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メスガキラー  作者: わっか
吊り天井編

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第69話 貴婦人

 「……、はっ――!」


 私は危機とした状況であることに気付き、すぐさまハム子へ声を掛けた。


 「ハム子っ! 憑依を!」


 「えっ!?」


 ハム子はこちらへ振り返って、戸惑った表情を見せる。


 「ソイツらは処刑女よっ!」


 私の焦った表情を目にすると、ハム子は再びパラソル少女と貴婦人へ向き直った。


 「あっ、アレがっスか!?」


 初めて処刑女をの当たりにしたハム子は、自分の置かれた状況にようやく気付く。


 処刑女は何を仕掛けてくるか分からない。生身なまみでいるのはあまりに危険だった。


 「“ロリポップ”っ!」


 「ハム蔵さん! お願いするっス!」


 それぞれのキラー・スタッフト・トイへ指示を送ると、二つの閃光と共に私達は憑依体へと姿を変える。


 こちらが臨戦態勢へ入ったのを見て、パラソル少女と貴婦人はさらに接近してくるかに思われたが、ヤツらは私達に気づかれた途端その場でピタリと止まり、一歩も動こうとはしなかった。


 数十メートルは距離を置いたまま、二体とも横並びで立ち尽くしているのだ。


 視界の端では“お辞儀のアサブクロ”が進行を続けていたが、そちらも同様に距離が空いていたため、もっと近づいた時でも対処は遅くないだろう。


 私はパラソル少女と貴婦人を見やったまま身構えると、冷や汗が頬を伝う。


 (さあ……、どうでるつもり……!)


 すると、僅かに浮いていた貴婦人は地面へ着地する。


 「……」


 一瞬ののち、貴婦人のドレスのスカート内部がうごめきだした。

 中に大量の何かがあるようだ。


 (また武器を隠しているのか?)


 警戒していた直後、貴婦人の足元から薄い黒い布が四方へ勢い良く流れ出てきた。


 「っ!」


 「何スか!?」


 それは貴婦人を中心に瞬く間に広がっていき、工事現場の地面をみるみる内に飲み込んでいく。


 黒い布の広がりは留まることを知らず、私達の足元まで迫ってきた。


 「わっ!?」


 「ひっ!?」


 咄嗟に触れまいと互いに跳ぶ。


 ハム子はその場で、私は跳躍力を生かし後方へ跳んだが、黒い布は一瞬で足元を通過し、私達はその上に着地してしまう。

 また、私が後ろへ跳んだせいで、ハム子とはさらに離れてしまった。


 貴婦人を中心に波紋のように広がり続けていた黒い布は、徐々に静まると平らになり、工事現場の大半が黒い床と化したのだ。


 「これは一体……」


 私は足元の黒い布を見つめ観察していると、マンホール程の大きさをした瞳を閉じたマークが無数に浮かび上がってきた。


 「っ!?」


 そのマークは、広大な黒い布全体に隙間なくしるされていた。


 視界の左端から近づいてくる“お辞儀のアサブクロ”の位置を確認しようと、一瞥いちべつした次の瞬間――。


 刃物を抜くような金属音と、肉を貫く水気を帯びた音が響いた。


 「ひっ!? 何スか!?」


 「っ!?」


 二人して“お辞儀のアサブクロ”へ顔を向けると、ヤツの体には無数の槍が突き刺さっていた。

 銀色に輝き二メートル近くあるそれは地面から生えており、槍と言っても先端へ向けて細長く尖った円錐形のモノ。

 まさしく騎槍きそう、柄の付いていないランスであった。


 “お辞儀のアサブクロ”が暴れ回ると床からはさらに騎槍きそうが勢いよく生え、その体を貫く。


 「レイッ……」


 全身を貫かれた“お辞儀のアサブクロ”は断末魔を最後に動かなくなると、魔力が湧き出し貴婦人へと吸収された。


 肉体が黒いちりとなって消滅すると、全ての騎槍きそうは床へ引っ込んだ。


 (あの貴婦人、床を使って攻撃してくるのか!)


