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メスガキラー  作者: わっか
レオリィ編

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第77話 高笑い

 シシ子が頭に被ったライオン型のキラー・スタッフト・トイの頭部には、百獣の王を象徴する勇ましいたてがみがなびいていた。


 また、全身のぬいぐるみのような部位には、あちこちにたてがみと同じ毛が装飾されている。


 それが目立つのは首元から肩に掛けてと、南国のダンス衣装のように腰回りを覆っているところだろう。


 だが、最も特徴的なのは両腕側面に装備しているライオンの顔を模した白く丸い盾だ。


 ラウンドシールドのように丸い真っ白な盾には、金持ちの浴槽にあるような口から湯を垂れ流す牙をき出しにしたライオンの顔、それが威嚇をしているリアルな表情で装飾されていた。

 そして盾の回りにはサメの背びれのような形をしたがぐるりと計十六枚連なり、ライオンのたてがみを表現している。


 憑依体の前腕部側面を覆う同じく白く平たいパーツの上に、ひじ付近を中心としてその盾が備わっているのだ。


 一見ギャル子と同じ防御型を思わせるが、無数の鋭利な刃が連なった盾を見ると獅子の雄々(おお)しい姿と相まって、攻撃型を思わせた。


 「フヌウゥゥ……」


 「ケケケケ……」


 そんなシシ子と相対する二体のアサブクロ――。


 一体は胸を張っている、筋肉質で背の高い男型のアサブクロだ。


 麻袋で覆われた右腕の先端からは太いくさりが伸び、それが異様に太く長い左腕に巻き付いている。

 くさりの先端には船のシンボルに用いられそうな典型的な形をしたいかりが付いていた。


 もう一体のアサブクロは、足先から腰までを覆う大きな麻袋を履き、脚回りを縄で縛られているため実質一本足の状態である。


 前のめりの姿勢で両腕を手前へ突き出し、先端が三つに分かれた槍が両腕の先で貫通していた。


 三叉さんさの槍の先端を地面に突き刺し、縛られた両足と合わせて三点立ちをしている。



 ギャル子とハム子はビーチベッド側へ下がり、入れ違いにシシ子は平均台の上を歩くが如く真っすぐアサブクロへ向かっていった。


 入江の水辺を前進しながら“いかりのアサブクロ”は太い左腕を小さくぐるぐると回し、先端のいかりは激しく回転する。

 そのまま勢いをつけて左腕を振ると、いかりはシシ子目掛けて飛んでいき、巻き付いていたくさりほどけていく。


 「んっ……!」


 シシ子は左腕にあるライオンの盾を構える。


 「はぁっ!」


 いかりが接近したタイミングに合わせて腕を振ることで、重量のあるいかりは重低音を響かせながら弾き返された。


 いかりが浜辺に突き刺さると、“いかりのアサブクロ”は左腕を回し、くさりを巻き取っていく。


 そのかんに“三叉さんさのアサブクロ”は、左右の脇に松葉杖まつばづえをはさんで使用しているような三点移動で、“いかりのアサブクロ”よりも素早く移動してきた。


 今度は右腕にあるライオンの盾を構えたシシ子の目の前で、“三叉さんさのアサブクロ”は縛られた足で直立し、両腕の三叉さんさの槍を振り上げたが、透かさず彼女はヤツのふところへ入る。


 「はぁーっ!」


 「ケケッ……!」


 砂浜を蹴り上げ後方に砂を巻き上げながら、シシ子は体当たりをかます。


 その衝撃で、“三叉さんさのアサブクロ”は体を浮かせて押し返され、砂浜に背中を打ち付けた。


 一方、左腕にくさりを巻き終えた“いかりのアサブクロ”は水辺から上がり、シシ子の近くまで到達していた。


 再度ヤツと向き合い身構えるシシ子。

 だが、その安定した戦いぶりからもはや勝利は目前に思えた。


 「潮時ですわ!」


 シシ子が両腕を軽く振ると、ひじの側面辺りにあったライオンの盾は白く平たいパーツの上をスライドし、盾が前まで来たところでさらに平たいパーツが引き出して伸び、手から数十センチ先の位置に固定された。


 防具のていをなしていた盾は、武器へと役割を変えたのだ。


 「はあっ!」


 シシ子が右腕を左下から右上へ向けて振り上げると、盾に備わる無数の刃が“いかりのアサブクロ”の上半身の肉をえぐりながら切り開き、肉片と血飛沫ちしぶきが舞う。


 「フヌウゥゥ……!」


 “いかりのアサブクロ”が体をのけ反らし隙が出来たところで、シシ子は左腕を構え、最後の一撃を仕掛けようとした。


 「これで――」


 直後――、シシ子の足元の砂から二本の足枷あしかせが飛び出し、彼女の足を拘束した。


 (っ!?)


