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メスガキラー  作者: わっか
吊り天井編

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第63話 セクハラ

 「はあー……」


 「ハムちゃん、そんな落ち込むことないしぃ~」


 「……」


 私は駅の地下街で、前を歩く二人の後に続いていた。


 クマ子と別れた後、残った面々でキラードールの捜索を再開したが、見つけることは叶わず帰宅することとなったのだ。


 「ん?」


 両サイドに様々なテナントが並ぶ通路を進んでいると、ギャル子はとある店先で足を止める。


 「わあ~っ! ウサちゃん、ハムちゃん! これ超可愛くない?」


 ギャル子の気を引いたのは水着だった。


 夏本番を間近に控え、店頭には新作、店内には水着を含めプールや海水浴関連の商品が並ぶ。


 「ギャルさんなら、何でもお似合いではないでしょうか。自分には派手過ぎるっスけど」


 「そんな事ないしぃ! ハムちゃんはビキニくらい大胆な方が絶対可愛いしぃ~!」


 テンションが上がり始めたギャル子は何かをひらめくと、開いた手に握り拳をポンと乗せ、私達へある提案をしてくる。


 「そーだっ! あーし、みんなと海行きたいっ!」


 「うっ、海っスか?」


 「んー……」


 その案に、私は肯定的であった。


 此処ここに至るまで、現状の理解や戦い尽くめで気の抜けない状況が続いていた。

 クマ子の気晴らしも兼ねて、少し息抜きがあってもいいのかもしれない。


 「うん、そうね。良いじゃない?」


 「えっ?」


 「うんうん! ウサちゃんもそう思うよね! 行こう? 行こうよ! ハムちゃんっ!」


 「それは構いませんが、海水ってみませんか?」


 「……」


 私はハム子へ視線を移す。


 「それって日焼けの所為せいじゃない? ちゃんとケアしておけば大丈夫だしぃ、行かなきゃ損だよ!」


 「そこまでおっしゃるのなら。

 確かにもうすぐ夏休みですし、一つくらい夏らしい事をするのも良さそうっスね」


 (そうか、もうそんな時期か。停学のせいで既に長期休みの気分だ)