 私は肩から生えている憑依体の右腕を動かした。


 その瞬間――。

 腕の真下にある閉じた瞳のマークが全て見開かれた。

 さらにそれらのマークと隣接するマークが赤く変化すると、ワンテンポ遅れてそちらのマークも同じ数だけ見開かれる。


 「えっ?」


 呆気に取られていると、最初のマークから騎槍きそうが一斉に飛び出し憑依体の右腕を貫いた。


 「わっ……!」


 遅れて赤くなったマークからも騎槍きそうが一気に飛び出す。


 何も触れていない騎槍きそうはすぐに引っ込んだが、貫いている方は床から伸びたままだった。


 事態を悪化させたのは、貫かれた反動で左腕も動かしてしまったことである。


 「しまったっ!」


 左手側の床へ目をやると、閉じた瞳のマークは真上に物を感知した途端に見開き、それに反応して隣接するマークは赤くなり見開かれる。


 直後、憑依体の左腕も貫かれ私は動けなくなってしまった。


 「ひい~っ!? 何スか!? 何の音っスか!?」


 「動くな! ハム子っ!」


 私は怒鳴りつけるように声を荒らげた。


 「はひぃっ!」


 ハム子はいつものビクつくポーズを取ると、その場で固まる。


 「ハム子! 床のマークは何もない状態から物体を感知すると、槍が飛び出す仕掛けになってるわ!」


 ハム子は背中を向けたまま答える。


 「なぜそう言い切れるんスか!? 足元のもマズいのでは!?」


 「マーク出現時に既に上にあった物は例外よ。でなきゃとっくに貫かれてるわ。

 あと……、私は両腕を貫かれて動けなくなったわ……」


 「ウサさんっ!? それじゃあ……もっ、もう……飴舐めれないじゃないっスかあ!?」


 ハム子は泣きそうな声を発した。


 「憑依体の腕よ! 馬鹿っ!」


 「へあー……、心臓が止まるかと思ったっス……。

 しかし、この後どうすれば良いのでしょう?」


 「じっとしているしかないわ」


 「それでは、対抗できないじゃないっスか!」


 正面で少し距離を置いて、肩を動かしながら話すハム子へ向けて言葉を続けた。


 「落ち着きなさい、ハム子。動けないのは私達だけじゃないわ。

 見て、パラソル少女を。ヤツもあの場から動こうとしないでしょ。

 この床槍しょうそうは無差別に反応するトラップ。“お辞儀のアサブクロ”がやられたのがその証拠よ。

 こっちからは何もできないけど、動かなければヤツらもこれ以上は何もできないわ」


 「なっ、なるほど……」


 「さらに言えば、ゾーンの展開時間は調べてあるわ。

 発生から閉鎖までは17分間。

 ゾーンが閉じるのを待って、閉鎖直後にこちらがゾーンを再展開し、貴婦人が床槍しょうそうを広げる前に仕留めるわ。

 何かあっても、こちらが発生権を持っている。私が閉じて、ハム子がすぐに展開すれば押し切れる!」


 「りょ、了解っス……」


 不安気なハム子のずっと先でたたずむ、パラソル少女と“床槍しょうそうの貴婦人”を見ながら思った。


 (そうだ……このまま何もなければ、勝てる!)


 すると、パラソル少女の体がビクついた。


 「んっ……?」


 パラソル少女は首を左右に一回ずつ傾けると、そのたびにボキボキと音を鳴らした。


 首を垂直に戻すと、今度は首が上へ向かって伸び始める。


 「何っ!?」


 「ええっ!?」


 その後もパラソル少女の首は“ろくろ首”のように真っすぐ伸び続け、十メートル程の長さまで達するとパラソル部分が開き、パラソル少女の足は地面を離れそのまま上へと浮き上がった。


 尚も上昇を続け、建物の十五階相当の高さまで達するとその高度を維持したままピタリと止まる。


 「……」


 「あわわ……」


 二人してヤツの挙動をうかがっていると、パラソル少女は両腕を真横へ伸ばし手首から指先までを真上へピンと上げる。


 直後、開かれたパラソルが波打ちだした。


 「何をするつもり……」


 パラソル部分の挙動が激しくなると、その部分が黒い布へと変化し、私達の上空を覆うように広がりだしたのだ。


 「なっ!?」


 「ひいっ!?」


 たちまち地面はかげり、辺り一帯は黒い空に覆われていく。


 その範囲は“床槍しょうそうの貴婦人”の黒い床と同じ規模であった。


 やがて上空を覆う黒い布の中央から伸びるパラソル少女の首を中心に、ぼんやりと白い巨大な丸が浮かび上がり始める。


 「何だ? ……あっ!」


 「ひゃあああぁぁ~っ!!」


 形がはっきりしだした白い丸をの当たりにし、ハム子は悲鳴を上げた。


 黒い布の中央に現れたのは、巨大な女の顔だったのだ。


 ひたいの髪の生えぎわから鼻先までが出現しており、青白い顔面のふちに当たる隙間からは枝垂桜しだれざくらのような髪の毛が垂れ下がっている。


 細めている生気のないうつろな瞳は、私達の様子をうかがうように見つめていた。


 巨大な顔が出現しきると、空を覆う黒い布部分からは黒い床同様に銀色に輝く騎槍きそうが大量に生えだした。


 「あわわわ……」


 「くっ……!」


 (アイアン・メイデン、振り子(やいば)――。いずれの処刑女も固有の処刑具の姿をしていたが、この処刑女は……――)


 上空に浮かぶ巨大な青白い女の顔と目が合いながら、私はヤツの正体を導き出すのだった。


 (――“り天井”だ……!)


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