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メスガキラー  作者: わっか
レオリィ編

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第78話 抱擁

 “高笑いの処刑女”が岩壁から飛び降りると海面すれすれのところで浮遊し、こちらへ向けて突っ込んできた。


 伸ばしたワイヤーロープで海面を弾くと、ヤツの姿が見えなくなる程の大きな水しぶきが上がる。


 海水が私達へ降りかかる中、“高笑いの処刑女”が攻撃を仕掛けてくるかに思えたが、ヤツはそのまま頭上を通過し、ギャル子達も無視して森へと飛んでいった。


 「ナーハハハハハッ!」


 「逃がすか!」


 「弥兎みうさん!」


 処刑女を追おうとすると、シシ子が声を上げた。


 「わたくしの評価は如何程いかほどですの?」


 「えっ? まあ……そこそこ動けるのは分かったわ。

 それより、今は――」


 「では、もう仕留めてしまっても構いませんわね?」


 シシ子はそう言葉を漏らすと、後を追って駆け出す。


 「そちらはお任せしますわ! わたくしがあの厄介な方を引き受けます!」


 「ちょっと、シシ子っ!」


 私の静止を聞かず、丘を登った彼女はそのまま森へと姿を消した。


 「……一人では危険だ。まだ処刑女の力を見くびっているのかもしれない」


 「そうね。……っ!?」


 私達の注意がれた隙に、“いかりのアサブクロ”は背後からいかりを飛ばしてきたが、それを躱したクマ子は繋がっているくさりを左手で掴み引っ張った。


 「フヌゥッ……!」


 引き寄せられたことで“いかりのアサブクロ”の体は浮き上がり、クマ子の方へと飛んでいく。


 彼女はタイミングを計りながら、右手で握り拳を作るとゆっくり息を吐き呼吸を整える。


 「……ふぅ~……」


 一方、“三叉さんさのアサブクロ”は私へ向かってきたため、魔力消費で右腕を伸ばし斬撃を食らわした。


 「ケケッ……!」


 対象は切りつけられたことで動きを止めたため、こちらは腰を落としながら伸びた分が戻る勢いを利用し、特殊能力と合わせて一気に腕を縮める。


 「んん~……!」


 クマ子は“いかりのアサブクロ”が目の前に振ってきたところで殴打を、私は腰を回しながら右肩を手前へ流し“三叉さんさのアサブクロ”へ刺打撃を放つ。


 「……ふっ!」


 「ストレートぉぉーっ!」


 「ケェー……!」


 「フヌゥッ……!」


 強烈な炸裂音と共に吹き飛ばされた二体のアサブクロは入江正面の岩壁へ叩きつけられ、壁面を血で染めながら体がおかしな方向へ曲がった。


 剥がれるように力なく落下すると、海水を巻き上げて海へと沈む。


 海中から二つの魔力が湧き出し一つはクマ子へ、もう一つは私に吸収された。


 「行くわよ」


 「……ああ」


 二体のアサブクロを仕留めたところで、私達はシシ子を追うため丘まで上がるが、そこで互いに足を止めた。


 「罠だと分かっているんでしょ、クマ子」


 「……ああ。連中に有利な地形へ誘導されているんだろうな。

 ……だが、董華とうかを放っておく訳にはいかない。それに、この場で処刑女を逃し単独で居る時に襲われる方が遥かに危険だ。

 ……頭数あたまかずが揃っているうちに、ヤツを仕留める」


 「そうね。だけど、誰か一人はらむねを守ってもらうために残ってもらわないと困るわ」


 「……夏樹なつきを残そう」


 「ギャル子、お願いできる?」


 「それは構わないけどぉ」


 ギャル子に目をやっていた私は、ハム子へ視線を移す。


 「これほど入り組んだ地形ならハム子が有利だわ。一緒に来て」


 「……真奈美まなみが?」


 「りょ、了解っス! ハム蔵さん、お願いします!」


 生唾を飲んで一歩前へ出たハム子は、憑依体へと姿を変えた。


 「あーしは、らむちゃんと浜の方に居るね。あそこなら周りを見渡せるしぃ」


 「……頼んだぞ、夏樹なつき


 「みんな、気を付けてね……」


 ギャル子と不安そうならむねに見送られながら、私達三人は森の中へと入って行った――。




  “高笑いの処刑女”が通ったとされるところは不自然に枝が折れていたため、そこを辿って獣道から外れた森の中を進んでいく。


 高く伸びる樹木の枝葉から差し込む木漏れ日が、地面を点々と照らしてはいるが、色を失い木立ちによって薄暗くなった森というのは、実に不気味であった。


 各々、折れた枝や地面の足跡などの痕跡を探しながら歩いている中、私はおもむろに顔を上げた。


 (んっ……?)


 私がちょうど空へ目をやった時である。

 波紋のようなものが広がり、一瞬空間が波打ったように見えたのだ。


 「今の見た?」


 「……何が?」


 「なんか、ふあんっとなったわ」


 「……はあ。実に分かりやすい説明だな」


 クマ子の嫌味を気に留めず、私は再度顔を上げた。


 (気のせいかしら……)


