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メスガキラー  作者: わっか
レオリィ編

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第76話 獅子

 突如私達の前に現れた人物は、背丈せたけと歳がギャル子と同じか上くらいに見えた。


 小顔な彼女の頭の左右にはリボンがあり、波打つようなクリーム色の長い髪はスラッとした長い脚の膝裏まであるスーパーロングだ。


 純白のワンピースを着こなし、気品ある立ち振る舞いは優雅さをかもし出している。


 入江の丘で長い髪をなびかせる様は、絵本の世界から飛び出してきたような典型的なお嬢様といった感じであった。


 隣に並び立つライオン型のキラー・スタッフト・トイは、猫背のまま後ろ足で直立した姿勢を取る。

 前足は胸の前でだらんと垂らし、歯をむき出しにしながらこちらをじっと見つめていた。


 「……? あら?」


 入江全体へ目を通していたライオンの契約者は、ハム子の存在に気が付くと声を上げる。


 「まあっ! あなたはっ!」


 (はっ……!)


 彼女に関する事が頭をよぎった――。


 「(全員ライオンの契約者には十分注意をすることだ――)」


 「(その方態度を一変いっぺんさせて自分に襲い掛かって来まして――)」


 私が思い返していると既にライオンの契約者は駆け出し、ハム子に接近しようとしていた。


 「しまった……! っ!?」


 だが、ライオン型のドールはその場に突っ立ったまま動こうとしない。


 私の横を通り過ぎると、彼女はハム子の両手を自分の両手で包む様に握り胸の高さまで上げ、二人して祈っているようなポーズとなる。


 そのままハム子に、顔をぐいと近づけると声を掛けた。


 「ようやくお会いできましたわ! わたくし、あれからずっと……あなたを探しておりましたの!」


 「ひいいぃぃ~っ!」


 気分が高揚しているライオンの契約者の勢いに押され、ハム子は情けない声を上げる。


 「わたくしは先日のご無礼をお詫びしたかったのですわ。

 失礼ですが、お名前は何とおっしゃいますの?」


 「こっ、公星こうぼし 真奈美まなみっス~!」


 ハム子は何とか握られた手を振りほどこうとするが、ライオンの契約者はさらに強く握り返す。


 「真奈美まなみさんっ! 真奈美まなみさんとお呼びしてもよろしくて?

 先日は大変失礼をいたしましたわ!

 わたくしは獅子上ししがみ 董華とうか、以後、お見知り置きを」


 「さっき聞いたっス!」


 「お詫びにわたくしが出来る事であれば、何でも致しますわ! 何なりとおっしゃって下さいまし!」


 「がっついてきて怖いっス! 肉食系っス!」


 ハム子は周囲に目配せしながら助けを求める。


 「皆さんっ! 何してるんスか! お仲間がピンチっスよ!」


 私はビーチベッドから立ち上がったクマ子と顔を見合わせてから、声を掛ける。


 「ちょっと……、シシ子」


 シシ子はハム子の手を握り締めたまま、きょとんとした様子で私の方へ顔を向ける。


 「シシ……? わたくしのことですの?」


 しまった――。

 私は悪意のある人間に対しては敏感な方だ。それで言うとシシ子からは敵意を感じず、他の者達と同様の呼び方をしてしまったのだ。


 「それは……もしや……、あだ名ですの?」


 「えっ? ええ、まぁ……」


 「まあっ!」


 ぱあっと表情を明るくすると、シシ子は握っていた手を離して私の方へ駆け出した。


 近づかれた途端、彼女からはフワッと良い匂いがする。

 目の前まで来たところで私の両手を自分の両手で包む様に握ると胸の高さまで上げ、互いの鼻先がくっつきそうになるくらい顔をぐいと近づけてきた。


 (近い……)


 「嬉しいですわ! そのようにお呼びいただけるなんて! わたくしは既に、皆様に受け入れられつつありますの?

 お名前を伺ってもよろしくて?」


 「東林とうばやし 弥兎みう……」


 「弥兎みうさんっ! 素敵なお名前ですわ!」


 間近で話されるとシシ子の無駄に良い匂いが鼻をくすぐった。


 「シシ子、ハム子は……あぁー……つまり、あいつはあんたに襲われたって言っていたけど?」


 私の両手を握り締めたまま、シシ子は申し訳なさそうな顔で話し出す。


 「弁解の余地もございませんわ……。そのように捉えられても仕方がない程に、不快な思いをさせてしまったのですから……」


 「ウサさんっ! その方、危ないっスよ!」


 「はっ! そうでしたわっ!」


 ハム子の声が耳に入るとシシ子は私の手を放し、再びハム子の元へ駆け寄り両手を包む様に握り締めた。


 「まだ真奈美まなみさんの御要望をお聞きしておりませんでしたわ! わたくしにさせたい事、何なりとおっしゃってくださいまし!」


 「ひいぃぃ~っ! 手を放してほしいっス!」


 「その程度ではわたくしの気が収まりませんわっ!」


 「ちょっとシシ子、何があったか話してもらえる?」


 シシ子はハム子の両手を握り締めたまま、こちらへ顔だけ向けて答えた。


 「はい……。わたくしはおのれの身に起きたこの不可思議な事態の解決には、他者との協力が不可欠と考えておりますわ。

 それ故、共に手を取り合える方を探しておりましたの。


 そんなある日――、麻袋を被った怪物に襲われている真奈美まなみさんを発見したわたくしは、お助けしたのち、協力を申し出ましたわ。しかし、真奈美まなみさんには激しくお断りをされてしまいました……。


