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メスガキラー  作者: わっか
吊り天井編

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第67話 バーンアウト

 「マジ……?」


 呆気に取られていると一体化したキラードール“恥じらいの振り子”は、地響きを起こしながら一歩一歩地面を踏み締めると、四本の腕を振り回しながらこちらへ駆け出してきた。


 「うわっ!?」


 「くっ!」


 迫りくるヤツを前に、私とギャル子は咄嗟に左右の通路へ跳んで躱す。


 周囲の壁面を切りつけながら、私達が居た場所へやいばを振るい、通路をやや通り過ぎたところで静止すると、“恥じらいの振り子”は私の方へ体を向けた。


 「ったく……! いい加減しつこいのよ!」


 私はすぐに体勢を整えギチギチと音を立てながら腕を縮ませると、“恥じらいの振り子”目掛けて構えた。


 「はあっ!」


 勢い良く伸ばし鉤爪(かぎづめ)を突き立てながら刺し殴る、刺打撃しだげきたる“ストレート”が“恥じらいの振り子”へ放たれる。


 だが、ヤツは四本の腕全てのやいばを重ね合わせると、私の攻撃を受け止めた。


 「なっ!?」


 “恥じらいの振り子”は地面をこすりながら多少後退するも、防がれてしまったのである。


 「やあーっ!」


 透かさず、ギャル子は“恥じらいの振り子”の背後から連続して突き攻撃を食らわせる。


 その抵抗を受けるとヤツはギャル子へ向き直っていき、私はその隙に迂回して彼女と合流した。


 「こんな狭苦しいところじゃ、らちが明かないわ!」


 「あーしも確実なとこに行けたらなぁ……」


 私達がぼやいていると“恥じらいの振り子”は膝を曲げてから地面を強く蹴り上げ、腕を振り回しながら私達へ向けて走り出す。


 さらに周囲の壁面には黒いラインが次々と引かれる。


 「わあ~っ!?」


 「くそっ!」


 これには、二人揃って背を向けて逃げ出すしかなかった。


 「ちょっと、ギャル子っ! もっと開けたところはないの!?」


 私は走りながら尋ねる。


 「ここを出たところなら、次の駅への通路があったはずだしぃ~!」


 ギャル子は私の後ろを走りながら答えた。


 確かに、ここへ来る前に見た案内板にはそう記載されていた。


 「よし! そっちに向かうわよ! ギャル子、案内して!」


 「え~とぉーたしかぁ……、こっち!」


 私を追い越してギャル子が通路を駆けていき、私もそれに続く。


 後ろでは私達を追って、絶えず重い足音と刃物を振り回す音がとどろいていた。


 “下町商店街”を抜けると、直線が続く通路へ出る。


 道の幅は人が六人横並びになれる程度で、天井までは先程より高さがあるが、私が飛び回れる余裕はない。

 通路の奥には壁が見え、どうやらT字路になっているようだ。


 私達が通路を駆けると、足音が反響する。

 雰囲気は一転され、ここが地下であることを再認識させられた。


 「ところでギャル子っ! 何か策はある訳?」


 私は走りながら問い掛けた。


 「あそこが戦い辛かったのは、ウサちゃんだけじゃないよ! あーしもあの子に逃げられない場所を探してたしぃ!」


 「それで? どうするつもり?」


 「あーしの能力を使えばいいんだよ! ウサちゃんっ!」


 「あんた、丸くなるだけでしょ……。完全防御としては優秀だと思うけど」


 「それクマちゃんが言うところの固有能力だしぃ~!」


 ギャル子は、もどかしそうにしながら訂正してくる。


 「えっ!? それじゃあ、あんたの特殊能力って?」


 私達は通路の中ほどに来たところで足を止め、振り返った。


 「ここなら躱せないし……あーしを信じて、ウサちゃん!」


 「……、任せていいのね?」


 ギャル子はいつものピースサインのつもりで目元へ向けて腕を曲げると、ウインクしてくる。


 「あーしにお任せだしぃ~!」


 「分かったわ」


 私が小さく頷くと、“恥じらいの振り子”が直線状の通路へ姿を現した。


 「私がすることはある?」


 私はヤツから目を離さずに尋ねた。


 「さっきのビヨヨンパンチをお願い! あの子がウサちゃんの攻撃を受け止めている隙にやっちゃうから!」


 「了解よ!」


 私は四股しこを踏み終えたような体勢で腰を落とすと、右腕を縮めていく。


 “恥じらいの振り子”は地響きを起こしながらこちらへ走り出すと、速度を維持したまま地面から足を離す。

