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メスガキラー  作者: わっか
レオリィ編

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第74話 穴場

 クマ子はビーチバッグの中から平たくなっている浮き輪を取り出す。


 「何よ、クマ子。泳げないの?」


 「……私はただよっていたいだけだ」


 そう言いながら空気穴をさぐっている。


 「貸してみなさい」


 私はクマ子から浮き輪を引っ手繰たくった。


 「……おい」


 「膨らませてあげるわよ。あんたがやっていたら日が暮れるでしょ」


 「……必要ない。返せ」


 「遠慮することないわ。……ふうぅ~っ!」


 私は目一杯空気を吸い込むと浮き輪の中へ吹き込んだ。


 (あれ?)


 だが、思いのほか膨らまないのである。


 「ふうぅ~っ!」


 絶えず空気を送り続けるが、ほとんど膨らまず酸欠になりそうになる。


 「はぁー……はぁー……、中々手強いわね」


 「……もういい、返せ」


 浮き輪如きに負けじと息を整えていたが、今度はクマ子が浮き輪を引っ手繰たくった。


 「あんたじゃ無理でしょ」


 私が忠告するとクマ子はビーチバッグからスプレー缶のような物を取り出し、ノズルを空気穴に差し込む。

 天面の突起を押し込むと音を立てながら空気が送り込まれ、浮き輪は一瞬で膨らんだ。


 「そんなのあるなら初めから言いなさいよ」


 「……だから必要ないと言っただろ」


 浮き輪の張りを確かめているクマ子の傍から立ち上がると、私は海を眺めた。


 「ん?」


 見渡していると、水平線に映るものが気に掛かる。


 「ねえ、クマ子。あれ何?」


 「……島だろ」


 「それは分かるわよ」


 「……はあ」


 クマ子はやれやれといった様子でスマートフォンを手に取ると調べ始めた。


 「……あれは、籠鳥島かごとりとうだな。

 ……“人口およそ2000人が暮らす、漁業と観光が盛んな離島。

 ……地元の新鮮な魚介類を食すことができ、島が生み出した豊かな自然はパワースポットとしても人気。

 ……また島の神社にまつわる伝統的な催事は、観光の一つとして地元では有名である。“だそうだ」


 クマ子が島の情報を読み上げると、私は両手を日除けとして眉の上にかざし、目を細めて島を見やる。


 「へえ、人が住んでるんだ。

 ん~……あー……たしかに、漁港っぽいのが見える」


 「後で行ってみる?」


 体育座りをしながら、らむねも島を眺めていた。


 「いえ、またの機会にしましょう。時間のない時に行ってもろくに楽しめないわ」


 (金も掛かるし……)