 「何事ですの!?」


 間髪入れずにシシ子の後ろの砂の中からさらに二本のかせが飛び出し、彼女の左右の腕を拘束する。


 鋼鉄製と思われるかせには半円状の分厚い二つの板に切り込みがあり、開いている時はアルファベットのCの字をしている。


 それに金属の束をねじり合わせたワイヤーロープが付けられ、砂の中から伸びているのだ。


 「シシ子っ!」


 一瞬の閃光を走らせ咄嗟に憑依した私は、肩から生えた憑依体の腕を伸ばし、かせが伸びている彼女の背面の砂浜へ鉤爪かぎづめを突き立てた。


 私の攻撃を受けて四本のかせは拘束を解き、砂の中へ引っ込む。


 のけ反っていた“いかりのアサブクロ”が体勢を戻そうとし、“三叉さんさのアサブクロ”が起き上がろうとしているのを見て、シシ子は一端後退した。


 跳んだ私は彼女の隣へ着地し、共に地中を警戒しているとシシ子は言葉を発す。


 「お手数をお掛けしますわ」


 「何なの……? さっきのは」


 すると、正面の砂浜から四本のかせが飛び出す。


 「くっ!」


 シシ子は盾で、私は鉤爪かぎづめで弾き返した。


 再び地面へ引っ込むと砂浜の一部が盛り上がり、右側の岩壁へ移動していく。


 「デカいミミズでも居るっていうの?」


 岩壁の真下へ来たと同時に、地中からは何かが勢いよく飛び出し高い砂煙が立つ。


 「ナーハハハハハッ!」


 体を激しく回転させ全身の砂が払われると、ソイツの正体が明らかとなった。


 「なっ!?」


 岩壁の上に着地し、私達を見下ろしていたのは処刑女であった。


 後頭部から頭頂部を覆い、上向きになった大きなつばと側面から垂れたリボンを顎下で結んだ、いわゆるボンネット帽子を被っている。


 ゴスロリ服をまとったソイツの体型は、“微笑みの処刑女”と似ていて細身の少女の姿をしていた。


 袖の先には手の代わりに胴体を掴めるくらいのかせが付いており、カンカンと音を立てながら開閉を繰り返している。


 両足も足首から先がかせとなり、限界まで開いた状態で直立していた。


 “微笑みの処刑女”のような真っ白な肌で、瞳が見えないほど目を細めている。

 大口を開いた表情のまま、くるりとした巻き髪をなびかせ、愉快そうに高笑いをしていた。


 「ナーハハハハハッ!」


 「処刑女だ……!」


 「……“まるこげ”っ!」


 処刑女の出現によって警戒態勢を強めたクマ子は、一瞬の閃光と共に憑依体へと姿を変える。


 私は振り返って残りのメンバーに指示を出した。


 「ギャル子っ! ハム子っ! らむねに付いて!」


 「うっ、うん! らむちゃん、こっち!」


 ギャル子とハム子に連れられ、らむねは丘の端へと退避した。


 「……夏樹なつき、周囲への警戒を怠るな」


 「任せて、クマちゃん!」


 クマ子までもが憑依したことで、シシ子は私達へ声を上げた。


 「お二人共、これ以上の助力は不要ですわ! わたくしは皆様にお認めいただきたいのです!」


 「後にして、シシ子。

 処刑女はアサブクロと違って、即死攻撃を持っている場合がある。

 僅かな油断が命取りになるわ」


 「……それに、もう一体が何処かに潜んでいるはずだ。

 ……ヤツが危うくなれば早々に姿を現すだろう」


 「そうなんですの?」


 “高笑いの処刑女”に目をやりつつ、周囲に気を配るシシ子。

 どうやら処刑女を目にするのは初めてのようだ。


 話していると、“高笑いの処刑女”は岩壁から飛び降り着地するかに思えたが、砂浜すれすれのところで浮遊し、手足のかせと共にワイヤーロープを伸ばす。

 触手のように四本のワイヤーロープをうねらせる様は、まるでタコのようだ。


 前方へ向けてむちのように激しくしならせると、たちまち“高笑いの処刑女”の周りを砂埃すなぼこりが舞う。


 高速でワイヤーロープを動かすことで、本体が見えなくなる程の砂塵さじんが発生した。


 「くそっ!」


 目を細めながら何とか見失わないようにしていると、砂塵さじんはこちらへ向かってくる。


 「ぬうっ!」


 私は憑依体の腕を素早く動かし、砂塵さじんへ向けて斬撃を放つ。

 しかし、振り乱しているワイヤーロープを切断することは出来ず、弾かれてしまった。


 「こちらは如何いかがですの!」


 シシ子は先端へ伸ばした両腕のライオンの盾を、迫りくる砂塵さじんに振るった。

 “高笑いの処刑女”はそれを受け止めることはせず上へ跳ぶと、上空から閉じた手足のかせでこちらを殴りつけてきた。


 「っ!?」


 シシ子が再び両腕を軽く振ると盾は元の位置まで戻り、それを上へ向けて構えることで防御の態勢へ移る。


 私は自身の跳躍力を生かして、横へ跳んで退避した。


 “高笑いの処刑女”は浮遊したまま、シシ子への攻撃を止めない。


 「んっ? あれ? クマ子は?」


 私が振り返ると、クマ子は既に入江の中心から離れており、左側の岩壁近くにある岩を掴んでいた。


 「……」


 真顔のまま力を込めると、岩を無理やり二つに割る。


 「えっ……? クマさん賢いのに馬鹿力ばかぢから過ぎませんか?」


 それを目にしたハム子は、驚きの声を漏らす。


 「クマちゃん、あれがデフォだしぃ~!」


 「……ふんっ!」


 外野の声を無視して、クマ子は二つの岩を浮遊している“高笑いの処刑女”へ向けて投げ飛ばした。


 「ナーハッハッハッ!」


 攻撃を止めた“高笑いの処刑女”は、上空で後退しながら手足のかせを勢いよく砂浜に埋め込み、ワイヤーロープを袖の内部へ引き戻すことで急降下して岩を避ける。


 すぐさま浜から手足を引き抜くとこちらを向いたまま虫のように壁を張って岩壁の上まで登っていった。


 「ナーハハハハハッ!」


 こちらをおちょくるように岩壁の上をスキップして、入江の正面まで移動し距離を取られる。


 「無駄に手こずらせてくれるわね……」


 三体のキラードールと三体の憑依体が対峙する中、未だにもう一体の処刑女は姿を見せずにいるのであった。

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