。


 “高笑いの処刑女”は両手の(かせ)をカンカンと鳴らしながら、腹部から伸ばした三本の(かせ)付きワイヤーロープを見せびらかして、シシ子を挑発しているように見えた。


 それを目にしたシシ子は、冷たく言い放つ。


 「そのように無意味に力をひけらかすのは、感心いたしませんわ」


 「ナーハハハハハッ!」


 シシ子の言葉を無視して“高笑いの処刑女”は片手のワイヤーロープを伸ばすと(かせ)は彼女の胴体を捕らえたが、シシ子は落ち着いた様子で話し続ける。


 「父が申しておりましたわ……己を認めていただくためには、初めに個人としての力量を示すこと。

 優れた技術や物に頼るのは、その(あと)であると。

 そうでなければ――」


 彼女は自分へ伸ばされたワイヤーロープを左腕の盾に備わる(たてがみ)の刃に引っ掻けると、“高笑いの処刑女”を見据えて言葉を発した。


 「――慢心していると捉えられますわよ。

 覚えておかれると良いですわ」


 シシ子が軽く(りき)むと(たてがみ)の刃は扇風機の羽のように高速で回り出した。


 刃に引っ掛けているワイヤーロープは巻き取られていき、“高笑いの処刑女”は足の(かせ)で地面を踏ん張るもシシ子へ向かって引きずられていく。


 「ナーッ!」


 その(かん)にシシ子が右腕を軽く振ると、右側のライオン盾がスライドし、手より先の位置へ移動した。

 更に軽く(りき)むことで(たてがみ)の刃は激しい回転音を立てて回り出す。


 「はぁっ!」


 吸い込まれるように急接近してきた“高笑いの処刑女”へ、シシ子は右手の回転刃を押し当てた。


 「ナーハッハッ――アブババッバッババァッ……!」


 胴体と顔が縦に切断されていき、“高笑いの処刑女”は自身の部位を周囲に撒き散らしながらズタズタになっていく。


 刃が貫通したところでシシ子が腕を振り上げると、“高笑いの処刑女”は膝をついて倒れ、動かなくなった体から湧き出した魔力はシシ子へ吸収された。


 「あっ!」


 ヤツの断末魔を聞きつけたのか、シシ子よりもさらに遠くの空に“ギロチンの処刑女”は姿を現した。


 高度を落とした“ギロチンの処刑女”は、木々の間を縫うように移動しながらこちらへ向かってくる。


 「んっ……!」


 私は左腕を、ハム子はナイフを構える中、シシ子はゆっくりと体を向ける。


 左腕を軽く振って盾をスライドさせると、左右の(たてがみ)の刃を高速回転させながら“ギロチンの処刑女”に狙いを定めて両腕を前に突き出した。


 (何をするつもり……?)