 「ええ~っ! それまで待てないしぃ~! 今度の三連休、どこかで予定合わせてみんなで行こうよ~」


 「自分は大丈夫っスけど、ウサさんは?」


 ハム子は私の発言を求めて目配せをしてくる。


 「私は平気」


 「おーしっ! 決まりだしぃ~! クマちゃんにはあーしから連絡しとくね!」


 興奮し出すギャル子を余所よそに、ハム子は店先に並ぶ水着をおもむろに見だした。


 「水着も随分買ってないっスねぇ」


 「それじゃあ、あーしがハムちゃんにぴったりなの選んであげる!」


 「えっ!?」


 ギャル子はハム子の手を引いて店内へ連れ込むと、手に取った水着をハム子の胸にあてがい始めた。


 「これなんかいいんじゃない?」


 「ほとんどひもじゃないっスかぁ!?」


 しばしのやり取りの末、ハム子が一人で物色を始めると、ギャル子は私の方へやってくる。


 「ウサちゃんは新調しないの?」


 「私はいいわ……」


 「う~ん……」


 ギャル子はこちらを見ながら伸ばした人差し指を顎に当てて考え込み、ハッと何かを思いつくと声を掛けてきた。


 「ウサちゃん、ちょっといい?」


 「ん?」


 ギャル子に付いて行くと試着室へ連れられる。狭い室内に二人で居るのは実に窮屈に感じた。


 「それで、何?」


 私はギャル子を背にしながら、姿見に映る彼女へ向かって問い掛ける。


 「うりやぁっ!」


 「ひゃっ!?」


 ギャル子は後ろから抱きつくと私の体をまさぐってきた。


 「ちょっと、ギャル子っ! んんっ……、止めなさいよ!」


 「お堅いこと言いっこ無しだしぃ~!」


 生娘きむすめを襲う悪代官のように、ギャル子は私の体を上から下まで触りまくる。


 「ちょっとぉ……んん……――ぶあっ!」


 たまらず試着室から飛び出すが、ギャル子は悪びれる様子もなく感触を確かめるように手をニギニギさせながら納得した表情をする。


 「はあー……、はあー……、何なのよ……?」


 「うん! 大体わかった! 任せてウサちゃんっ!」


 ギャル子はいい笑顔でウィンクしながら、私へ向けてサムズアップをしてくる。


 「訳わかんない……」


 ただのセクハラである――。


 ギャル子は満足そうにすると、ハム子の元へ戻っていく。


 「ハムちゃん、決まったぁ~?」


 「いえ……、こう種類が多いと目移りしちゃうっスねぇ」


 「ハムちゃんなら、これが似合うよぉ!」


 「ですから、ビキニは――」


 「これ下さい!」


 ギャル子は自分の分と、勝手に選んだハム子の水着をレジへ持っていく。


 「ギャルさんっ!?」


 「ハムちゃんなら絶対似合うから! あーしが保証するしぃ!」


 「そう言われましても……」


 ハム子の静止を振り切り、二人分の会計を済ませる。


 「ちょおっ!? ギャルさん!? いいっス! 自分で払うっス!」


 「あーしが勝手に決めたんだし、ハムちゃんは気にしないで。

 ハムちゃんを誘わなかったお詫びも兼ねてるしぃ……ね!」


 「はっ、はい……」


 ギャル子の心遣いを嬉しく思いつつも、ハム子はどこか憂鬱そうに会計が進む水着を見つめていた。


 「これ……絶対着ないといけないじゃないっスかぁ……――」




 「明日はどうする?」


 改札が見えてきたところで、私は次の予定を二人に尋ねた。


 「クマちゃんはお休みかなぁ~。無理されても困るしぃ~」


 「そうね、クマ子にはしばらく来なくて良いと釘を刺しておきましょう。

 それで、ハム子は?」


 「自分は一日空いてるっスよ」


 「おーしっ! それじゃ明日もハムちゃんの特訓で決まりだしぃ!」


 引き続きハム子に戦闘経験を積ませるため、私達は待ち合わせの約束を取り付けるのであった――。



 翌日、私は昨日の駅地下街を訪れる。


 駅構内の壁にもたれ掛かっていると、スマートフォンに届いていたメッセージに気が付いた。


 「あぁ?」


 内容に目を通すと、私は顔をしかめる。


 「ウサちゃ~ん!」


 直後、遠くからギャル子が大きく腕を振りながら駆け寄ってきた。

 両手には大きく膨らんだ紙袋を持っている。


 「ウサちゃん、お待たぁ~」


 「別に待ってないわ。それより見た?」


 私の言いたい事が伝わるように、手にしていたスマートフォンを軽く振ってみせる。


 「えっ? うん。ハムちゃん遅れちゃうっぽいね」


 届いていたのは、ハム子からのメッセージだった。

 寝坊したためこれから家を出るとの事だ。人が来てやっているというのになんて奴だ。


 私は不満気な顔をしながら、ギャル子の紙袋に目をやる。


 「何それ?」


 「ん? これ? これはね、ウサちゃんへのプレゼント!」


 そう言うと、ギャル子は紙袋の口を開いて私に中身が見えるようにしてきた。


 中には水着や衣服が大量に入っている。


 「これを……私に?」


 「いやぁ~、もう捨てちゃおうと思ってたけど、取っておいて良かったしぃ~!

 ウサちゃんが着られそうなやつだからちょっと古いけど、良かったら貰ってくれない?」


 「いいの?」


 「もち!」


 昨日の買い物の際、私に新調する余裕がないのを目にして気に掛けてくれていたのだろう。

 水着だけでなく普段着まであるのは非常に助かるので、ありがたく厚意を受けることにする。


 「ありがとう」


 「うん!」


 ギャル子は嬉しそうに微笑む。


 「良くサイズが分かったわね。まあ、私はちょっと大きくても着ちゃうけど」


 「ぷぷぷっ! ウサちゃんの体は測定済みだしぃ~」


 ギャル子は両手で揉む仕草をする。


 「……、普通に聞きなさいよ……」


 対応は強引だが、ハム子の水着の時といい、相手への気配りと持ち前の明るさが彼女の魅力なのだろう――。

 ギャル子の態度に呆れたり疲労する事はあるが、結果的に気持ちは明るく前向きになれている気がした。


 「それじゃ、ここに入れておくから、帰りに持ってってね」


 中身を確認し終えたところで、ギャル子は紙袋をコインロッカーに入れると鍵を渡してきた。


 それを受け取ると、ハム子が来るまでの時間潰しに何処へとも決めずに私達は歩き出した。


 「そういえば、こうしてウサちゃんとゆっくり話す機会ってなかったね?」


 「確かにね」


 「あーしを独占中のウサちゃんには、スペシャルサービス! 今なら何でも答えちゃうから、じゃんじゃん聞いちゃってね!」


 ギャル子は私へ期待の眼差しを向ける。


 「いや、特にない」


 「へえ……?」


 彼女は僅かに口を開けて、スンとした表情になる。


 「分かった、分かった! ちょっと待って……」


 私は質問を考える。


 「そうね……じゃあ、ギャル子はさ、このドール・ゲームでもし望みが叶えられるとしたら何を望むの?」


 「えっ? あーし? う~ん……」


 予想外の問いであったのか、ギャル子は少し考えこむと寂しげな表情で答えた。


 「あーしは……大切な人の気持ちに寄り添えるようになりたいかな。

 相手の気持ちをちゃんと理解してあげられていたら、傷つける事もなかったのにね……」


 「……?」


 ギャル子は伏し目がちのまま、独り言のように呟いていた。

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