 二本だった足は中央の四本をそれぞれ二本の枝切りバサミに、残った左右の端にある二本をそれぞれ鎌に変える。

 四本の腕の先の振り子(やいば)と足の各刃物を、通路いっぱいに隙間なく振り回しながら迫ってきた。


 正面への逃げ道は断たれたのだ。


 「ウサちゃん……!」


 ギャル子は不安気な声を上げる。


 「平気よ!」


 今度は左腕を縮め、私は二本の腕を構えた。


 「これなら受け止めざるを得ないでしょ!」


 ギャル子は私の後ろに立つと声を掛ける。


 「ウサちゃんっ! ビヨヨンパンチしたら上に跳んで! 後はあーしがかますから!」


 「頼んだわよ、ギャル子!」


 接近してきた“恥じらいの振り子”を前に、私は二本の腕の圧縮を解く。


 「おおらぁぁーっ!」


 勢いよく強烈な刺打撃が放たれた。


 私が構えていたことに気づいていた“恥じらいの振り子”は、瞬時に足を三本の枝切りバサミに変え、腕の先にある四本のやいばも重ね合わせると、上下でこちらの双方の攻撃を受け止めた。


 私の“ストレート”が直撃すると勢いに押され、ヤツの体は通路の奥へ押し戻される。


 「今よ! ギャル子っ!」


 私は押しのけた腕を伸ばしたまま、その場から跳んだ。


 「オッケー! ウサちゃんっ!」


 ここの通路はさほど高さがないため、背中が天井につく。

 その状態でギャル子を見ると、彼女はその場でうずくまり、球体形態へと姿を変えた。


 (さあ、見せてみなさい……、あんたの能力!)


 すると、ギャル子はその場に留まったまま急速に縦回転を始め、地面を削りながら後方へ瓦礫がれきと粉塵を巻き上げた。


 その様子は車がレースのスタート前にタイヤブレーキを掛けることによって起きる空転、いわゆるバーンアウトである。


 「おっしゃ~っ! 突撃だしぃ~っ!」


 自らの声でスタートを切ると、高速回転したまま直線の通路を一気に駆け抜けた。


 私の下方を通過したところで一瞬だけ腕を出し、杭で地面を突き上げると、そのまま“恥じらいの振り子”のふところへ突っ込んでいく。


 「うぅぅ~りゃああーっ!」


 「ホオォォ~……!」


 ギャル子が直撃すると、“恥じらいの振り子”は苦し気な声を上げる。


 激しい回転音を響かせる中、球体形態を僅かに解き腕や足先の杭や爪を突起させることで相手の体を削りながら全身を損傷させていった。


 (この回転音……! あの時――アイアン・メイデンの内部でやっていたのはこれか!)


 「どおおぉぉ~――」


 「ホオォォ~……!」


 「せええぇぇ~いっ!」


 球体状態のギャル子が貫通すると、ヤツの体は“振り子の処刑女”と“恥じらいの処刑女”に分かれた。


 二体ともぼろ切れのようになって、地面へ倒れ込む。


 「もらった!」


 着地した私は腰を落として右腕を縮め、“恥じらいの処刑女”へ狙いを定めた。


 頭部がない“恥じらいの処刑女”は、横たわった状態から手をついて起き上がろうとしている。

 だが、既に生まれたての小鹿のように弱々しかった。


 「この技は――今日を持ってモノにさせてもらうわ!」


 私を見るように体を向けたヤツへ向けて、腰を回しながら右肩を手前へ流す。


 「ストレートおぉぉーっ!」


 「ンッ……!」


 刺打撃しだげきが直撃すると、“恥じらいの処刑女”の体は砕け弾け飛んだ。


 貫通直後、ギャル子は球体化を解き両足で急停止すると、地面へ体を打ち付けた“振り子の処刑女”へ向き直る。


 歯を見せてニカッと笑うと再び球体形態になり、バーンアウトののち杭を突き立ててヤツの上へ跳ぶと、高速回転しながら押し潰した。


 「ホオォォ~……」


 体が半分以上磨り減ると、“振り子の処刑女”はバラバラに砕ける。


 周囲の残骸からは二つの魔力が湧き出し、それぞれ私とギャル子へ吸収された。


 私達は互いに向かい合うと、ギャル子は嬉しそうに手を上げる。


 「ウサちゃ――」


 直後、処刑女を撃破したことでゾーンが閉じられ、私達の間に通行人が現れるとギャル子の手しか見えなくなった。


 「わあっ!?」


 他の人を交わしながら合流すると、私達はハイタッチをする。


 「やるじゃない! ギャル子!」


 「ウサちゃんも完ぺきだったしぃ~!」


 そのまま自分の手を見つめると、私は拳を強く握りしめる。


 (私は……まだまだ強くなれる――!)

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