 「はあっ!」


 シシ子が掛け声を上げると、両手の回転刃が射出された。


 「なっ!?」


 遮蔽物しゃへいぶつとなっている枝や木を切り落としながら、回転刃は真っすぐ飛んでいき“ギロチンの処刑女”の両肩を直撃する。


 「アアッ……!」


 そのまま木々がさえぎらない上空にまで押し上げると、二枚の回転刃は貫通し“ギロチンの処刑女”の両腕を切断した。


 「サア……」


 “ギロチンの処刑女”は構わず再度こちらへ突っ込んでくる。


 「シシ子っ!?」


 援護が必要と感じ駆け寄ろうとした時、貫通後どこかへ飛んでいったと思われた二枚の(たてがみ)の刃は、高速回転を続けたまま空中に留まっていた。


 すると、回転刃はシシ子の元へ戻るように後ろ向きへ動き出し、彼女との直線上に居る“ギロチンの処刑女”の背中に直撃する。


 「アアァァァ~……!」


 二枚の回転刃は“ギロチンの処刑女”の背中をえぐりながら貫通すると、三つに切断してしまった。


 シシ子は勢いを軽減させるため両腕をL字に曲げると、二枚の回転刃は左右の盾に金属音を立てて戻り回転が止まる。


 直後、三分割にされた“ギロチンの処刑女”がボトボトと地面へ落ちると魔力が湧き出し、シシ子へ吸収された。


 「あぁ……」


 「ひぃぃ~!」


 私とハム子が一連のことに目を奪われているとゾーンが閉じ、皆の憑依は解除される。


 優雅にこちらへ近づくシシ子へ、クマ子は臆せず声を掛けた。


 「……大したものだな」


 「光栄ですわ」


 私達の前まで来たところで、シシ子は胸に手を当てて宣言した。


 「わたくしは、皆様と力を合わせてこの事態を乗り越えていく所存です。

 是非、わたくしもお仲間に加えていただきたいですわ!」


 彼女の言葉を受けて、ハム子は私に耳打ちする。


 「ほらっ……ウサさん。こんな風に迫られたら脅しと同じっス!」


 「別に“従え”なんて言ってないでしょ。あんたはマイナスに捉え過ぎよ」


 (まあ、ハム子の気持ちが分からないでもないが……)


 「取り敢えず、入江に戻りましょう」


 「そう……ですわね」




 「みっ、みんな無事でよかったぁ」


 入江へ戻ると、安堵するらむねと特に心配している様子のないギャル子に出迎えられた。


 私は砂浜を踏み締めながら、自分の考えを整理する。


 (シシ子から敵意は感じない。だけど、仲間を危険にさらす訳にはいかないわ。

 疑念は払拭ふっしょくしておくべきだろう――)


 私はシシ子に向き合うと、自分の中の疑問をぶつけた。


 「シシ子、一つ聞かせて」


 「はい、何ですの?」


 「私達は人混みを避けるために、人気ひとけのないこの場所へ辿り着いたわ。

 そんな契約者が集ったタイミングに合わせて、偶然あんたはやって来たっていうの?」


 「そうなりますわね」


 「話が出来過ぎじゃないかしら……」


 私の問い掛けを聞いて、皆はシシ子の言葉を待った。


 「ですが……皆様がいらっしゃるよりかは、自然なことかと思われますわ」


 「どういう意味よ……」


 私が答えを待つと、彼女は特に動じることなく答えた。


 「ここは獅子上家ししがみけのプライベートビーチですわ」


 「えっ……?」


 「看板をご覧になりませんでしたの?」


 「……折れてたぞ」


 クマ子がぼそりと呟く。


 「まあっ! 先日の台風のせいですわ! 直しませんと」


 「それじゃあ私達は……」


 「……ただの不法侵入だな」


 「ふへへぇ~んっ! 前科一犯だしぃ~!」


 「そもそも、この国ってプライベートビーチ持てるんスか?」


 「……土地だろ」


 「はい。獅子上家ししがみけと申しましても祖父が所有している土地になりますわ。

 祖父母も年ですので、利用頻度が減ってからは定期的にわたくしや父が見回りをしておりますの」


 「ごめんね……シシちゃん」


 ギャル子は申し訳なさそうにびる。


 「そんなっ、皆様をとがめようなんて思っていませんわ!

 それよりも長らくにぎわいを無くしたこの場所で遊んでいただけたことで、入江もきっと喜んでおりますわ」


 「ほんとぉ?」


 「はい。 皆様が来て下さったからこそ、こうしてわたくし達は出会えた。

 わたくしはそれが嬉しいのです!」


 「シシちゃ~んっ!」


 ギャル子はシシ子に抱き着いてから彼女の手を取る。


 「あーしも嬉しいしぃ~!」


 「わたくしも嬉しいですわ!」


 お姉さん組は互いに手を取り合いながら、その場でキャッキャと跳ねていた。


 「……董華とうか、私からも良いか?」


 「はい」


 シシ子は飛び跳ねるのをめて、クマ子へ顔を向ける。


 「……今まで私達以外の契約者、つまり……この力を持った者を見たことがあるか?」


 「それらしい方でしたら……一度だけ」


 「“らしい”って?」


 「ぬいぐるみを連れてはいませんでしたが、あの空間内でわたくしと“キング”を目にされても特に動じる様子は見受けられなかったので……」


 クマ子は少し考えてからシシ子に尋ねる。


 「……どんな奴だった?」


 その問い掛けに、彼女は記憶を辿りながら答えた。


 「眼鏡を掛けた、髪の長い……失礼な方でしたわ」

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