 そのままスマートフォンをチェックしていたクマ子はメッセージに気付く。


 「……夏樹(なつき)真奈美(まなみ)がもうじき着くそうだ」




 連絡を受けてから、数十分後――。


 「お待たぁ~」


 ギャル子は水着に羽織物をした状態で現れた。

 だが、隣には顔立ちの整った見なれない女が同様の格好で付いてきているのである。


 私はその人物についてギャル子へ尋ねた。


 「誰、そいつ?」


 それを聞くと女はビクつくポーズを取って反応を示す。


 「ちょお!? ウサさん!? そういういじりは良くないと思うっス!」


 その声と仕草で気付いた。


 「何だ、ハム子か」


 彼女は髪を下ろしているせいで、誰だか分からなかったのだ。


 「違うわ、ハム子。いつものヘンテコな髪型じゃないから気付かなかっただけよ」


 「えぇっ!? あれ可愛く無いんスかぁ!?」


 「ギャグでしょ?」


 「あんまりっス!」


 私はハム子の肩に手を回しながら言葉を掛ける。


 「冗談よ。あんたは私の命救ってんだから、もっと自信持ちなさいよ」


 「む~!」


 ハム子は頬を膨らませていじけてしまった。


 「犰狳雌きゅうよめさん達は、どこかで着替えたんですか?」


 「ん? あっちに更衣室あったよ」


 二人の何気ない会話を耳にして、ハム子はらむねの存在に気付いた。


 「あっ、どっ、ども……」


 「こっ、こんにちは」


 気まずそうにしながら互いに自己紹介を済ませる。

 初対面なら誰かさんを除き、このくらいの距離感が普通だろう。


 「んん~っ! 海があーしを呼んでるしぃ~!」


 海と向き合い羽織物を脱いだギャル子にならって、ハム子も水着だけになる。


 「っ!?」


 私は予想外の物を前に目を奪われた。

 ギャル子は普段の服装から体つきが良いのは分かっていたが、問題はハム子だ。

 スタイルが良いのだ。


 彼女が身に着けるギャル子にプレゼントされた水着には、窮屈そうに胸が収まっている。


 「ちょっと、ハム子っ! どういうつもり!」


 「何がっスかぁ!?」


 私が彼女の胸元を指摘すると、ハム子は自分の胸と私の胸を交互に見比べる。

 誰の目にも私が劣っているのは明らかであった。


 「あの~、気にされることないっスよ、ウサさん。人の良し悪しはそんなものでは決まらないっス!」


 「むっ……!」


 勝手に同情されたのが気に食わなかった。

 私は生まれてこの方、自分の体つきを卑下ひげしたことなど一度もないのだから。


 右手を振り上げると、勢いよくハム子の胸をペチンとはたいた。


 「あいたっ!?」


 はたかれた胸は受けた衝撃を逃がそうとするが、水着に囚われ行き場を無くし激しく揺れる。


 「ちょおっ!? ウサさんっ! おっぱいいたわってほしいっス!」


 「うるさいっ!」


 「もお~! みんな泳がないの~! 早く遊ぼうよう~!」


 足踏みをしてもどかしくしていたギャル子は、片腕をピンとかかげると宣言した。


 「おーしっ! じゃあ、あーしと競争したい人~!」


 「……私は浅瀬で漂っているさ」


 「私も泳ぐのはいいわ」


 「私、人に酔っちゃったから……。ここで荷物番してるよ」


 「ええ~……、もうー、それじゃあ行こっかぁ、ハムちゃん……」


 「自分っスかあ!? りょっ、了解っス」


 ギャル子に手を引かれながら二人は海へと向かっていくのであった――。




 ギャル子とハム子は、遊泳可能エリアの沖にある浮島まで行き浜へ戻る競争を始める。


 私は浅瀬で、浮き輪の空洞に腰を落とし足を出したまま優雅に漂うクマ子がひっくり返らないように傍に付いていた。


 気分が良くなったらむねが合流してくると、しばし三人で潮の香りと等間隔に訪れる波のせせらぎ、サンダルの隙間へ流れる砂の感触を堪能しながら、穏やかな時を過ごした。




 「ばあっ! あーしの勝利だしぃ~っ!」


 「へぁー……へぁー……、全く追いつけなかったっス……」


 私達の前でギャル子が浮上すると、奥からはハム子が続く。

 戻りが遅いと思っていたが、二回も勝負していたとのことだ。


 「何だか随分と混んできたわね」


 昼になると浜辺は人でごった返し、このままでは芋洗い状態になる勢いである。


 「……今日は天気も気温もちょうど良いからな。利用者も多いのだろう」


 「うん! ほんと、気持ちいいよねぇ~!」


 ウキウキのギャル子に反し、私は人の多さにうんざりしていた。


 「もっと静かなとこないの?」


 「うん、わっ、私も……。あんまり人が多いのは苦手かな」


 「では、場所移動でもしましょうか?」


 「……どこも似たようなものだろう」


 私は辺りを見回す。


 「……、あそこは?」


 皆は私の視線の先へ顔を向けた。


 海水浴場の端に見えるテトラポット。その奥にはコンクリートで出来た絶壁の上を道路が走っている。

 海岸沿いを走る道路の先には部分的に森林が臨め、そこに隣接するように海側には巨大な岩々が確認できた。


 「あの裏とか降りられたりしないの?」


 「……行ってみなければ何とも言えんな」


 「せっかくだから、行ってみようよ! 行き当たりばったりなのも旅の醍醐味だいごみだしぃ~!」


 ギャル子はビーチバッグから、ぺたんこになったバッグを取り出す。


 「あーし保冷バッグ持ってきてるから、ここでお昼買って向こうで食べようよ!」


 「そっ、それ、良いと思います」


 「それじゃあ、あーし買ってくるね」


 「自分もお手伝いするっス!」


 「私も行く」


 「……私達は片付けをするか」


 「そうだね」


 全員の欲しい物を確認してから、私とハム子とギャル子の三人で昼ご飯を求めて海の家へと向かった。


 昼時というのもあって、そこそこの行列ができている。


 「あーし並んでるから、ウサちゃん達飲み物買ってていいよ」


 「それじゃ、行きましょ」


 「はい」


 自販機で人数分の飲み物を選んでいたが、ハム子は自分用の飲み物を二本も買っていた。


 「随分飲むのね、あんた」


 「ご当地限定も買ったんスよ。これは帰ってからのお楽しみにするっス!」


 「どんなの?」


 ハム子は限定品を私に見せつけてくる。


 「トロピカルオーシャン味っ! これは絶対美味しいっスよ!」


 「結局何味なのよ……」


 ハム子が購入物を保冷バッグに入れている後ろで、注文を済ませ出来上がりを待っているギャル子が目に留まった。


 「私はもうちょっと選んでたいから、ハム子はギャル子の方をお願い」


 「では、お願いします」


 ハム子から保冷バッグを受け取ると、彼女はギャル子の元へと向かった。


 「んー……」


 私はある事を思い付き、ハム子と同じ限定品を購入する。




 「お待たぁ~」


 昼ご飯を調達して戻ってくると、既にクマ子達は片づけを終えていた。


 「それじゃあ、穴場スポット目指して……出発だしぃ~!」


 人の居ない静かな場所を求めて、私達は移動を開始するのであった。

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