 以前、“わたくしにはどなたも付いて来てはくださらない”むねの事を言われ、気に留めないようにしながらも、その事がずっと胸の奥に引っ掛かっておりましたの。

 そして、真奈美まなみさんからの拒絶で自分の何がそれ程までにいけないのか、分からなくなってしまいましたわ。


 おのれの不甲斐なさはやがていきどおりへと変わり、わたくしは攻撃を放ってしまいました。

 それは有ろう事か……、真奈美まなみさんのお顔すれすれを通り、これはわたくしが真奈美まなみさんを敵視したと捉えられても仕方のないことでしたわ。


 その事実に気付いた時にはすでに手遅れでした……。真奈美まなみさんは非常に怯え、わたくしの前から去って行ってしまわれましたわ。


 わたくしは当然、真奈美まなみさんを傷つけるつもりなど微塵もございませんでした。

 激しい後悔の中、せめてお詫びだけでもと、ずっと彼女を探しておりましたの……」


 「なるほどね……」


 「ちょおっ! ウサさんっ!? 自分より会ったばかりのこのお姉さんの方を信用するんスか!? それってショックっス!」


 「別にそんなんじゃないわよ」


 実際、ハム子を信用していない訳ではない。だが、私の時も殺されるだの何だのと聞く耳を持たなかった。

 彼女は物事をマイナスに捉える傾向があるのだ。


 「あーしはもち、ウェルカムだよっ! シシちゃんっ!」


 「まあっ!」


 シシ子は歓喜の声を上げると、ギャル子の元へ行き両手を包む様に握るとぐいと顔を近づける。


 「嬉しいですわ!」


 「あーしも仲間が増えて嬉しいしぃ~!」


 自己紹介を済ますと、お姉さん組は無邪気にキャッキャと飛び跳ねていた。


 私はシシ子から目を離さずに、隣へ来たクマ子へ話し掛けた。


 「どう思う? クマ子」


 「……現段階で信用できるかはさて置き、敵対しないのであれば、それに越したことはない。

 ……契約者とやり合うことがどういう事か、お前も良く分かっているだろう」


 「ん……」


 ビーチベッドの脇で戸惑っているらむねへ目をやる。


 「そうね……」


 視線をシシ子へ戻すと、彼女は寂しそうな顔をしてこちらへ愛想笑いを浮かべていた。


 (あれ? 聞こえてた?)


 私の心を読んだかのように、シシ子は声を漏らす。


 「お会いしたばかりですもの、それは仕方のないことですわ……。だからこそ、わたくしは――」


 次の瞬間――、世界は色を無くした。


 「っ!?」


 一瞬、シシ子がゾーンを展開したのかと思ったが、彼女もまた周囲を警戒している。


 「みんな、あそこっ!」


 真っ先に気付いたギャル子が指し示す場所を見ると、入江正面の岩壁、大海原が臨める大穴の前には二体のアサブクロが水をしたたらせながら、海面から起き上がってきているところだった。


 「東林とうばやしさん……、熊見くまみさん……」


 「はっ……!?」


 声のする方へ目をやると、怯えた様子のらむねが居た。


 (ゾーンに引き込まれている……!)


 私はクマ子と顔を見合わせたが、先に目の前の事態に対処しなければならない。


 「まずはアイツらを片付けるわよっ!」


 「……ああ」


 この面子であれば、アサブクロ程度ならどうという事はない。


 「お待ちくださいっ!」


 シシ子は私達を制するように声を上げた。


 「ここはわたくしにお任せくださいまし!

 父が申しておりましたわ。“他者の信用を得るには言葉のみならず、行動も伴わなければならない”と。

 わたくしはおのれの行動を持って、皆様からの信用を勝ち得てみせますわ!」


 一歩前へ出たシシ子は腰に手をやると、もう片方の手を真横へ大きく動かし、自分の髪をなびかせた。


 「参りますわよ! “キング”っ!」


 “キング”と呼ばれるキラー・スタッフト・トイがシシ子の隣へ駆け寄ると、一瞬の閃光が走り憑依体へと姿を変える。


 「皆様、お覚悟くださいまし。これより先は――」


 閃光が晴れると、シシ子は二体のアサブクロを指しながら言い放つのだった。


 「はしたないですわよ!」

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