 「……ところで、真奈美まなみが有利とはどういう意味だ?」


 クマ子の問い掛けに、私は得意げに答えてやった。


 「ふん! クマ子、ハム子はもう立派な戦力なのよ! 気色悪い小刻みな移動ができるんだから!」


 「その説明は改めてほしいっス!」


 「……具体的には?」


 「床から出てくる槍を瞬時にけてたのよ。つまり、この入り組んだ森の中で一番機動力があるのはハム子って訳!」


 「……ほう」


 クマ子は目を細めたのちおもむろに枝を拾って左右の手に待つと、唐突にハム子へ向き直ったため、彼女もクマ子に目をやった。


 すると、クマ子は手に持った枝を鋼鉄の指で弾き、タイミングをずらしてハム子へ向けて飛ばした。


 「ひゃあっ!?」


 ビクつくポーズを取ったハム子は、くるりと急激な方向転換をして飛んできた枝を全て躱す。


 「何するんスかぁ!?」


 「……すまない。だが、どうやら真奈美まなみの憑依体は反射神経にひいでているようだな。

 ……真奈美まなみ、あれを見てみろ」


 クマ子は森の奥を指差す。


 「はい?」


 ハム子が示された先へ目を向けていると、その隙にクマ子がそっと枝を取り、また彼女へ向けて弾き飛ばした。


 「ひぃ~!?」


 クマ子がほとんど視界に入っていないにも拘わらず、ハム子はまたしてもくるりと向きを変えて移動し枝をける。


 「……やはりな。真奈美まなみの場合、憑依体本来の能力に加え、他者よりも同調率が優れていることで契約者が認知していないものまで反応できるようだ」


 「どういうことっスか……」


 ハム子は、また投げてこないかとクマ子を警戒しながら問い掛けた。


 「……お前以外にも周囲に目をやっている者がいる。

 ……ハム蔵だ」


 「ああ……」


 「……真奈美まなみに限っては憑依中もキラー・スタッフト・トイが活動できるからこそ、ハム蔵が気づいていれば、契約者を守るためにお前の指示を待たずして体を動かしているのかもしれない」


 「ハム蔵さんが……?」


 (たしかに……初めてアサブクロやハム子とやり合った際、“ロリポップ”は率先して私を守ろうとしていた)


 「コイツらに取って契約者は、死守しなければならない対象ってことよね?」


 「……そのようだな」


 皆が考えを整理している中、私は改めて根本的な疑問を投げ掛ける。


 「そもそも、コイツらってなんなの?」


 「……それも探している答えの一つだ」


 「ハム蔵さん達、せめてお話し出来たらいいんスけどね……」


 軽く咳払いをしてから、クマ子は声を上げる。


 「……話を戻そう。

 ……要するに真奈美まなみの憑依体は接近物に対しての回避性能が高いということだ。

 ……そして、お前が無意識に回避行動を取った時は認知外から何かが迫ってきていることになる。

 ……それに私達が気づければ、僅かな差ではあるが一瞬早く避けることが出来るだろう」


 「危険探知機って訳ね。よしハム子っ! 先頭は任せた!」


 「おとりじゃないっスかぁ!?」


 「それがあんたにしか出来ない事なんだから、仕様が無いでしょ?」


 ハム子が渋々先頭に立つと、私達の居る地面の木漏れ日が前から順に消え、再度現れる。

 まるで何かが上を通過したみたいに。


 直後、ハム子は急に方向転換をしてその場から動いた。


 「っ!?」


 「……!」


 それを目にした私とクマ子は咄嗟に真横へ跳ぶと、今しがた私達が居た場所へ横に長い刃物が三枚落下してきた。


 時間差で落ちてきた枝は綺麗な切断面をしており、刃物は完全に地面へ埋没しきっている。

 異常に重たいというよりも、切れ味が凄まじいようだ。


 頭上を通過したモノが落としたに違いない。


 ソイツが移動したとされる場所へ視線を移すと、少し離れた後方で高く伸びる草木の中から気配を感じた。


 「はっ!?」


 そこには、服がはち切れそうなほど豊満なバストをした上半身を晒してこちらを伺う処刑女の姿があった。


 ゴスロリ服を思わせるフリル付きの喪服姿で、頭には葬儀で着用する黒い花飾りとベールが付いた真っ黒な帽子を被っている。


 両サイドから垂らした髪を耳より下で筒状の大きなカールにしており、タレ目の中には真っ白な瞳、口を僅かに開けて微笑んでいた。


 だが、顔を上げてヤツを観察することで気付いたことがある――デカいのだ。


 草木で隠れたところに下半身があるとしたら、胸から下だけでも二メートルはあるだろう。


 「っ!?」


 こちらが警戒していると、その処刑女は草木を掻き分けながら手前に平行移動をして、全容を明らかにした。


 胸から下にはフラフープのような丸いカーテンレールがあり、そこから体を隠すようにくるぶしまでカーテンが垂れていた。


 その様は、まるで試着室であり、カーテンの下から見える足を綺麗に揃えて立っていた。


 すると、処刑女は手のひらを広げて両腕を突き出し、抱擁ほうようを求めるポースを取って、冷たくも穏やかな声色で言葉を発してきた。


 「サア……」


 (アンタとのハグなんてごめんよ!)


 私は腰を落として肩から生えた憑依体の右腕を縮める。


 (吊り天井戦のようにはならない! 後手に回る前に仕留める!)


 「ストレートぉぉ-っ!」


 右肩を手前へ流し、刺打撃を放った瞬間――。


 “抱擁ほうようの処刑女”の足首から先は左右にスライドし、肩幅より広い位置で止まった。


 同時に体を覆うカーテンが開かれ、私の腕はヤツの体を貫く。

 だが、モノが振れた感触はない。


 「っ!?」


 ヤツの胸から下は、斬首刑で用いられる断頭台になっていたのだ。


 断頭台を支える二本の柱の先が“抱擁ほうようの処刑女”の足になっており、柱の間には吊るされた斜めがあった。


 「こいつは――、ギロチン!」


 私の腕が断頭台の間へ伸びる中、ギロチンの刃がギラリと光る。


 「しまった!?」


 気付いた時には既に遅く、ギロチンの刃が勢いよく落ちると私の憑依体の右腕は切断された。

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